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本編
55,変容
しおりを挟む「もっといるとは思ったけど、ここまでたァ思ってねえんだがな!」
「ギル、口より手を動かしてくれる!?」
「二人とも! 軽口叩いてる場合じゃないよ!」
ギルさんの予想は見事に的中した。少しだけ森の奥に進んだだけなのに、私たちは見事に灰色の魔物に囲まれて、絶賛ピンチ中。正面から三体来たと思ったらいくら、右から左からわらわらとやってきて、また正面から現れるみたいなのを繰り返してる。負傷したら後ろに下がっていくせいで、何体を相手にしてるか全くわからない。というか、いくらなんでも多すぎないかな! 魔物の波が止まる気配がないんだけど!
「青き茨よ強き茨よ、敵を捕らえる楔とならん! ウェッジソーン・ランペイジ!」
ミリアさんが叫ぶと、地面からたくさんの茨が出てきて、魔物たちに絡みついていく。魔物も茨から逃れようと必死にもがくけど、もがく度に棘が深く突き刺さってる。爪で切ろうともしてるけど、どんなに勢いよく切りつけても茨はビクともしてない。抵抗虚しく、魔物達は茨に絡め取られて動けなくなっていった。
「すごい……」
「ミリアは植物に力を借りる魔法が得意なんだよ。木精霊と花精霊の加護を持ってるからね」
「なるほど、だからこんなことが……」
「と言っても万能ではないわよ? 植物の力が少ないところだと威力は落ちるから。それより、今のうちに進みましょう。私たちでこれだと、囮になってる方はどうなってるか分からないわ」
ミリアさんの言葉に頷いて歩を進めるけど、囮の方にあの魔物が行ってるとは思えないんだよなあ。ただなんとなくそう思っただけだけだから、加護を信じるならだけど。でも、一体、二体で信号弾を上げてたパーティが集まっても、あの数相手じゃあまるで手も足も出ないと思うから信号弾の一つでも上がると思うんだけどなあ。
相手するのが大変すぎて撃てないだけっていうのも考えられる。下手するともうやられてるってことも。それだと囮も何もないから大丈夫だといいんだけど。
……今、私は何を考えた? 他のパーティの人がやられてるかもしれない、それで、そうだとしたら。囮の、意味がない、って。
「アンジュ?」
はっ、とレベッカに呼ばれて我に返る。
「大丈夫? 顔色が悪いよ」
「ごめん、大丈夫。少し嫌な想像しちゃっただけだから」
「そう? でも、きつかったらちゃんと言ってね。これは心配じゃなく、私たちの命のためでもあるから。弱った人を守りながら戦う余裕は正直無いからね」
「うん、わかった」
やっぱり、最近少しずつ自分が変わってきてる気がする。人の命を軽んじるような、命に価値を付けるような、そんな自分になってる。泥水がじわじわと布に染み込んでくみたいに、私がどんどん侵食されてるような錯覚を覚える。私は、私のままでいられてるのかな。
「みんな、止まって。あれを見て」
レベッカの指さす先を見ると、三人の人影が見えた。一人は跪いてて、その前に二人が立ってる。二人は結構な身長差があるみたいで、頭一つ分くらい違いそう。大きい方は魔人なのかな。頭から角が生えてる。小さい方は人間みたいだけど……。
「あいつら、何してんだ……?」
「わからない。もう少し様子を見てみよう」
すると、魔人が懐から何か取り出した。取り出したものは瓶か何かだったみたいで、中の液体を跪いた人にかけた。液体をかけられた人が蹲ったかと思うと、ぼこり、とその人の背中が弾けるように膨らんだ。
ぼこり、ぼこり。少しずつその人の体は膨らんで、灰色の異形の姿になった。私たちが、さっきまで倒してきた魔物の姿に。
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