タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

67,暗殺者じゃないです

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「レベッカ、そっち行ったぞ!」
「任せて!」

  軽トラックぐらいあるんじゃないかって猪の突進を、レベッカが真正面から受け止める。流石に勢い全部を止められるわけじゃなくて押し込まれるけど、数メートルの溝を刻む程度で完全に猪を押さえ込んだ。

「今だ!  畳み掛けろ!」

  ギルの号令に合わせて全員で攻撃を集中する。猪は大きな鳴き声をあげると、その場で膝を折って、動かなくなった。
  無事に猪を倒した後、街に戻る前に一休みをすることになった。丁度いいしレベッカに聞いてみよう。

「キマイラの時にも思ったんだけど、レベッカって力強すぎじゃない?  前からそうなの?」
「腕力は昔からそれなりにはあったけど、最近は特にだね。強くなったなあ、くらいにしか思ってなかったけど」
「確かに異常だなレベッカの怪力は。前から化け物じみてたが今はもう化け物だな。本当はミノタウロスの魔人とかなんじゃねえのか?」

  スパーン、といい音を立ててミリアがギルの頭を叩く。

「やっぱりキオウ様の指輪のおかげかしらね?  身体能力の強化の力があるのよね?」
「そうらしいね。でもまだ限界じゃない気がするんだよね……」

   そう呟いて右手を握りしめるレベッカ。これ以上って、一体何を目指してるのよ……。

「それはそうと、アンジュ。その服はどんな感じ?  能力とかは確認出来た?」
「んー、着心地はいいけど、能力は微妙かな。片方はなんとなく実感出来たけど、もう片方は全然。というか、私自身が分かるようなものなのかな?」

  バスカルヴィーさんが持ってきた服は、宵霞の衣というもので、闇が深くなるほど身につけた人の気配を薄めていく効果があるらしい。日中でもある程度の効果は発揮するみたいで、今回のクエストの間では私から攻撃しない限り襲われることはなかった。
  そして宵霞の衣にはもう一つ能力がある。身につけた者の幻影を作り出しその者を助ける。らしいんだけど、その幻影っていうのはどういうものなのかわからない。戦ってる時に私の幻影が出てきたりはしなかったし、相手にした魔物も私以外の何かを見てる感じはなかったし。

「幻影のことかしら?  それなら魔物相手だとあまり効果は無いと思うわ。魔物はほとんどが気配や匂い、魔力なんかを感じ取ってるから、よほど巧妙な幻影でない限り見破られるわよ」
「そうなの?  ならもしかして私がわかってないだけ?」
「その可能性が高いと思うわ。幻影は基本的に誰かに見せるもので、その場に映すものじゃないもの」

  なるほど……?  状態異常みたいなものなのかな?  でもそれならなんでこの服を私に渡したんだろう。魔物相手にしてるのに魔物にあんまり効果ないんだよね?

「しかしよぉ、なんだか暗殺者みたいな風貌になったよな。暗闇に紛れる服に、斧みたいなナイフ、予備にも切れ味のとんでもないナイフだろ?  しかもそれは投げても使える。なんか間違えられでもしたんじゃねえか?」

  またギルがミリアに頭を叩かれる。懲りないなあ。

「一応召喚術士って名乗ってるからそうじゃないとは思うよ。多分」

  多分、恐らく、メイビー。流石に噂になってるくらいだから召喚術士って知ってるでしょ。それを聞きつけてきたはずだし。でも、バスカルヴィーさんが最初に来た時私のことを占い師って呼んでたから、冒険者の方は知らないのかな?  いや、流石に違うよね。暗殺者みたいなことしてないし。

「……あながち間違いじゃないかも」

  ぽつり、とレベッカがつぶやく。

「どういうこと?」
「噂になってる召喚獣って多分教授の事だけなんだよ。ロゥさんは魔術師って思われてるみたいなんだ。少なくともある程度はそう思ってる人がいる。それで、本当はロゥさんが教授を召喚した人だっていう噂もあるんだ」
「なにそれ!?」

  いや、でもそうか。ロゥさんは見た目が普通の人間だから召喚獣っぽくないのか。だからといっていくらなんでも暗殺者はおかしいよ!

「いや、でも私が暗殺者って言われるのはなんでなの!?」
「多分灰色の魔物と戦った時のあれだね。首を一閃、切り裂くだけで殺したこと。あの殺し方は人型を殺し慣れてるやり方だって思われたんだと思う。私とかはやるとしても首を切り落とすか、頭を叩き割るようにしてだから。それも体を切りつけてある程度隙を引き出してからね。その点アンジュは一撃だし」
「あー、なんか話題になってたな。凄腕のナイフ使いが参加してたって。あれアンジュのことか」
「あれはロゥさんが動きを止めてくれたからで!」
「いや、完全に動きが止まったわけではなかったよ?  攻撃こそ難しいようだったけど、致命傷を避けるくらいのことはしてたから。それを急所に一撃で倒してるんだもの。まあ仕方ないね。そもそも魔物にナイフを持って突っ込んでいく召喚術士の方がおかしいでしょ」

  仕方ないで済まされた!  嫌だよ、召喚術士で占い師ならまだしも、暗殺者の占い師なんて!  怪しさというか、危ない人でしかない!  いやまあ、ナイフを持って魔物を倒す召喚術士は私もおかしいとは思うけど……。

「まあ、勝手に尾ひれがついて混ざった噂だろうし、そのうち収まるよ。今とあの時で見た目が違うのも原因の一つだろうしね。ちゃんと占い師をして目立てば噂もちゃんとしたものになるでしょ。召喚術士の占い師、アンジュだって。気長にやりなよ」
「そんな他人事みたいに……」
「ま、他人事だしな。どっちにせよ俺らに損も得も無し。ほら、そろそろ帰ろうぜ」

  不満な気持ちを抱えながら休憩を終わりにして帰ることになった。たった一回のことで暗殺者って呼ばれるなんて、理不尽にも程があるよ……。早くそんな話が無くなるように、今まで以上に張り切って占いをしていこう。……お客さんが来ないとできないんだけどさ。
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