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本編
66,バスカルヴィーさん再び
しおりを挟む王国の宣戦布告から二週間とちょっと、フレミーさんのフラグみたいな言葉はあったけど、今のところ特に何事もない。変に気にしたけど、改めて考えたらフラグなんてものあるわけないか。ああいうのは偶然が重なっただけだよね。
「アンジュ、こぼしてるよ」
「え? うわっ」
ぽけーっとしながら食べてたせいか、照り焼きチキンみたいなやつのサンドイッチからソースが垂れてるのに気づかなかった。太ももの辺りに盛大に染みが出来ちゃってる。
「あーあ、今日はクエストなのに幸先わりいなあ。とっとと着替えて洗ってこい」
「うん、そうする」
食べかけのサンドイッチを口に詰め込んで、ギルに言われた通り部屋に戻って着替える。せっかく新しく買ったのになあ。前から使ってるのもまたまだ履けるけど、気分的に新しいのを身につけていきたかった。まあ私のせいなんだけど。
ズボンを履き替えて、汚れた方を水につけた時、ドアがノックされた。
「アンジュ、着替えた? 入ってもいいかな?」
レベッカだ。どうしたんだろ。
「うん、大丈夫。どうしたのレベッカ」
「いや、下にアンジュを訪ねて来た人がいるんだけど……。バスカルヴィーさんって知ってる?」
「あ、うん。少し前に占った人だよ」
妙に偉そうな小太りのカイゼル髭のおじさんだ。わざわざ宿まで来るって何事なの? というか、なんで私がこの宿にいるってことを知ってるんだ?
「なんでもお礼がしたいとか。下で待ってるけど、どうする?」
「どうするって……、多分会わなきゃ動かないでしょバスカルヴィーさん。会うよ」
下に行くと、レベッカの言う通りバスカルヴィーさんがまってた。でも、服装がこの前より地味というよりは洗練された感じになってる。装飾が少なくなった代わりに、布とかがいいものになってるような気がする。それに、護衛の人も装備が新しくなってる?
「おお、アンジュさん。お久しぶりです」
「お、お久しぶりです……」
さん付けになってる……。本当にバスカルヴィーさんなのかなこの人。
「あの後、アンジュさんに言われた通り、私一人でなんでもやるのではなく、扱う品物ごとに部署と責任者を設けたのです。そうしたところ今まで燻っていた商売も面白いようにうまくいきましてな。是非お礼をと思い参った次第です」
「はあ……」
バスカルヴィーさんが目をやると、護衛の人が持っていた箱を私の前に置いた。
「その中は前回占って頂いた際のお礼です。どうぞ、開けてください」
言われた通り開けると、小さな袋と紺色の服が入ってた。嫌な予感がして袋を開いてみると、金貨が五枚も入ってる。金貨だけでもとんでもないんだけど、この服、絶対魔法の服とかの類だ。ミリアさんにあげた指輪とかと同じ気配がする。
うん、全部受け取ったらやばい気がする。金貨一枚だけもらうことにして、あとは全部断ろう。
「これだけお受け取りします」
「遠慮なさらずに、どうぞお納めください」
バスカルヴィーさんの方に押した箱が押し返される。
「これ、明らかにお礼だけじゃないですよね?」
「……アンジュさんには隠しても無駄ですかね。お礼は本当ですが、お願いもありまして来た次第です」
やっぱりだ。簡単に受け取らなくてよかった。
「アンジュさんには私の専属占い師になっていただけないかと思いまして」
「お断りします」
どんな話だろうと断ろうと身構えてたけど、専属だなんて冗談じゃない。元々色んな人を占いたいっていうのがあったから、あの場所を借りたんだもの、専属になんてなりたくない。それに、商会の専属占い師とか、何かに利用されそうだし。
「そうですか……、残念です。では、是非占って頂きたい方がいるのですがそれは受けて頂けますか?」
「それでしたら、まあ……」
「できれば人に聞かれないような場所が良いのですが……」
「じゃあ、後でその人が来れるときを教えてください。時間を開けておくので」
「ありがとうございます。では後日ご連絡を致します」
そう言ってバスカルヴィーさんは立ち上がった。箱を置きっぱなしで。
「これ忘れてますよ」
「ああ、良いのです。それはお礼と、依頼料としてお納めください。それほど私は感謝しているということですよ」
その後は止めるまもなくバスカルヴィーさんは宿を出ていってしまった。箱の前で立ち尽くす私に、レベッカが声をかけてくる。
「まあ、諦めて受け取りなよ。相手は商人なんだから、口や駆け引きで勝てるわけないよ」
「そうしとく……」
でも、これ受け取ったことでまた別のこと頼まれたりするんじゃないかなあ。それが嫌だから断ったのに、結局置いてかれたし。これの話持ち出された時、無理やり置いてったから、とか言って断れるくらいの図太さが必要なのかもしれない。切り替えていこう。
仕方ない、せっかくだし今日のクエストにはこの服を来ていこう。何かしらの効果はあるんだろうし、おためしだ。
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