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一章
少女
しおりを挟む朝飯代五人分、占めて小銀貨二枚と大銅貨一枚。一人分は安いが、五人分ともなればそこそこの値段だ。せめてもの救いは宿代が先払いだったことか。宿代まで払ってたらそれこそ財布がぺしゃんこになってしまう。
「とりあえずギルドに行かなくちゃな」
まだ余裕があるとは言え、一人ではまともな依頼も受けられない。路頭に迷う前になるべく効率よく稼いでどっかのパーティに転がり込まないといけない。
と、いうことだから早速ギルドに来たものの。
「グレンさんがこちらの依頼を受けることは出来ません」
受付嬢のヘレナに冷たく突っぱねられる。
「えっ、どうしてだ? この前は受けられたぞ?」
「それはシュライン様のパーティだったからです。今のグレンさんはそのパーティメンバーではありませんの等級が条件を満たしていません」
「でもこの依頼は個人なら銀一級からだ。俺は金三級なんだから受けられるだろう?」
俺がそう言うとヘレナは嫌悪の感情を隠すことなく、吐き捨てる様に言った。
「あなたがパーティを追放になった理由はパーティに不和をもたらしたからと報告されています。そのペナルティで銅二級に降格となっています」
「なんだって!?」
確かに不和の話はされたが、それだけで一気に五つも等級を落とされるなんて。確かに冒険者は信用第一の職業だが、役割の違い程度でそこまでの仕打ちは酷すぎる。
銅二級なんてようやく駆け出しを抜け出した程度の冒険者だ。せいぜい狼や猪なんかの野生動物の退治しか受けられない。魔物なんてゴブリンが関の山だ。
「ご理解頂けました? 他に話がなければもうよろしいですか? 他にも仕事がありますので」
「ま、待ってくれ。不和をもたらしたって、どんな説明をされたんだ?」
「規則ですのでお答え出来ません」
俺の質問はピシャリと一言で跳ね除けられる。ヘレナは、フン、と鼻を鳴らすと奥に引っ込んでしまった。
「俺が何したって言うんだよ……」
仕方なく別の依頼を探すが、勇者であるシュラインが拠点にしている街だ。当然銅二級が受けられる依頼なんてない。
このままじゃ非常にまずい。路頭に迷うことが現実味を帯びてきた。少し強行軍になるが、必要最小限の準備をして依頼のある街に行くしかない。
「……ほんと、どうなってんだよ」
頭を抱えるしかない。食料を買いに行っても旅道具を買いに行っても、お前に売る物は無い、の一点張りだ。自分では結構馴染みにしていたと思っていた場所でさえ帰ってくれと追い出された。
ダメ元で薄暗い路地裏の商店にも来たがとんでもない値段を要求されて、とてもじゃないが払えない。
このままじゃ路頭に迷うどころか、食い物を漁って生きる浮浪者一直線だ。だからと言って準備もせずに街を出てものたれ死ぬのは必然。
「これは詰んだか……?」
なんでこんな急に態度を変えられたのか、全く見当もつかないと言えば嘘になる。勇者パーティを抜けたからだ。でもそれだけでこんなことになるなんて……。
「落ち込んでる場合じゃない、仕事を探さねえと」
「仕事をお探しですか?」
頭上から声をかけられる。顔を上げると、目の前に女の子が立っていた。十七、八くらいか。白銀の髪を胸の前あたりで二つに分けて縛っている。
髪は綺麗だが、いかにも町娘って感じの子にここまで近づかれるまで気づかないなんて、かなり参ってるみたいだな。
「まあね。ちょっと入り用でね」
流石に正直に言うのは憚られた。
「私、いいお仕事紹介できますよ?」
「本当か?」
「ええ!」
ちょっと不甲斐ないが紹介してくれるなら願ったり叶ったりだ。
「グレンさん、魔王軍に入りましょう!」
女の子は叫ぶと同時に俺に飛びかかってきた。紅く輝く瞳と牙が見え、彼女が吸血鬼だと分かった瞬間、首筋に牙を突き立てられてしまった。
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