タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

82,憂う植物神

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  地上に咲く全の花が常に咲き誇る場所、そんなものを作ろうとあやつが言い出した時は困惑したものじゃ。
  地上に咲く全て、というのだ。すなわち、一年中雪と氷に囲まれた中で咲く花と熔岩の傍らで蕾をつけ火の粉を浴びてそれを開く花を一所に留まらせるということ。日の出と共に咲き陽が昇りきるまでに萎れてしまう花と、満月の夜に一晩だけ咲く花を咲かせ続けるということ。
  そんな環境も時間も関係ない場所を理を捻じ曲げてまで作る理由は何かと問えば、あやつはただ一言。

「面白いし、何より綺麗でしょう?」

  何か崇高な理由がある訳でもない、ただの感情論。思わず笑ってしまったわ。こやつは何も変わらぬのだ、と思い知った気持ちじゃった。
  一つだけ計算外と言えば、思いの外儂がここを気に入ってしまったということじゃろうか。
  不意に花畑に水色の光の柱が現れる。あやつめ、ようやく帰ってくる気になったか。少しすると柱の中から髪も装いも水色の優男が現れた。

「ただいま。私がいない間、何か変わったこととかはあった?」
「杏子が訪ねてきたぞ。伝言は伝えておいた。お主の予想通り、帝国へと移って行ったわ」
「ああ、やっぱりか。まあ王国にいても良いことは無いだろうからね」

  そう言って占術神、いや、リュウセンは椅子に座りくつろぎだす。ひとまず茶をいれてやってから旅での話を聞いてみるとしよう。

「それで、タロットカードとやらは作れたのか?」
「ああ、いいのが出来た。鍛冶神と芸術神に協力して貰ってきたよ」
「何?  芸術神はともかく、鍛冶神にか?」
「うん。紙で作ろうかとも思ったけれど、どうせなら最高の材料でと考えてね」

  相変わらずとんでもないことを考えるものじゃ。ただの思いつきで二柱の神を巻き込むのじゃから。まあ芸術神辺りは絵を描かされるじゃろうとは思っていたがな。

「しかし、最高の材料を用意するために鍛冶神に会うとは……。ミスリル辺りか?  もしやアダマンタイトじゃなかろうな?」
「いや、ヒヒイロカネを使ってもらった」

  思わず目眩がした。相変わらずとんでもないことを、で済まされるような事ではない。たかだか呪い札を神器に使うヒヒイロカネで作るなど……。

「まさかとは思うが、流石に鍍金か芯に使う程度じゃろうな?」
「いや、全部ヒヒイロカネだよ」
「……呆れて何も言えんわ。他の二人は何も言わんかったのか」
「むしろ乗り気だったよ。鍛冶神は新たな神器を作れるって喜んでいたし、芸術神もヒヒイロカネに彫金出来るなんていつぶりだろうって張り切っていたから」

  相変わらずなのはあやつらも同じか……。神の身でありながら自重というものを知らぬからなあ……。

「おかげで素晴らしくとんでもないものが出来た」
「お主、いい出来と言っておらんかったか?」
「ああ、いい出来だよ。神器の中でもずば抜けてね」

  にやり、とリュウセンが得意げに笑う。こんな表情は久しぶりに見るのう。

「そんなにか?」
「もちろん。このタロットカードは私たちの創造と同じことが出来るんだ」
「何じゃと!?」
「流石に何でもは無理だけれど、カードの意味に沿ったものであれば可能だったよ。まさかこんなものが出来るとは予想外だった」

  あっけらかんとした表情で笑うリュウセン。

「笑い事ではすまぬぞ……。決して人の手に触れぬようにせねば」
「ああ。これは私が肌身離さずに身につけていようと思う。だけれど……」
「なんじゃ?  まさか複数作ったわけでもあるまい」
「いや彼女の、杏子のタロットカードはどうしようかなって」
「あればお主の力を一部封じただけじゃろう?」

  目を逸らして曖昧にリュウセンが笑う。こやつがこういった顔をする時は、大抵何かを誤魔化そうとしている時じゃ。

「まさかお主……」
「うん、杏子さんのタロットカードも同じような力を持ってる。かなり限定的ではあるけれどね。私の力を元に力を新たに造ったり、力を進化させたりできるはず」
「本当にお主は……。どれだけの力を使えばそうなるのじゃ……。それで、どうするつもりじゃ?  取り上げるわけにもいかんじゃろう」
「とりあえずは様子見。もしも因果や理を崩しそうになったら、そのときは動くさ」
「……はあ、頼むぞ」

  こやつは昔から何を考えておるのかよく分からんところがあったが、今回は一体何を考えているやら。杏子のタロットカードは神器に匹敵するものになってしまっている。今のところ何も問題は起きてはおらんようじゃが……。
  何かしら手助けをしたいとは思うが、こやつが様子見と言った以上手を出すのは難しい。何事も起きなければよいが……。
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