【R-18】死神元帥はただ一人のために策謀する

臣桜

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死神の怒り2

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 ギィンッと凄まじい音がし、シャーロットは肩を跳ねさせた。

「奥さま、ご無事ですか!?」

 そこにブレアとセドリックが駆けつけ、シャーロットを目隠しと猿轡から解放する。

「ブレア! セドリック! 妻に触れるなよ!」

 戦っていてなお部下の動向を一喝する余裕がギルバートにはあり、それに男がさらに逆上する。

「お前は十月堂で俺の弟を反逆者に仕立てた! 牢獄で毒を呷った弟の嘆き、怒り! その身に受けろ!」

 上段から袈裟切りに振り下ろされた剣を、ギルバートは一歩踏み込むと同時に弾いた。

 剣がまだ軌道を描いているうちに上半身を滑らかにひねり、グルッと半円を描く上半身に続いて、左手が出る。

『死神の左手』と呼ばれるその手には、いつの間にか腰の裏から抜かれた短剣が握られていた。

 逆手に持った短剣は、そのままがら空きになった男の右胴を狙う。

『それ』が決まれば、男は内臓を傷つけられてあっけなく死ぬだろう。だがギルバートの隻眼にはいっさいの迷いはなく、見開かれた金の目は次の動きだけを考えていた。

 男の目は自分の右胴を見ていたが、その口元には――なぜか不敵な笑みがあった。

 命を引き換えにでも、何か策がある。
 そんな顔だった。

 次の一撃が決まろうとしていた時――。

「おやめください!」

 泣き叫ぶシャーロットの声が聞こえ、ギルバートはピタッと動きを止め後方にジャンプした。

 体勢を崩した男がなお剣を振るうが、その前に左手の短剣を捨てたギルバートが両手で剣を叩きつけると、あっけなく男の剣は弾き飛ばされた。

「ぐっ……」

 手が痺れ、男は利き手を押さえる。

 怯んだ男を容赦なく蹴り飛ばし、仰向けになった胸の上をギルバートの足の裏がドンッと踏みつける。

「ぐふっ」

 苦しげに呻いたと同時に、男の腰からゴロリと小瓶が落ちた。ギルバートはそれを眇めた目で見下ろし、冷静に部下に指示を出す。

「ブレア、セドリック。捕らえろ。館で取り押さえた者と一緒に後で尋問する」

「「はっ」」

 シャーロットの側から二人が離れ、入れ替わるようにギルバートが悠然と歩み寄る。

「大丈夫か? シャル。可哀想に……。こんなに泥で汚れて」

 シャーロットはすでにブレアとセドリックのマントを被せられていたが、ギルバートはそれを剥がして自分のマントを巻き付ける。

 いつも彼女を「シャル」と呼ぶ優しい目がそこにあるが、シャーロットは安堵してギルバートに甘えられない。

「あの方は……どうなるのですか?」

 短剣で荒縄を切られ、シャーロットはやっと解放される。

「どう……って。尋問をしてすべてを吐かせたあと、しかるべき罰を与えられるだろう」

 命のやり取りをした相手だというのに、ギルバートはもうすでに興味を失っているようだった。

「君の肌に触れた罰として、生爪をすべて剥がすくらいはしてもいい」

「そんなことしなくていいのです! あの方は……。十月堂で事件を起こした若い騎士……、バッハシュタイン家の方です。牢で毒を呷ったベネディクトさんのお兄さまで……エリーゼさまはその恋人……なんです」

 父が失態を犯した十月堂事件の犯人ベネディクトの兄。そして恋人が主犯だった。

 シャーロットは直接関わりがないとはいえ、どうにもこのまま見過ごすことはできない。

 大きな目に涙を溜めて訴えるシャーロットを見て、ギルバートは後ろ手に縛られている男を見る。

「……お前、名前は」

「……ゴットフリート。ベネディクト・フォン・バッハシュタインの兄だ」

 犯人の名前を聞いてギルバートは視線を外し、少し何か考えているようだった。

「……牢獄で手に入るはずのない毒を呷った犯人。毒の入手先。こいつらが根城に使ったスローン卿の屋敷……。そしてその妙な瓶」

 ブツブツと呟きながら何か考え、ギルバートは地面に落ちた小瓶を見下ろす。

 これからのことを決めたのか、彼はまずシャーロットを抱き上げた。

「……とりあえず、シャルの望みなら手荒なことはするな。だが自害しないように細心の注意を払っておけ。あとその小瓶は押収するが、不用意に空けず軍医師に分析を任せろ」

「「はっ」」

 ブレアとセドリックはそろって声を出し、ゴットフリートを引き立てていった。

 遠くからエリーゼが「離して!」と甲高い声を出しているのも聞こえ、事態は収まりをみせていた。

「……シャル、風邪を引いては困る。屋敷に戻ろう」

「……はい」

 ギルバートに軽々と抱き上げられたまま、シャーロットはそのまま二月宮に戻る。

 いつも自分を抱き上げてくれる夫の腕を、こんなに嬉しく思ったことはない。

 帰るべき腕に戻ることができた。

 安堵に包まれたシャーロットは、ギルバートにギュッと抱きついたまま少し泣いた。

 王宮ではなにも知らない貴族たちが、まだダンスやゲームに興じている。

 そんななか、降りしきる雨の下で一つの事件が解決しようとしていた。



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