95 / 97
本編
94,恋人の力
しおりを挟む「ほう……? 人間の小娘。お前、何を言ったのか分かっているのか?」
「ええ。あなたの話を断る、そう言いました」
ルルリカさんが驚いた顔でこっちを見てる。まさか私がダドルの話に乗ると思われてたのかな。
そんなわけないじゃん。こんな、人を人間人間って、名前も呼べないような人やだよ。ルルリカさんはちゃんと名前で呼ぶし。
それに、少しとばっちりみたいな感じだけど、この人何となくゼーヴィスに似てるんだよね。
「……なるほどなるほど。小娘には少し難しかったか。無用な怪我をしたくなければ俺と共に来いと言ったのだ。これなら分かるだろう?」
「あなたの方こそ難しかったですか? 私は断ると言ったんです。自分の身は自分で守れる。そもそも、私が取引をしたのは彼女。あなたじゃありません」
私がそう言うと、ダドルはニヤついたまま目をつぶって腕を組んだ。顔は笑ってるけど、明らかに怒ってる。
「随分、威勢がいいな。……後悔するなよ」
そう言ってダドルは去っていった。と言っても見えるところにいなくなっただけで、月のカードの力でどこにいるかはわかるんだけど。
ダドルは部下たちを引き連れて先回りするみたい。魔物に跨って移動してるのかな。気配が重なって移動してる。
「アンジュさん、良いのですか? これでは条件を守ったとは……」
「はい、もう条件とかはいいです。初対面ですけどあの人嫌いなので企みを潰せたらそれでいいです」
「アンジュはたまに変に頑固になるよね」
レベッカに苦笑いされるけど、そう思っちゃったんだから仕方ない。
「って考えてるんだけど、みんなはそれで大丈夫?」
「あんな啖呵切られたんじゃ嫌とも言えねえだろ」
「ギルの言う通りよ。それに、私もあの魔人には少し腹が立ったから」
「まあ、そういうことだね。でもアンジュ、何か考えはあるの? 向こうは私たちを取り囲めるくらいの数がいたようだけど」
レベッカ凄いな。感覚だけで隠れてた人達の気配感じ取ってたのか。
「大丈夫、一応考えてることはあるよ。ルルリカさん、魔物は倒しちゃってもいいですか?」
「それは構いませんが……」
「それじゃあ行きましょう」
月のカードのおかげで待ち伏せは簡単に避けられるんだけど、追いかけられるのも嫌だから魔物は倒しておきたい。
「ミリア、森のどこに誰がいるかとか分かる?」
「魔法でってことかしら? 残念ながら分からないわ。ある程度の場所が決まってたら探って貰うことは出来るけど、全くわからない状態からは厳しいわ」
「じゃあ森のどこにいるか分かれば攻撃出来る?」
「ええ。場所が分かればね」
それならあいつらの場所をどうにか伝えられると良いんだけど……。そう考えた瞬間、今度はハッキリと恋人のカードが思い浮かんだ。
「ミリア、少し試したいことがあるんだけどいい?」
「ええ、大丈夫よ」
ミリアに何かするっぽいカードだし、本人の了解は得ておかないとね。
「恋人」
アルカナの名前を言うと、赤い光の玉が目の前に現れた。そしてそれは糸みたいに細くなって、私とミリアを繋ぐように胸の真ん中辺りに伸びてきた。
「これは……何かしら?」
「多分こういう事だと思う」
私は右手で自分の左手を掴む。するとミリアが驚いた顔で左手を見る。
「感覚の共有。あと思考の共有が恋人のアルカナの力だと思う」
そう言って頭の中でダドルたちの居場所を思い浮かべる。
「これが思考の共有……。この重なってるのは何?」
「魔物に跨ってるんだと思う。元々は別々だったから。だから、この人たちをこう回り込んで、追いかけてくると思うこの辺りに罠を仕掛けてほしいんだ」
「わかったわ。足止めだけでいいの?」
「うん。ただ、こういう感じの罠にしてもらっていい?」
「ええ、わかったわ」
よし、これで大丈夫かな。これ便利だな。考えただけで詳しく説明しなくても正しく作戦とかが伝わるし。しかも、全部伝わるんじゃなくて伝えようとしただけみたいだから
さて、そろそろ出発しよう。そう言おうとして振り向くと、ルルリカさんがポカンとした顔をしてる。
「ルルリカさん?」
「あ、はい。アンジュさん、それは一体……」
あ、しまった! ルルリカさんはタロットカードのこと知らないんだから目の前で魔法みたいなの使っちゃダメじゃん! 召喚術としてはこんなのおかしいよね、多分。
「えっと……。あ、これのことを話すならまた別に条件を加えさせてもらいます!」
こう言えばきっと諦めてくれるでしょ。ゼーヴィスの情報だけでも渋ってたし。
「分かりました。その条件については魔導王国で相談させてください。私の一存で決められることにも限りはあるので」
「えっ。えーっと……」
「条件次第なのですよね?」
「……はい」
「では早く向かいましょう。心変わりされても困りますので」
「相手の方が一枚上手だったね、アンジュ」
10
あなたにおすすめの小説
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる