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本編
35,いざ帝国へ
しおりを挟むガインさんのお店を出たあと、ギルさんとミリアさんにも事情を話した。私が異世界人だってことは隠してだけど。すると。
「わかった。明日の朝に門でいいか?」
「帝国まで馬車で行くなら五日はかかるわ。その間の水と食料を準備しなきゃいけないんだから昼の方がいいんじゃないかしら」
なんて、何も聞こうとせずに、ついて行く前提で話をされたのが嬉しかった。我ながら嫌な人間だなあ。
次の日、食べ物はギルさんたちに任せて、私たちは寝袋とか、野宿に必要な雑貨を買ってくることになったけど、それほど時間がかからずに集まってしまった。
「ちょっと早いけど門に行こうか。マジマさんも呼ばないとでしょ?」
「うん、そうしよっか」
昨夜少し考えたけど、魔物の命は奪えるのに、人はやっぱりどうしても嫌だって気持ちがある。嫌だ、くらいにしか思わないあたり、自分って思ったより冷たいというか、薄情なんだなって自己嫌悪してしまう。
傷つけたいわけではないけど、いざという時に躊躇わないようにしないとなあ。
「そう言えば、マジマさんはどこに呼ぶの? さすがに突然馬車が出てきたら目立つどころの騒ぎじゃないよ」
「どこか目立たない道とかは……」
「ないね。少なくとも馬車が通れる道は」
うーん、キマイラの時と同じように門を出て、人に見えなくなったら出すしかないかな。
(レディ。ミスマジマからだが、隠蔽の魔法がかかってるからなんやかんやで大丈夫っス、だそうだ)
すごいな隠蔽の魔法。見た目を誤魔化すだけじゃないんだ。なんやかんやっていうのに不安しかないけど。
「なんか大丈夫みたい」
「なんかって何さ」
「わかんないけど、大丈夫って言われた」
「うーん……。まあ本人が言うなら大丈夫かな?」
ダメそうだったら全力で他人のふりしよう。教授とかは私の影から出てくるから知らんぷりできないけど、戦車はなんかこう、ぽん、て出てくるから大丈夫でしょ。
「とりあえず呼ぶね。戦車」
戦車の力を使って少しすると、私たちの目の前に二頭の馬に引かれた幌馬車が止まった。御者として手綱を握っているのはマジマさんだ。ジーンズに白の半袖Tシャツっていうラフな格好。Tシャツにはでかでかと戦車の文字……じゃない。馬車だ。なんだろう、その時出したもので文字が変わるのかな。
「どうもっス。今回は普通の馬車ッスよ」
「だからそのTシャツ?」
「いや、これは戦車Tシャツが洗濯中なんで代わりっス」
「あ、そう……」
なんか、一番変な人がマジマさんの気がしてきた。掴みどころがないというか、なんというか。変に生活臭がするって言えばいいのかな、思いっきりファンタジーな登場するのに服とか完全日本な上、洗濯物とか言い出すし。
「とりあえず門の横に停めとくっス。馬車の待機場所っぽいっスから」
「あ、じゃあそのままそこで待とうか。私たちの荷物も積んじゃおう」
馬車の中は戦車と同じように、見た目よりずっと広かった。流石に高級そうなソファとかはなかったけど、床はフローリング、あとはローテーブル座布団とクッションが用意されてた。相変わらずよく分からないなあ。
とりあえずそのあとはギルさんたちが来るまで、レベッカに帝国の話を色々と聞いてた。今いるトリスリア王国とコルネシア帝国は何世代も前から友好国で、国境とかも曖昧らしい。セリゼの森は二国共有の土地というか、そんな感じになってるみたいで、国境線の代わりがあの森になってるとのことだ。
そんなにふわっとした感じで大丈夫なほど友好的なんだなあ。なんか、普通に考えても珍しい気がする。
帝国の美味しい食べ物の話に入ったところでギルさんたちがやって来た。食べ物と水を積み込む。
「それじゃあ出発するッスよ」
「うん、お願い」
なんかもやもやした感じがするけど、変なトラブルとかなしに、何事もなく帝国までのんびり行ければいいなあ。
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