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本編
84,大盛況再び……?
しおりを挟むそして次の日。ギルドの貸出スペースのほとんどが人で埋まってた。
「なんかデジャヴ……」
しかもそこにいる人はほとんど女の人で、いつもの商人さんは隅っこに追いやられてる感じだった。
「お、おはようございます。アンジュさん」
「……おはようございます、フレミーさん」
申し訳なさそうにうさ耳を垂れさせてフレミーさんが挨拶してくる。うん、もしかしなくてもこうなった理由あなたですよね。
「すみません、昨日の占いを同僚に話したらどんどん尾ひれがついて行ったみたいで……。アンジュさんに占ってもらうと恋が叶うとか出会いに恵まれるって話になったみたいで」
あははー、と誤魔化すように笑われる。どうしてそんなことになったのよ……。
でも、前みたいなことにはならないぞ。さすがに同じことを繰り返すつもりはない。まずは噂を訂正して、それでも占って欲しい人だけ占うことにしよう。少しは面白半分で来てる人もいるだろうし。まあ、私としては興味本位で来てくれるのが一番気楽なんだけどさ。
「えーっと、噂を聞いて来たって人は結構いると思うんですが、あの噂は尾ひれがついたものです。別に私が占ったからって恋は叶わないし、出会いがあるわけじゃないです。私が出来るのはあくまでアドバイスまでです。それでも占って欲しい、って方以外は申し訳ないですが出来れば後日、お客さんが少ない時にお願い出来ますでしょうか」
……あれ、誰も動かないんだけど。ちょっと待って、ほんとに?
「ちなみに、付き添いで来たって方は……」
手を挙げて貰えるよう促すけど、誰一人手を挙げない。まーじかー……。
「すいません、さすがに人数が多いので出来れば日を分けたいと思うんですが、他の方に順番を譲っても構わないって方はいますか……?」
私がそう言うと半分くらいの人が手を挙げてくれた。まだ全然多いけど、十分助かる。
じゃあ次に占いをするとき優先したいけど、どうやって判断しよう。整理券みたいなものとか作れるかな。
「フレミーさん、いらない紙とかありませんか?」
「すみません、そういうのはギルドの備品なので……」
「あー、そうですよね。すいません、ありがとうございます」
んー……。あ、そうだ。生徒手帳のメモのところ。あそこ破ればいいかな。あっちの世界の物だからあんまり人目に触れさせない方がいいんだろうけど仕方ない。返してもらう形にすれば大丈夫でしょ。
ただちぎっただけじゃ味気ないし、日の丸っぽく真ん中に丸を描いておこう。黒だけど。
「では譲ってくださる方はこれをお持ち帰りください。後日それを渡してくれれば優先して占いますので」
ありがたいことに不満なんかも特に出ず、みんな紙を受け取ってギルドを出ていった。こういう時って少なからず一悶着あるものだと思ったけど、案外すんなりいって安心した。よーし、この人数なら何とかなる。とりあえず、順番を決めて頑張って占うぞ!
―――――――――――――――――――――――――
(しかし、どっから手をつけるべきかね)
ソータに伝えた通り、帝国にアンズさんらしい女の子はいない。だが、それはあくまでギルドや宿屋なんかの主だった場所で、そこには情報はなかった。だとするとどこかに住み込みで雇ってもらってるってのが有力だろうけど……。
(片っ端から話を聞くわけにもいかないしなあ)
住み込みの仕事を斡旋してるのもギルドだが、そんな仕事を探してる子供なんてごまんといる。最近住み込みを雇った場所だけ調べようとしても、手間も時間もかかる。
(地道にやるしかないかねえ)
それならのんびりしてる暇は無い。早速聞いて回るとしますか。
「キース、聞こえるか?」
「ああ、聞こえる。どうしたソータ」
立ち上がろうと膝に手をやった途端、ソータから言ノ葉が届いた。ソータのオリジナルの魔法で、使用者と対象者が離れていてもお互いの声が届くといった効果がある。あいつはそれだけの地味な魔法だと言っていたが、この魔法があれば情報のやり取りはもちろん、戦場での指揮なんかも革命的な変化がもたらされるだろう。
まあ、突然耳元で話されているようなこの感覚は未だ馴れないけどな。
「沙夜香から新情報だ。入江さんは帝国に入国しているのはほぼ確定、入国管理の者が覚えていたらしい。そして、出国した形跡もないとの事だ」
「ってことは帝国にいるんだろうが、どこにいるかだな」
「それなんだが中央街ってところが怪しいんじゃないかって話だ」
「中央街? なんでだ?」
「入江さんは冒険者と一緒だったらしい。剣士風の女、槍を持った男、魔法使いの女だ。そして、俺の国の人間は亜人に対しての差別意識は持っていないと予想出来る。むしろ好きな人間の方が多いだろう。入江さんがそうかは分からないが、王国から逃げるための場所と言ったらそこが適当だろうって話だ。冒険者も差別意識は低いだろうから、一緒に行動してる可能性もある」
「なるほどな。じゃあ中央街から探してみるよ」
「頼んだ」
冒険者の情報は結構大きいな。それに、中央街って、片方の可能性が高まったのもありがたい。手がかりも増え、調べる範囲も狭まったわけだからかなりやりやすい。
それじゃあまずは中央街のギルドだな。今度は冒険者の方を訊ねるようにして、何か引っかかるといいんだが。
(なんだあの人だかり)
中央街のギルドに着くと、妙に人が集まっている場所があった。確か占い師に貸し出してるスペースだと思ったんだが、中央街の占いはこんなに賑わってるのか。……ん? あれってもしかして占い師一人だけか? 随分売れてるんだな。
「十一番の方ー」
「あ、はい」
担当は兎の獣人の女性か。明るそうな人だけど、少し抜けてるところがありそうだな。まあ人は見かけによらないこともあるから分からないが。
「本日はどのようなご要件でしょう」
「実は知り合いに頼まれて人を探しているんです。三人組の冒険者なんですけど」
「どのような方達ですか?」
「剣士風の女性と槍を持った男性、あと魔法使いの女性です」
「うーん、その組み合わせの三人は私は分かりませんね……。もう一人加えた四人組なら心当たりがあるんですけど」
「本当ですか?」
まさか、当たりか? 調べ方を変えた途端これとは、まだ調査が甘かったか。
「はい、ここ最近の活躍が目覚しいパーティです。もう一人はサポーターの女の子です」
「その子はどんな子ですか?」
「今そこで占いをしてる子ですよ。この前まで商人の人達がいっぱい来てたんですけど、今日はそれに加えて女性が恋占いをしてもらいに来てるんです」
そう言われて件の占い師を見るが、明らかに探している人と違う。アンズさんは黒髪黒目だそうだが、あの人の髪は水色だ。
「うーん、自分が探している人とは違うかもしれませんね」
「そうですか……。お力になれずすみません」
「いやいや、ありがとうございます」
さすがにそんなうまい話は無いか。仕方ない、地道に探すとするか。しかし、なんでソータたちはアンズさんとやらにこだわるんだろうか。ただの同郷ってだけで、知り合いってわけでもないだろうに。それが勇者ってもんなのかねえ。
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