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皇子の野心1
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「こんばんは」
いつものような普段使いの着物を着て、滝が夜花の元を訪れたのは最終試験の結果が出される前の事だった。
「……こんばんは。いらっしゃいませ」
『吉野』の制服を着た夜花は滝の姿を見て目を大きくさせてから、必死になって気持ちを落ち着かせて一礼をする。
「いつもの通り、肩と腰をお願いしていいかな。頭のマッサージも少し」
「はい、畏まりました」
慣れた様子で着物を脱ぎ始める滝がいる一方、夜花は可哀想なほどに手を震わせて準備を始める。
「……まだ、俺の花卉は見える?」
上半身を晒した滝がゆっくりとベッドに上がってそう尋ねると、夜花は虚を突かれて少し動きを止めてから、遠慮がちに滝を見る。
こちらを優しく見ている滝の胸の辺り、体の奥に優しい色をした花卉を感じた。
「……はい。今は……穏やかに淡く光っています。……少し落ち込んでいらっしゃいますか?」
「誰かさんの所為でね」
悪戯っぽく笑う滝に、夜花は申し訳なさそうに微笑んで手に香油を馴染ませた。
「君は面接でなかなか好印象だったよ」
「……滝様は、本決定の会議にご参加されるのですか?」
「するよ。俺の桜姫を決めるための試験でもあったから」
「…………」
その答えに夜花は思わず口を閉ざし、以前に棘千代に言われた言葉から浮き出る『不正』という単語が頭をチラついた。
「夜花は自分が不正で合格すると思っているの?」
優しく頭皮のマッサージを受けながら滝が問うと、アイマスクとタオルの向こうから夜花の戸惑った声が答える。
「……三次までは自力で進む事ができたと思っています。ですが……」
「次期皇帝になる男が、自分で見込んだ花女を桜姫にしたいと思って悪いだろうか?」
だが、滝の声はしっかりとしていた。
言葉の通り、滝の気持ち、意思、行動は何ら非をつける所はない。
それは結婚をする時に、自分が恋をした女性を選んで何が悪いと言われているのと同義だ。
「君は自分に自信がないんだろう」
黙って施術をしている夜花に滝がそう言うと、思わず夜花の手が止まった。
「自分の花女という職業には誇りがある。努力もした。だが夜花という一人間としては、他の花女に対して劣等感があって、田舎から出て来たという負い目もある。華々しい先輩に比べて、自分は地味だという劣等感もある。違うか?」
「…………」
思っている事を全て言われ、夜花は黙ったまましばらく呼吸を整え、それから震える手で手技の続きを再開しようとする。
「!」
が、その手を滝が掴んで起き上がった。
固まった夜花が咄嗟に手を引こうとする中、パサッと滝の顔の上に載せられていたタオルやアイマスクが落ちる音がする。
「今の発言は君の自尊心を傷付けたかもしれない。だが謝らないよ。これは夜花が自分で乗り越えて、一つ高い所へ上がらないとならない試練だ」
「分かって……ますっ」
やっと夜花の口から言葉が出、滝の視線の先に映るのは顔を赤くして涙ぐんでいる夜花の顔だった。
「私だって、滝様に相応しい女性になりたいです! 田舎から出てきて、また花序四位で、周りの姉さんたちは綺麗な人ばかりで、滝様が仰る通り私は劣等感だらけの人間です! なのに……っ、なのに、……側に……っ、いたいっ」
極限まで揺さぶられ、夜花の口からずっと心の底に秘めておこうと思った本音が漏れ出ていた。
「不正で合格したって言われてもいいんです……っ、宮廷に上がって私を良く思わない人からいびられたっていい……っ、滝様のお側にいたいです……っ、こんな我儘で自分の事しか考えていない私でも、いいんですか!?」
叫ぶような声が部屋の空気を揺らし、その振動でアロマキャンドルの火が揺れた気がする。
「私、滝様が思っているほど綺麗な子じゃないんです! いつだって滝様の事を考えて自分が滝様の一番になりたいって思って、それを勉強やお仕事で誤魔化して……。自分の本音にも気付いていなかった、嘘の天才なんです!」
叩き付けるような声を滝は真っ直ぐに受け止め、そっと涙に濡れた夜花の頬を撫でる。
「じゃあ、君は本当の俺も受け入れてくれるか?」
滝の手が夜花の首の裏に伸び、結び目を解いてしまうと夜花の下着に包まれた胸元が露わになった。
「俺だって君の事しか考えていない。本当なら仕事も皇太子という立場も放り出して、毎日だって君の元へ通って抱きたいと思っている。君の肌も、髪の香りも、声も、全てが俺を狂わせている。俺だって……、君が理想に思うような皇子様じゃないんだ。ただの生身の男なんだ」
更に滝はそのまま夜花の袴や下着までにも手を掛け、剥ぐように乱暴に脱がせてしまって強引にベッドに押し倒した。
「……そんな俺でも好きだと言ってくれるのなら、何も言わず宮廷に上がって俺の側にいるんだ」
「……っ」
ずっと欲しかった強引な言葉は、夜花の女の本能を根本から揺るがせて攫っていった。
夜花の体の上に滝が覆い被さり、唇を奪いながら大きな手が肌をまさぐる。
白く滑らかな肌の上に、滝の指先が美しい線を描くように這いまわり、緩やかな丘陵を掌が撫でながら夜花の体に雌のスイッチを入れてゆく。
「あっ……、ぁ」
滝の指しか知らない夜花の体は、すぐにそれに反応して花開こうとしていた。
自分の体の奥が甘露な蜜を含んだ果実のように、瑞々しく濡れてゆくのを感じて夜花は恥らうが、自らの心内を晒してしまった今では、その本能すら怯えながらも受け入れようとしていた。
自分の体を隠そうとする弱虫な手を叱咤し、逆に夜花の手は積極的に滝の背中に回って彼の背を撫でる。
滝の唇が離れてツヤツヤと濡れた夜花の唇から吐息が漏れる。薄っすらと開いた夜花の視線の先には、いつもの紳士の仮面を捨てた野獣のような目をした滝がいた。
「俺は今、この国の皇太子でも何でもない。ただ夜花を乱暴に喰い散らかす事しか考えていない、ただの雄だ」
ギラギラと輝く黒い目に射抜かれて夜花は自分の花卉が震えるのを感じ、夜花の本能が滝の言葉の通り乱暴に喰い散らかされる事を望んでいた。
いつものような普段使いの着物を着て、滝が夜花の元を訪れたのは最終試験の結果が出される前の事だった。
「……こんばんは。いらっしゃいませ」
『吉野』の制服を着た夜花は滝の姿を見て目を大きくさせてから、必死になって気持ちを落ち着かせて一礼をする。
「いつもの通り、肩と腰をお願いしていいかな。頭のマッサージも少し」
「はい、畏まりました」
慣れた様子で着物を脱ぎ始める滝がいる一方、夜花は可哀想なほどに手を震わせて準備を始める。
「……まだ、俺の花卉は見える?」
上半身を晒した滝がゆっくりとベッドに上がってそう尋ねると、夜花は虚を突かれて少し動きを止めてから、遠慮がちに滝を見る。
こちらを優しく見ている滝の胸の辺り、体の奥に優しい色をした花卉を感じた。
「……はい。今は……穏やかに淡く光っています。……少し落ち込んでいらっしゃいますか?」
「誰かさんの所為でね」
悪戯っぽく笑う滝に、夜花は申し訳なさそうに微笑んで手に香油を馴染ませた。
「君は面接でなかなか好印象だったよ」
「……滝様は、本決定の会議にご参加されるのですか?」
「するよ。俺の桜姫を決めるための試験でもあったから」
「…………」
その答えに夜花は思わず口を閉ざし、以前に棘千代に言われた言葉から浮き出る『不正』という単語が頭をチラついた。
「夜花は自分が不正で合格すると思っているの?」
優しく頭皮のマッサージを受けながら滝が問うと、アイマスクとタオルの向こうから夜花の戸惑った声が答える。
「……三次までは自力で進む事ができたと思っています。ですが……」
「次期皇帝になる男が、自分で見込んだ花女を桜姫にしたいと思って悪いだろうか?」
だが、滝の声はしっかりとしていた。
言葉の通り、滝の気持ち、意思、行動は何ら非をつける所はない。
それは結婚をする時に、自分が恋をした女性を選んで何が悪いと言われているのと同義だ。
「君は自分に自信がないんだろう」
黙って施術をしている夜花に滝がそう言うと、思わず夜花の手が止まった。
「自分の花女という職業には誇りがある。努力もした。だが夜花という一人間としては、他の花女に対して劣等感があって、田舎から出て来たという負い目もある。華々しい先輩に比べて、自分は地味だという劣等感もある。違うか?」
「…………」
思っている事を全て言われ、夜花は黙ったまましばらく呼吸を整え、それから震える手で手技の続きを再開しようとする。
「!」
が、その手を滝が掴んで起き上がった。
固まった夜花が咄嗟に手を引こうとする中、パサッと滝の顔の上に載せられていたタオルやアイマスクが落ちる音がする。
「今の発言は君の自尊心を傷付けたかもしれない。だが謝らないよ。これは夜花が自分で乗り越えて、一つ高い所へ上がらないとならない試練だ」
「分かって……ますっ」
やっと夜花の口から言葉が出、滝の視線の先に映るのは顔を赤くして涙ぐんでいる夜花の顔だった。
「私だって、滝様に相応しい女性になりたいです! 田舎から出てきて、また花序四位で、周りの姉さんたちは綺麗な人ばかりで、滝様が仰る通り私は劣等感だらけの人間です! なのに……っ、なのに、……側に……っ、いたいっ」
極限まで揺さぶられ、夜花の口からずっと心の底に秘めておこうと思った本音が漏れ出ていた。
「不正で合格したって言われてもいいんです……っ、宮廷に上がって私を良く思わない人からいびられたっていい……っ、滝様のお側にいたいです……っ、こんな我儘で自分の事しか考えていない私でも、いいんですか!?」
叫ぶような声が部屋の空気を揺らし、その振動でアロマキャンドルの火が揺れた気がする。
「私、滝様が思っているほど綺麗な子じゃないんです! いつだって滝様の事を考えて自分が滝様の一番になりたいって思って、それを勉強やお仕事で誤魔化して……。自分の本音にも気付いていなかった、嘘の天才なんです!」
叩き付けるような声を滝は真っ直ぐに受け止め、そっと涙に濡れた夜花の頬を撫でる。
「じゃあ、君は本当の俺も受け入れてくれるか?」
滝の手が夜花の首の裏に伸び、結び目を解いてしまうと夜花の下着に包まれた胸元が露わになった。
「俺だって君の事しか考えていない。本当なら仕事も皇太子という立場も放り出して、毎日だって君の元へ通って抱きたいと思っている。君の肌も、髪の香りも、声も、全てが俺を狂わせている。俺だって……、君が理想に思うような皇子様じゃないんだ。ただの生身の男なんだ」
更に滝はそのまま夜花の袴や下着までにも手を掛け、剥ぐように乱暴に脱がせてしまって強引にベッドに押し倒した。
「……そんな俺でも好きだと言ってくれるのなら、何も言わず宮廷に上がって俺の側にいるんだ」
「……っ」
ずっと欲しかった強引な言葉は、夜花の女の本能を根本から揺るがせて攫っていった。
夜花の体の上に滝が覆い被さり、唇を奪いながら大きな手が肌をまさぐる。
白く滑らかな肌の上に、滝の指先が美しい線を描くように這いまわり、緩やかな丘陵を掌が撫でながら夜花の体に雌のスイッチを入れてゆく。
「あっ……、ぁ」
滝の指しか知らない夜花の体は、すぐにそれに反応して花開こうとしていた。
自分の体の奥が甘露な蜜を含んだ果実のように、瑞々しく濡れてゆくのを感じて夜花は恥らうが、自らの心内を晒してしまった今では、その本能すら怯えながらも受け入れようとしていた。
自分の体を隠そうとする弱虫な手を叱咤し、逆に夜花の手は積極的に滝の背中に回って彼の背を撫でる。
滝の唇が離れてツヤツヤと濡れた夜花の唇から吐息が漏れる。薄っすらと開いた夜花の視線の先には、いつもの紳士の仮面を捨てた野獣のような目をした滝がいた。
「俺は今、この国の皇太子でも何でもない。ただ夜花を乱暴に喰い散らかす事しか考えていない、ただの雄だ」
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