タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

62,ギリシャ十字

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「あ、アンジュさん!  おはようございます。お客さんが来てますよ」

  ギルドに着くと、フレミーさんが駆け寄ってきた。まだお昼前なのにもうお客さん来てるのか。こんなに早く来た人なんて初めてだ。急いでるのかな?

「おはようございます、フレミーさん、ありがとう」

  借りてる場所に行くと、焦げ茶色のローブを着た人が座ってた。フードを被ってて顔があんまり見えない。前の一件があるから顔を隠してる人の相手はあんまりしたくないなあ。大丈夫かわかるまでタロットカードは出さないでおこう。

「お待たせしました。初めまして、私はアンジュと言います」
「いえ、それほどは。自分はキュラーと言います。こちらの占いの評判を耳にしまして、お願いしても?」

  少し俯き気味だったのかな。正面から見るとちゃんと目元まで見えた。目線の高さのせいもあるんだろうけどね。
  濃い緑色の瞳で、少し渋めの低い声、三十歳くらいの男の人だ。ローブの上からだからなんとなくだけど、かなりがっしりした体格みたい。戦士系の職業なのかな?

「はい、一回銅貨三枚で占いますよ」
「本当にその値段でいいのですか?  相場から考えるとかなり少ないですが」
「お金が欲しいわけじゃないですからね。それに、物珍しさからか案外お客さんは来てくれるので、完全に赤字というわけではないんですよ」
「なるほど、お噂は本当のようだ」

  納得したように頷かれる。噂って一体なんのことなの……?  なんか不安になってきた。評判って言ってたから悪い意味じゃないとは思うんだけど。

「では占いをお願いしたい。内容はこの国、帝国の未来についてだ」
「あー……。それは難しいというか、無理ですね……」
「なっ、何故だ!?」

  ガタッ、と音を立ててキュラーさんが立ち上がる。

「説明しますのでとりあえず落ち着いて座ってください」
「あ、ああ」
「えっと、私がする占いというのは人を占うものなんです。人のこれからとか、悩み事とかの解消のヒントみたいなのを占うものなんです。だから国なんかの人以外を対象としたり、大勢を対象にしたりとかは少し……」
「そうなのか……」

  落胆したように肩を落とすキュラーさん。なんか悪いことしちゃったなあ。でも、帝国の未来を占ってくれって、明らかに怪しいよね。これは体良く断れる理由ができてよかったかも。

「なので申し訳ないですが今回の占いは……」
「人ならば占えるのだな?」

  うわ、食い気味に聞いてきた。これ、もしかしなくても断らせる気ないよね……。

「占えますけど……」
「それでは……、そうだな。自分を占っていただきたい。自分が使命を全うできるかどうかを占っていただきたい」

  うーん、使命か。もしかして冒険者とかじゃなくて誰かに仕えてるとかなのかな?  帝国の未来を占ってもらおうとするってことは兵士の人かな。その人の言う使命なら国を守れるかとかだろうし、間接的に国の未来を占うことになるのかな?  よし、頑張ろう。

「分かりました。それじゃあ占いますね」
「よろしく頼む」

  大丈夫だろうけど、一応警戒しながらタロットを広げる。物珍しそうに見てくるけど何かしてくる様子はない。
  キュラーさんの使命について……、ギリシャ十字にしよう。どうなるかとか、問題とかの対処とか大まかに分かった方がいいだろうし。多分自信というか、安心感が欲しいんだろうから。
  タロットを混ぜて、左、右、上、下、最後に真ん中。十字にカードを並べる。……うーん、なんだか難しい形になったなあ。

「……悪いのだろうか」

  私が難しい顔をしてるのを見て不安そうにキュラーさんが聞いてくる。

「いや、悪いというか、よくわからないって感じです。なかなかわかりづらいと言いますか」
「どういうことだ?」
「えっと、まず今回はどう占ったかと言いますと。現状と近い未来とともに、これからの問題と、最終的な結果を占ったんです。まずは現状」

  そう言って順番に並べたカードを指さす。

「これは皇帝の正位置です。意味としては安定や成功、責任感とかですね。なので、今はその使命も問題なく果たせているんじゃないですか?」
「あ、ああ。そうだ」
「それで右は障害なんですが、魔術師の逆位置。これは混迷とかスランプ、自信の喪失とかです。それで上が傾向で星の逆位置。失望、無気力です。なので、これからスランプに陥ったり、なにか状況が変わった結果ごちゃごちゃしてしまったことで自信を失ってしまう可能性があります。その結果使命に対して気力を失ってしまうかもしれません」
「そんな!  俺はそんなこと!」

  再びキュラーさんが立ち上がる。一人称が俺になってるし、かなり焦ってるというか、怒らせちゃったかもしれない。

「あくまで、可能性です。未来なんて何があるかわからないんですから」
「しかし!」
「とりあえず、落ちつてください。まだ対応と結果があります」

  不服そうな顔だけどキュラーさんが座る。

「それに対しての対応ですが……、正義の逆位置です。結果は太陽の正位置。先に結果について話しましょう。これは成功や明るい現状です。なので、最終的には悪いことにはならないと思います」
「……対応の方は?」
「それが……、不正、悪行、そして罪を負う。そんな感じです」

  渋い顔でキュラーさんが黙り込む。

「なのでまとめると、今は順調ですがこれから先、使命への気持ちが揺らぐことがあるかもしれません。そのとき、悪行を働いて罪を背負うことを厭わなければ使命は果たすことができる。そんな感じですね……」
「……対応に関してはそれしかないのだろうか」
「これから先、なにか変化があれば変わることがあるかもしれませんが、このままであれば恐らく」
「そうか……」

  キュラーさんは腕を組んで俯く。まあそういう反応になるよなあ。正直言ってかなり良くない感じに聞こえるもんね。
  少ししてキュラーさんが立ち上がる。

「ありがとう、アンジュさん。また今度占いをお願いするかもしれない。これは気持ちだ、取っておいて欲しい」

  そう言って銀貨を一枚置いてキュラーさんは止める間もなく去っていってしまった。こんなに簡単に銀貨を置いていくなんて、やっぱり結構な地位の人だよなあ。また来るかもなんて言ってたけど、正直勘弁して欲しい……。
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