タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

80,セリゼの森にて:光一

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  ……よし、誰にも気づかれなかったみたいだな。御影さんと沙夜香さん以外には。やっぱり隠密行動は御影さんに適わないなあ。まさか姿を見えなくしてるのに呼び止められるとは思わなかった。沙夜香さんも姿が見えてないはずなのに僕の方をちらっと見てきたし。やっぱり勇者同士は同格みたいだ。今のところは、だけど。それにしても。

「不思議な魔物だね、君たちって」

  足元には深緑色のローブを着た小人が、いや小人たちが僕の歩く速さと同じくらいの速さで飛び跳ねてる。背丈は脛の中程あたりで、肌……なのかな?  それはほとんど黒に見えるほどの緑で、人で言う目の位置に赤い木の実みたいなものがついてる。というか、いつの間に増えたんだろう。
  セリゼの森に住んでるウェアウィードとか案内人とか言われる比較的人間に友好な魔物。知識として魔物だとは覚えてるけど、実際に会ってみるとおとぎ話とかに出てくる妖精とか精霊みたいだ。もしかしたら妖怪とかと同じような認識なのかもしれない。あれも神様が妖怪扱いされてたりするし。

「ん? 着いたの?」

  ウェアウィードたちが止まって、全員で僕を見上げてくる。事前に調べておいた通り、お礼を言ってドライフルーツを渡す。増えていたウェアウィードたちの分も一緒に。

「……さすがに痕跡は残ってないか」

  ウェアウィードたちに連れてきて貰ったのは灰色の魔物たちが冒険者と戦った場所だ。魔物か、それに関係してる人について分かりそうな物がないかと思って案内を頼んだけどさっぱりだった。まあ当たり前なんだけど。一月以上前の話だし。
  とりあえずもう少し探してみようとした時、一匹のウェアウィードがズボンの裾を引っ張ってきた。その後、ついてこいとでも言うように飛び跳ねて森の奥へ向かう。

「そっちに何かあるの?」

  大人しく追いかけて行くと、開けた場所に出た。そこはある程度下草が生えて来ているとは言っても、一度激しく自然が傷つけられたと分かる場所だった。

「これは……なんだろう、鋭いものを地面に何度も突き刺したような跡だけど。こっちは焼け焦げた跡だ。火の魔法でも使ったのかな」

  焼け焦げた土の中にガラスが混じってる。土の中にガラスを混ぜたっていうよりは、ガラス化した地面が徐々に土に戻っていったって雰囲気を感じる。ありえないとは思うんだけど、なんでだろう。ここで一体何が起きたんだろう。

「おや、お客さんか。こんなところに何の用じゃ」

  その場から飛び退き、すぐさま声の方を向いて剣を取る。そこには深緑色のローブを身にまとった老人が立っていた。いくら警戒してなかったといっても、この距離まで近付かれるなんて。この人が普通じゃないことは確かだ。

「ふーむ、どうやら儂は人に声をかけるのが下手なようだの。また剣を向けられてしまった」
「……気配を消して近づいたのです、警戒されるのは当然だと思いますが」
「気配を消したつもりはないが……、まあこれからは気をつけるとしよう。してお主、王国の勇者殿かな?」

  老人が長い白ひげを撫でながら訊ねてくる。敵対する意思は今のところ見えないけど、警戒は止めない。

「ええ、光一と言います」
「光一殿か。では光一殿、ここで何をしてるんじゃ?」
「少し、調べ物を」
「ここで調べ物か。灰色の魔物についてか?」
「……どうしてそう思うんです?」
「ここはその実行者たちと冒険者が戦った場所じゃ。そんな場所で調べ物など、一つしかないじゃろう」

  今のところ怪しい気配はない。けれどここがどういう場所か知っているということは、灰色の魔物に少なからず関わっているということだろう。そして見た目からだけど、とても冒険者としてやっていけるようには思えない。つまり実行者の側である可能性が高い。正直、どれほどの実力か想像がつかない。でもただでやられる気もない。改めて剣を握る手に力を込める。

「なぜその灰色の魔物について調べるのじゃ?」
「人間が魔物に変化したと聞いたからです。それが本当だとして、防ぐ術を探すために」
「そうか……。ならば少し力を貸そう」

  老人がつま先で地面を軽く蹴ると、ぼこぼこと土が盛り上がって石像のように人の形になった。こめかみの辺りから稲妻のように折れ曲がった角が二本伸びている。

「まさかこれは」
「実行者の姿じゃ。名をゼーヴィスという」

  姿だけじゃなく名前も知ってるなんて、この人は一体何者なんだ?  この話が本当かどうかも調べなきゃいけないけど、この人が嘘を言っているようにも聞こえない。

「人間の魔物化は赤い液体によって引き起こされてたようじゃ。ただ、魔物化にも差異があっての。頭から被ったものは灰色の魔物になったが、飲み込んだ者はハーピーになっておった。飲み込んだ者は一人だけじゃったから、一概にそれが条件とは言えんがな」
「……少し詳しすぎませんか?」
「そりゃの。直接見た者に聞いたのじゃから」
「その人は今どこに?」
「そこじゃよ」

  そう言って老人はウェアウィードたちを指さす。魔物から聞いたって冗談か何かかな……?  情報の出処を分からないようにしている……?  この人の目的が掴めない。

「あとは……、お主が見ていた場所か。そこはさっきも言った通り、実行者たちと冒険者の戦った場所じゃ。ゼーヴィスの攻撃の跡は特に残っておらんが、地面の突き刺したような跡はハーピーの羽が刺さった跡じゃ。焼け焦げた跡は冒険者の力の一端じゃな。この森は火事があったり伐採で切り倒されたり、一時的に傷つけられた場合には魔力で徐々に再生するが、未だに治りきっておらん。とりあえず、分かることはそのくらいじゃの」
「……あなたは一体何が目的で、何者なんですか?」
「全ての人の世の平和を望む、ただの老いぼれじゃよ」

  ……この人も人が悪い。平和を望む、なんて言いながらとんでもない気迫をぶつけて来た。今まで相手にした中でダントツの、勇者である御影さんや沙夜香さんが霞むくらいのプレッシャーを。しかも殺気なんて微塵も感じさせずに、あくまで力量の差を分からせるような、そんな芸当だ。戦いを避けるんじゃなく、。とんでもない力の差が存在してることが嫌でも分かる。
  これ以上剣を持ってて変に怒りを買うのは得策じゃないな。もう戦う意思がないことをしめしておこう。

「僕はそろそろ行こうと思います。最後にあなたの名前を伺っても?」
「儂はキオウと呼ばれておる」
「キオウ様ですね。その名、しかと胸に刻んで起きます」

  一度深く頭を下げてみんなのところへ走り出す。視界からキオウと名乗る老人を外した途端、まるで最初から誰もいなかったかのように気配が消えた。
  とんでもない人に出会ってしまった。敵ではないみたいだったけど、味方とも言える感じじゃないよな。あんな人がいるくらいだ、これから戦わなきゃならなくなった相手に、あれくらいとはいかないまでも、自分よりは上の実力者が出てくるかもしれない。

「もっと強くならなきゃ」

  ともかく、今は御影さんたちと情報を共有しておこう。あの人たちにもキオウさんみたいな人がいるって伝えておけば、今まで以上に訓練に打ち込むようになるかもしれないし。そうなれば僕らの生存確率も上がる。そして、自分の考えを押し通すことも出来るようになるだろう。

「……根回しと修行をしておかないとなあ」

  やらなきゃいけないことがいっぱいだ。とてもじゃないけど全部一気には無理だし、まずは入江さんを見つけることが最優先かな。本格的に僕達が戦いに駆り出される前に見つけ出さないと、もう動くことが出来なくなりそうだし。
  御影さんと沙夜香さん、何か掴んだかな。少しでも有用な情報があればいいけど。
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