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本編
4,アンズです
しおりを挟む薄暗い路地裏。ホコリ臭いというかかび臭いというか、なんとも言えない臭いがほんのりする場所に私は今います。
「とりあえず荷物全部置いてきな」
そうです、まさにカツアゲです。異世界でもあるんだね! カツアゲというより強盗かな!
世紀末みたいな格好をした三人に絡まれて、リーダーっぽいモヒカンにちょっと刃こぼれしたナイフを向けられてる。見た目は完全にギャグだけど、笑うわけにはいかない。笑ったら絶対この路地裏はスプラッタな現場になる。私のいろいろで。
「マイ、面倒だ。力ずくで奪えばいいだろう」
「黙ってろドゥ。城から出てきたんだ、うまく使えば人質に使えるだろ」
「そうすりゃもっと金が入るってことだ。流石だぜ」
「よせよアリー。照れるじゃねえか」
思いっきり吹き出す私。無理、耐えられない。テンプレ過ぎる小物台詞の後にマイとドゥとアリー。まいどあり! だめだ、お腹痛い。しかもモヒカンとスキンヘッドと七三分け。なんで二人はちゃんと世紀末なのに一人だけきちっとした髪型なの! お約束通りがりがりの長身とマッチョの巨体に私より小さくて太ってる人の三人組。全てがテンプレで構成されている。
「何がおかしいんだてめえ!」
笑う私に恫喝するマイ。もう全く怖くない。面白さの方が勝ってる。モヒカンが揺れてるのが無性に面白い。ダメだつぼった。
「こいつ、舐めてるな」
ドゥが拳を振り上げる。私の顔くらいありそうな拳骨が迫ってくるのが見えて、流石に笑えなくなって強く目をつぶった。
ドガッっと、鈍い音が聞こえた。あー、人って殴られた時こんな音するんだなあ。今から謝れば命は助けてもらえるかなあ。いや、私殴られてないよ。痛くないし。
「何しやがんだてめぇ!」
目を開けると、目の前に鎧を着た人が立っていた。
「下衆を殴っただけだ。こんな子供に大して三人がかりとは情けない」
マイの後ろあたりにドゥが倒れてるのが見える。この人自分より一回り大きい人を殴り飛ばしたのか。すごい、喧嘩の神の加護とかついてるのかな。あるのか知らないけど。
「てめぇ……、覚えてやがれ!」
またテンプレだ! ここまで来るとちょっと感動する。ちゃんとドゥを担いで回収してるし。
「怪我はない?」
「あ、はい。助けてくれてありがとうございました」
鎧の人にお礼を言う。少年みたいな声で、髪もショートカットだし、力も強いみたいだし、私より頭二つ分くらい大きいから男の人かと思ったけど、この人女の人だ。振り返ったからわかったけど、うん。その、でかい。上は鎧で覆われてるけど、下側は服というかアンダーウェアというか、ピッタリしてる。してるんだけど、その、布がね、挟まってる。戦う時すごい邪魔そう。
「……あまり見つめないでくれるか」
「あ、ごめんなさい」
思いっきり見てるのがバレた。恥ずかしかったみたいで少し顔が赤くなってる。めちゃくちゃ美人だなあ。髪は紺色かな、黒に近いけど青っぽい。切れ長の目で目尻に泣きボクロがある。
「私はレベッカ。君は?」
「杏子です」
「アンジェ?」
「アンズ、です」
「アンジュ?」
「アンジュでいいです……」
「すまない……」
なんとも言えない沈黙。気を取り直して宿屋を探さなきゃ。寝る場所欲しい。
「えっと、レベッカさん。助けてくれて本当にありがとうございました。いつかお礼をします」
「いや、礼なんていいよ。私は当然のことをしたまでだから」
騎士みたいだなこの人。強くて人間が出来てる。
「そんなことより、これからどこかに行くの?」
「あ、はい。宿屋を探そうと思いまして」
「宿屋? 子供一人で旅をしてるの? 親は?」
「親は……いません。一人で生きていかなきゃいけなくなったので、とりあえず寝床と仕事を探そうと思いまして。まずは寝床です」
すっごい憐れなものを見るような目をされた。いやまあ、なんか凄い悲劇の主人公みたいな感じだとは我ながら思ったけども。親は向こうの世界にいるし嘘じゃない。一人で生きていかなきゃなのもそうだし。あれ、思った以上に人生ハードモードなのでは?
がばっ、と突然レベッカさんに抱きつかれる。
「大変なんだな。心配しなくていい。これから私が面倒をみよう」
「え! それは悪いですよ!」
「遠慮しなくていい。無理しなくていいんだ」
「いや、無理とかじゃなくですね!」
私を抱き上げ、レベッカさんはそのまま歩き出す。じたばた暴れてみるが、びくともしない。
「私の泊まっている宿屋に行こう。落ち着いたらこれからのことを話そう」
「ますレベッカさんが落ち着いて!?」
必死の抵抗虚しく、そのままレベッカさんに運ばれていく。もう宿屋に連れてってくれるならそれでいいかな……。
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