2 / 4
恋文
しおりを挟む
通勤路を少し外れた通りに、小洒落たカフェがある。レンガ造りのレトロで落ち着いた内装が素敵なお店だ。
年配のベテランマスターが淹れてくれるブルーマウンテンを飲みながら、ゆっくりと本を読んで過ごす。もちろんブラックだ。
これが日々忙しいOLである私の、休日の過ごし方である。
…ごめんなさい、嘘です。
いや、このお店が素敵なのは本当だ。
ただし私が飲むのは専ら甘いカフェオレであり、これ淹れてくれている気の優しいおじさんがベテランなのかどうかはさして興味がない。
手には外国人作家の名著を持っているが、内容はあまり頭に入ってこない。
入ってきても、主人公の男が想い人へのねちねちしたラブレターのような日記を認めるばかりで、全く面白くない。何だこれ。
しばらくすると、カランカラン、と軽い音が店内に鳴り響く。
一人の青年が入ってきた。
「ああ、いらっしゃい」
その青年は、呼びかけるおじさんの穏やかな声に似合う優しい顔つきをしている。
私がつまらない本を片手にこの場所で貴重な休日を過ごす理由は、彼だ。
半年ほど前からここの常連で、隣町の大学に通う三年生らしい。いつも窓際の定席で、小難しそうな本を読んでいる。
木の椅子に腰掛け、文庫のページをめくる瞬間を眺める。空気は既にカフェオレよりも甘く苦い。これを恋と言わず何と言得よう。
外は穏やかに晴れて、色素の薄い猫っ毛が柔らかな初春の日差しにに透けていた。
つまらない本のページをめくる指先などとうの昔に動かない。
日が傾き、彼が店を出たのを確認すると、私もカフェオレを淹れてくれたマスターに軽く挨拶をして、帰途に着く。今日も不毛で、幸せな一日だった。
あまりに魅惑的な彼の横顔を眺めた日の夜は、自分宛てに手紙を書く。
「彼が好き。狂おしいほど。」
年配のベテランマスターが淹れてくれるブルーマウンテンを飲みながら、ゆっくりと本を読んで過ごす。もちろんブラックだ。
これが日々忙しいOLである私の、休日の過ごし方である。
…ごめんなさい、嘘です。
いや、このお店が素敵なのは本当だ。
ただし私が飲むのは専ら甘いカフェオレであり、これ淹れてくれている気の優しいおじさんがベテランなのかどうかはさして興味がない。
手には外国人作家の名著を持っているが、内容はあまり頭に入ってこない。
入ってきても、主人公の男が想い人へのねちねちしたラブレターのような日記を認めるばかりで、全く面白くない。何だこれ。
しばらくすると、カランカラン、と軽い音が店内に鳴り響く。
一人の青年が入ってきた。
「ああ、いらっしゃい」
その青年は、呼びかけるおじさんの穏やかな声に似合う優しい顔つきをしている。
私がつまらない本を片手にこの場所で貴重な休日を過ごす理由は、彼だ。
半年ほど前からここの常連で、隣町の大学に通う三年生らしい。いつも窓際の定席で、小難しそうな本を読んでいる。
木の椅子に腰掛け、文庫のページをめくる瞬間を眺める。空気は既にカフェオレよりも甘く苦い。これを恋と言わず何と言得よう。
外は穏やかに晴れて、色素の薄い猫っ毛が柔らかな初春の日差しにに透けていた。
つまらない本のページをめくる指先などとうの昔に動かない。
日が傾き、彼が店を出たのを確認すると、私もカフェオレを淹れてくれたマスターに軽く挨拶をして、帰途に着く。今日も不毛で、幸せな一日だった。
あまりに魅惑的な彼の横顔を眺めた日の夜は、自分宛てに手紙を書く。
「彼が好き。狂おしいほど。」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる