84 / 97
本編
83,フォーカード
しおりを挟む「ありがとうございました。しばらく頑張ってみようと思います」
「いえいえ。無理せずできる範囲で、ですよ。応援しています」
これで午前中のお客さんは全員占ったかな。ぐーっと伸びをする。座りっぱなしだから少しは動かないとね。
「アンジュざぁーん!」
ドスッ、と脇腹にフレミーさんが突撃してくる。結構な勢いがついてたみたいで一瞬呼吸が出来なくなった。遅れて鈍く痛みが襲ってくる。
「ぎいてくだざいよアンジュざぁーん!」
「聞くので一回離れてください……」
流石に微妙に鼻水を垂らすくらい泣きじゃくった人にくっつかれたまま話すのはちょっと……。
なんとかフレミーさんを引き剥がして向かいに座らせる。しばらくすると少しは落ち着いてはきたのか、すんすんと鼻をならしてはいるけど話は出来そう。
「一体どうしたんですかフレミーさん」
「実は私の同期というか、友人がこの度結婚することになりまして……」
「へー! いい事じゃないですか!」
「そうなんですよ! そうなんですけどぉ!」
また目尻に涙を滲ませるフレミーさん。なんか地雷踏んだっぽい。これは聞き手に徹した方がいいかもしれない……。
「これで……同期の中で結婚どころか彼氏もいないのは私だけになってしまいまして……」
あー……。まあ、うん。それは確かに泣きたくなるかもしれない。
「みんなすぐにいい人が見つかるー、とか、まだ運命の人に会えてないだけー、とか言いますけど、探してもいないしもうすぐって思い続けても駄目だったから今なんですよ!」
目が据わってるよ、フレミーさん。少し落ち着いてください。
「だからアンジュさん! 私を占って、どうしたら素敵な男性と結婚出来るのか教えてください!」
「ええー……」
そんな事言われても私にはよく分からない。告白されたこともしたこともないし、ましてや彼氏や結婚だなんて全然考えたこともなかった。皇女様は婚約者さんとの結婚のためにはっていう、恋愛だけど目的がハッキリしてるから占いにも前向きになれた。でも一からとなると、全然わからない。
「駄目ですか……?」
「駄目ではないですけど……」
「ならお願いします!」
「はあ……。期待はしないでくださいよ」
「占ってもらえるだけ十分です!」
ならとりあえず占うだけ占おう。結果が出たら私じゃ分からなくても何かしら掴んでくれるかもしれないし。
スプレッドはスリーカード、いや、フォーカードかな。どうしたらいいかって話だったし、最初からやるべき事とか障害とか知っておいた方がいいでしょ。
フレミーさんが素敵な人に出会って結婚するにはどうしたら良いでしょうか。そう思いながらカードをシャッフルして四枚を並べる。ん? これは……。
「どうでしょうか……」
「フレミーさん今気になる人とかいません?」
私が訊くと、フレミーさんの耳がピクっと動いた。これは図星ってことなのかな?
「一応……いますけど……。でも一応ですよ! 本当に!」
「その人って最近知り合いました? 大体三ヶ月くらいの間とかですか?」
再びフレミーさんの耳が動く。さっきより激しく連続で。むしろ体ごと動いてるくらい。当たりっぽい。それなら一応筋は通るかな。
「そ、そうです……」
「なるほど、それなら納得です」
「何がですか?」
「一枚目のカードは運命の輪、二枚目が魔術師です。どちらも正位置なんですけど、それだと二枚とも同じような意味なんです。チャンスとか機会とかですね。でもどちらかと言うと運命の輪の方が出会いで、魔術師は恋の始まりって意味が強い印象なので、最近出会った人が気になり始めてるのかなーと」
「なんでそれだけでそこまで分かっちゃうんですかあ……」
フレミーさんが頭を抱えてテーブルに突っ伏す。なんでと言われても、そういうものだからとしか言いようがないなあ。正直何となくピンと来た内容を話してるだけだから、説明しようにも出来ない。
「まあ、それでこれからなんですけど何とも言えないんですよね。その相手の人とは今どんな関係なんですか?」
「何とも言えないってなんですか!? あの人とは今は会ったら挨拶するくらいの顔見知り程度ですけど……」
「じゃあ、あまりガツガツ行かずに普段通りのフレミーさんでいきましょう。無理をせず、焦らずに、でも多分好意を持ってることはそれとなく伝えた方がいいとは思います」
「あ、あんまりぐいぐい押すのは駄目ですか?」
恐る恐るフレミーさんが訊いてくる。これ、もしかしてもう手遅れ?
「良くはないですかね……。一応三枚目は今後の対応とかやるべき事、もしくは障害になることって意味があるんですが、節制の正位置が出てます。意味は無理しないとかひかえめとかコントロールって感じです。なのでそういう風に行動しろってことだと思うんですが、もしこのカードが逆位置になったとすると、意味が極端とか節度のなさって感じになるんです。なので、あまり強くアプローチを仕掛けると相手に引かれてしまうかもしれないって暗示なんじゃないかなーと」
「終わった……」
またテーブルの上に潰れるフレミーさん。手遅れだったかー。でもまだ大丈夫だと思う。
「諦めるのはまだ早いですよフレミーさん」
「ほんと!?」
がたっ、とすごい勢いでフレミーさんが立ち上がる。さっきから反応一つ一つが大きいし、その人のこと結構気になってるのかな。
「はい。四枚目が近い未来なんですけど、恋人の正位置が出てます。まあ、これは文字通りだと思います。ただ、上手くいったとしてもあくまで恋人なので結婚とかは三ヶ月以上先になると思います。でも進展する可能性は十分ありますよ」
私がそう言うとフレミーさんがふぁーだか、ふぇーだかよく分からない鳴き声? みたいなものを上げてテーブルにへにゃへにゃになっで倒れ込む。リアクション忙しいなあ。
フレミーさんはしばらくぐでぐでになってたけど、少ししたら復活していつもの彼女に戻った。いや、いつもより少し元気かな? いつも元気だけどそれよりもやる気みたいのに満ちてる感じ。
「ありがとうございました、アンジュさん! 私、焦らず少しずつお近づきになれるよう頑張ります!」
「はい、頑張ってください。応援してます」
よっぽど嬉しかったのか、お代の銅貨の他におやつに持ってきたらしいメロンパンとパウンドケーキの間の子みたいなお菓子をくれた。外はカリカリしたクッキー生地で中はしっとり。初めて食べたけどすごい美味しい。
「これ美味しいですね。これ、どこで買ったんですか?」
「私の手作りです! おばあちゃんの故郷のお菓子らしいです。美味しいですよねー」
これ手作りなのか! へー、フレミーさんお菓子作り得意なのか。料理も得意なのかな? ……これ気になってる男の人に渡したらいいんじゃない? ポイント高いと思うんだけどなあ。
10
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる