タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

63,勇者の憂鬱

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「お二人とも聞きましたか?  灰色の魔物の話」
「俺は聞いた。セリゼの森のやつだろ?」
「私それ知らない。どんな魔物なの?」

  兵士の方には話がいってるのかな。いや、貴族にも情報は伝わってるけど、沙夜香さんに話してないだけかも。沙夜香さん人気だからなあ。救国の女神とか言われてるし、貴族の人たちは彼女にこの国に関すること以外の心配をかけたくないと思ってるんだろう。

「キマイラのこと覚えてますか?」
「特殊個体とか言われてたやつよね?」
「そうです。そのキマイラは人の顔を持ってたみたいです」
「人の顔を……?」

  僕の言葉に沙夜香さんは訝しげな顔をする。御影さんはやっぱり知ってたみたいで、あまり表情を変えてない。

「そして、セリゼの森に現れた灰色の魔物も、人の顔をしていたらしいです。その魔物は人間が変化したものだという話も聞いてます」
「人間が魔物に!?」
「はい。直接見た人もいるし、どうやら街で見かけた人の顔をしていたとかいう話もあるみたいです」
「本当にそんなことが……。条件なんかはわかってるの?」

  すぐに魔物化の条件を考え出すあたり、やっぱり沙夜香さんは頭の回転が早い。……他のことを考えていないから余裕があるとも言えるんだろうけど。なんていうか、少し現実を見ていないように感じるんだよね。自分は物語の主人公で、何もかも上手くできる力を持ってる、みたいなことを考えてるような。

「兵士長から聞いた話だが、はっきりした条件はわからない。だが、裏で魔人が関わっているらしい」
「魔人?」
「魔物の特徴を持った人型の種族らしい。俺も詳しくはわからない」

  すごいな、御影さん。そこまで知ってるのか。

「角があったり、爪が鋭かったり、そんな感じらしいです。今回の件に関わってるのは稲妻型の二本角の魔人だそうです」
「やけに詳しいのね」
「僕は使用人の方から情報が入ってきますから。メイドの方々が帝国から来た商人から聞いたそうです。帝国では有名みたいですよ」
「帝国では有名ってことは、こっちではそうでもないってことよね」
「はい。まるで隠してるみたいに」
「まったく……。嫌な感じだな」

  御影さんが椅子に身を投げ出す。そうしたくなるのも仕方ないと思う。意図的に情報を隠して、僕達の意識を別に向けさせないようにしてる。王国に都合のいいように僕達を動かそうと、まずは思考を偏らせようとしてるんだと思う。
  気に入らない。

「そんな魔物がいるところを通って行ったのよね、入江さんは。大丈夫なのかしら」
「セリゼの森で亡くなった人がいる、という話は聞いてないですから、恐らくは無事に帝国に行けたと思います」
「魔物だって冒険者が倒したらしいからな。選抜部隊での調査と討伐だったらしいし、入江さんは関わってないだろ」

  けっこう冷たい言い方に聞こえるけど、御影さんは良くも悪くも徹底して現実的なんだよな。その人の能力をデータとして認識して、可能不可能を判断してる。機械的な考え方だけど、実際の行動は情で考えることの方が多いみたいだし、ある意味一番人間らしいのかもしれない。

「ですね。あとは彼女が帝国でどうしてるかですけど、そこまでは流石にわからないんですよね……」
「そのうち帝国まで行ってみましょうか?  訓練の一環としてなら大丈夫じゃない?」

  突飛な発想だけど案外いいかもしれない。別の国であればあの神官長も介入しづらいだろうし。

「なるほどな。正面から堂々と調べに行くってことが。いいんじゃないか?  兵士長に相談しとく」
「ありがとう、御影さん。よろしくね」
「じゃあ僕もある程度アタリはつけときます。入江さんの加護的に働ける場所は限られてるでしょうし」
「ああ、頼む」

  今頃入江さんは何してるんだろう。帝国まで無事に渡れたってことは、冒険者を雇うくらいのお金と運は持ってるみたいだし、大丈夫だろうけど。
  沙夜香さんと御影さんが張り切ってるのもあるけど、僕も彼女の力になりたいとは思ってる。ちゃんと助けたいとは思ってるけど、純粋な考えじゃなくて、僕達を利用しようとしてくるこの国に対しての見せしめみたいな意味合いが強いから申し訳ないけどね。
  とりあえず、今は素早く動くことが大切だ。また神官長が動いて事態がややこしくなる前に。早く見つけてあげないと。
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