タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

81,お仕事エリックさん

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「あ、アンジュさん!  おはようございます」
「おはよう、フレミーさん」

  バスカルヴィーさんのパーティーの翌日、ギルドに行くとフレミーさんが駆け寄ってきた。なんかデジャヴュ。

「先程人街ギルドの方からエリックさんが来ましたよ。いつものところでお待ちです」
「エリックさんが?  わかった、ありがとう」

  エリックさんってセリゼの森の調査の時に来た狐っぽい人だよね?  何の用だろう。灰色の魔物の関係じゃさすがに時間開きすぎてるし。

「や、アンジュさん。久しぶり」

  ひらひらと手を振りながらエリックさんが挨拶してくる。私の姿には微塵も疑問を持ってないみたいだ。やっぱりとんでもないよなあ、この仮面というか、ダンタリアンの力。素顔を見た人はどうするのかって聞いたら、元から仮面をつけた後の顔だったって認識するっていうんだもの。マジマさんの隠蔽の魔法もなんやかんやで凄いらしいし、冷静に考えるとタロットで呼べる人たちみんな割とありえない力を持ってるよね。ダンタリアンに限ってはこれ洗脳とか記憶改ざんの域だよね?
  
「お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「実は人街の方にもアンジュさんの占いの噂が流れて来たんだよ。まだ占い続けられてるんだと思って様子見にね。あとスカウトしに」

  なんかちょっと聞き捨てならないことサラッと言わなかったこの人?  とりあえず順番に聞いてみなきゃ。

「まだ続けられてるってどういうことですか?」
「アンジュさんは宮廷占術官は知ってる?」
「はい、知ってます」

  昨日教わったし。

「実はね、それを狙ってる占い師の間で潰し合いが起きてたりするんだ。あくまで誰がやったかとかが明るみに出ないようにだけど。だから新人は何かしら嫌がらせを受けるんだ。まあ競争相手になろうとならなかろうと芽はつんどけの精神だね。アンジュさんも一週間しないうちに被害にあったって聞いてたからてっきり辞めたのかと思ってたんだけどね」

  なにそれ!?  考え方が怖いんだけど!  ってことはあの当て布の人も占い師だったのかな。だとしたら本当に許せない。占いをする人間なのに、その占い道具を駄目にしようとするなんて。せっかくあの人に対しての嫌な気持ちがなくなってたのに、またふつふつと怒りがこみ上げてくる。

「まあ、かなり派手に動いてた人はギルドでも問題になっててね。この前ようやくどこの誰か掴んだんだよ」
「一体誰なんですか?」

  問題になってたなら何かしら取り締まられるはず。でもその前に一言、いや、もう気が済むまでこの怒りをぶちまけたい。実際にやるかはわからないけど。

「中央街に魔道具店を構えてた女性で、名前はエリザ。魔道具や薬を作る腕は確かだったみたいだけど、占いの方はそこそこって感じだったらしいね。商品は安価で質も良いから住民には人気だったみたいだね。だからこそ調べるのに苦戦したんだけど」

  聞く人みんなが口をつぐんだらしいけど、それが原因だったのかな。話してしまったら下手するとお店がなくなってしまうかもしれないんだもの、生活に必要だと思われてたらかばう人もいるか。でも、そんなに必要とされてたなら余計にその人がしたことは許しちゃいけないと思う。

「そのお店、どこですか?」
「うーん、教えてもいいけど今は誰もいないよ?」
「え?  どういうことですか?」
「実はねー、そのエリザって人行方不明なんだよ。一ヶ月前から」

  エリックさんが目を細める。

「アンジュさん、何か知らない?」

  ……これ、もしかしなくても疑われてるよね。一ヶ月前っていうと、私に嫌がらせをした直後に行方不明になったってことだもんね。占い道具に手を出された私が何かしたんじゃないかってことだよね。
  もちろん私はそんなことしていない。誰だかすら分からなかったんだから。その頃は丁度セリゼの森で灰色の魔物と戦ったときの話だけど、それと何か関係があるのかもしれない。もしかして急に気持ちが切れたのは灰色の魔物の中に無意識にその人がいた事を感じてたのかな。それはそれで嫌だなあ。

「私は特に何も知りません。仲間のレベッカたちが調べてはくれてましたが、誰に聞いても黙り込むばかりで分からなかったらしいです」
「なるほどね。こっちの調べと特に変わらないや」

  調べてたのにわざわざ聞きに来たのか。エリックさんのことだから、仕事だし仕方ないとか言いそう。

「まあ無いとは思うって上には言ったんだけどねー。最近アンジュさんに妙な噂あるし、探ってこいってせっつかれてさ。言った通り何も無かったっすよー、って報告しとくよ」
「あはは、お疲れ様です」

  こういうこと本人に言っちゃうところ最初に会った時と一緒だなあ。嫌な感じはないから素で言ってるんだろうな。こういうのもなんだけど、ギルドの職員としてそれでいいのかな。

「それで、もう一つのスカウトの方なんだけどさ」
「あ、そうです。どういうことですか?」
「最近、冒険者ギルドでお抱え占い師を雇おうって動きがあるんだよ。それで、それなりの期間占いを続けてるアンジュさんに声掛けてみようってなってさ。どう?」
「うーん、それって今ほど自由には占いできませんよね?」
「んー、まあそうなるだろうね」

  エリックさんが眉を八の字にして笑う。今みたいな占いが出来なくなるなら嫌だなあ。忙しくはあるけど、それがすごい楽しいし。

「すいません、遠慮しておきます」
「うん、了解。それじゃあ俺の用事はおしまい!  朝からごめんね」
「いやいや、大丈夫ですよ」
「これ、お代ね。時間取っちゃったから」

  そう言ってエリックさんはテーブルに銅貨を三枚置いた。占いしたわけじゃないのに流石に受け取れないって断っても、良いから、と押し付けられる。

「それじゃあ今度暇な時にでも来てください。その時のお代として預かっておくので」
「もしかしてアンジュさんって割と頑固なの?  まあ、受け取ってもらえるならいいんだけど。それじゃあまた今度様子見にくるよ」

  最後に微妙に失礼なことを言ってエリックさんは去っていった。でも不思議と腹は立たなくて、なんか、仕方ないなあ、みたいな気持ちだ。これが人徳ってやつなのかな。
  とりあえず、気を取り直して今日もばんばん占っていくぞ!
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