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一章
追放
しおりを挟む「グレン、君にはパーティを抜けてもらいたい」
「……は?」
ぽちゃん、と芋がスープに落ちる音が間抜けに響く。
パーティのリーダーであり、勇者であるシュラインが真剣な顔でこちらを見ていた。今こいつなんて言った? パーティを抜けろって言ったか?
「一応理由を聞いていいか?」
「言われなくてもそんなの分かるでしょう!」
バン、とテーブルを思いっきり叩くのは魔法使いのミランダだ。パーティの火力役で、かなりの才覚の持ち主。燃えるような赤毛を一つで纏めているが、水と氷の魔法を得意としている。見た目はまだまだ小さい子供なんだがな。人は見かけによらないってのを微妙に体現してる少女だ。
それはともかく、言われてもわかんねえから聞いてるんだがなあ。
「落ち着けミランダ、こいつは脳みそまで筋肉の男だ。いちいち説明してやらないと分からないのだろう」
額に手を当てて芝居がかった動きで頭を振る男、聖騎士のギリアムだ。騎士として仲間を守ることに関しては一流。聖騎士に不足しがちな攻撃力を、聖属性の魔力を武具に宿すことで威力を上げる固有スキルで補っている。さらさらとした金髪に切れ長の目、おまけに王国最高と呼ばれている学院の出。王国一の秀才と呼ばれていて、女性からの人気は凄まじい。
お前からしたら確かに俺は学が無いが、流石に脳みそまで筋肉は暴言だろう。
「そうですよ、ミランダ。今までだってそうだったでしょう? 私たちが教えて差し上げないとこの者には理解出来ないのです」
優しそうな微笑みで諭すように言う女、森林祭司のフィオナ。強力な範囲回復魔法と単体回復魔法を駆使し、植物の祝福の力で味方に有利な場と効果をもたらす。さらにあらゆる薬草、毒草に通じ、戦闘中だけでなく薬や食事によって味方を癒し、活力を与えてくれるパーティの生命線だ。亜麻色の髪を編み込み、所々に花の髪飾りを着けている糸目の女性だ。
まあ優しそうなのは表情だけで、発言は全くそんなことないんだが。今のも完全に毒を吐いてきてるしな。
「……それは俺から言うよ。今まで言わずにみんなに我慢させていたのは俺だ。俺には言う責任がある」
シュラインがそう言うと、他の三人は口々にシュラインを庇い、俺を批判する。脳筋だの、ゴブリン並の脳みそだの、オーガの親戚だの、言いたい放題だ。
「グレン、君には何が出来る?」
「あー、パーティでってことか?」
「そうだ」
「ミランダの魔法で倒れなかった魔物の対処、魔法が聞にくい魔物の対処、ギリアムが回復してる時の魔物の引きつけ役。あー、あと闘気による回復と補助。大まかにいえばこんな所か」
自分で言うのもあれだが、俺は戦士としてはかなり優秀だと思う。魔法の才は残念ながら無かったが回復魔法の真似事も出来るし、騎士の真似事も出来る。戦士としては一般的なやつより数段上の攻撃が放てる自信もある。十分パーティに貢献出来てると思うんだがな。
「そう、戦闘だけなんだよ。君が役に立ってるのは」
「……何が言いたいんだ?」
「ミランダは飲み水の確保、ギリアムはパーティの金銭管理、フィオナはパーティの体調管理。立ち寄った村でもミランダは飲み水や氷をあげていたし、ギリアムは墓場の浄化、フィオナは薬の提供。みんなそれぞれ貢献してくれてる。君にはそういうの、あるか?」
「そういうのは……ねえな」
「だろう?」
そりゃ無いのは当たり前だ。自信があると言ってもそれは戦士としてだ。魔法使いや神官系の技能はからっきし。駆け出しの冒険者の方がましなレベルだ。
「出来る出来ないは仕方の無いことだと思う。だが、パーティで仕事量の差が出てくるのは不和の元だ。現に今のようになってる」
……流石にこの言葉はカチンとくるな。仕事量の差って言うなら、俺にだって言いたいことはある。
「つまりそういう事だ。君も納得してくれたようだから俺たちはこれで失礼する」
しかし、引き止める間もなくシュライン達は宿から出ていってしまった。
いや、俺納得したなんて一言も言ってねえし、戦闘に関しては言いたいこともあったし、何より唐突すぎるし。
「……あいつら金払ってねえじゃんか」
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