49 / 97
本編
48,どろどろ
しおりを挟む「……え?」
「これでこの呪い札は穢れましたね」
「なんてことを!」
レベッカが女の人に掴みかかるけど、するりと避けて女の人はギルドの外へ出てってしまう。
「アンジュ、大丈夫!?」
「え、あ、うん」
だめだ、うまく、飲み込めない。私は今占いをしてて、それであの女の人がフラスコを取り出して……、そうだ!
「タロットカード!」
タロットカードは真っ赤に染まってた。赤い液からは鉄錆みたいな匂いと、鼻にツンとくる匂いが混ざった、胸がむかむかするような嫌な匂いがする。震える手でカードを手に取ると、粘ついた液が糸を引いた。
「あー、ひっでえなあ……。今度は魔物の血か?」
「みてえだな。一体何が目的なんやら」
魔物の血? そんなものがかけられたの? 私が怖いもの見たさなんて軽い気持ちで始めたからこんなことになったんだ。ドロドロした気持ちが胸の真ん中に集まっていく。
「いきなりなんだてめえ! 離せ!」
怒鳴り声に振り向くと、レベッカが男の冒険者の胸ぐらを掴んで持ち上げてた。
「今度は、とはどういうことだ?」
「言葉の通りだよ! お前こそ知らねえのか!」
「何をだ」
「あの女のしてることだよ! ギルドで占いをしようとするやつはみんなあいつに嫌がらせをされて占いを辞めるんだ!」
そんなことが起きてたんだ。だから占い自体に問題はないって言ってたのかな。
「その女は何者だ?」
「それは……!」
冒険者が口をつぐむ。知らないわけじゃないんだ。知っていて言わないんだ。
頭の中で、かちり、と何かが切り替わるような感じがした。胸のドロドロが全身を巡って頭の方に登って行くような感覚がする。
「一体なんの騒ぎですか!?」
「ああ……、フレミーさん」
レベッカと冒険者のやり取りを聞きつけてフレミーさんが出てきた。私のカードの惨状を見て彼女がつぶやく。
「これは!? また、あの方が……」
「あの方、とは誰ですか?」
「それは……」
フレミーさんも冒険者と同じように黙り込む。ああ、この人もなんだ。別に意地悪ではないんだろう。きっと名前を出すことがはばかられる、身分の高い人間。それが私のタロットに手を出した犯人だ。
「レベッカ、行こう」
私はバッグから別の布を取り出して、タロットを一枚一枚、血を拭いながら挟んでいく。折れないように、破れないように丁寧に。
レベッカが手を離すと、冒険者が床に座り込んで咳き込む。彼女も自分のバッグから布を取り出して、タロットの血を拭ってくれる。
「どうするの、アンジュ」
「出来ることはやってみる」
私の知ってるタロットの浄化方法であの人が言った穢れが落ちるかはわからない。そもそも濡れてしまったタロットがまた使えるのかもわからない。でも何もしないなんてこともできない。
「まずは浄化の道具を揃えなきゃ」
そして、そのあとは。こうなったのは私の不注意が一番の原因だ。だからこれはただの八つ当たりみたいなものだと思う。でも、占いの道具を穢すということをしてきた人、あの人は許せない。あの人だけは許しちゃいけない。
私自身を傷つけるのではなく、占いの道具を傷つけたり盗んだりするのではなく、穢す、ということを選んだ。それは占いを知っている人の仕業だと思う。だって、占いをする人にとって、占いの道具はただの道具なんかじゃなくて、ほとんど半身みたいなものだ。心に一番深い傷をつけるために、道具を穢すということをした。それはある程度占いを知っていなきゃできない。
占いを知っているのに、私や、私の前にここにいた人たちにこんなことをし続けている人だ。必ず見つけ出して後悔させてやる。
「絶対に探し出す」
10
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる