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1 ひみつ
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鏡の中の自分を眺める。出てくるのはため息ばかりで、いくら吐いたところで何も変化はしない。
茶色の髪と、茶色の目。それだけ見ればどこも人間と変わりはしない俺、佐狐 珠希は、彼らと決定的に異なる尻尾をばさりと動かした。
毛足だけは長いものの、いくら手入れをしてみてもばさばさとした毛並みのそれは、俺のコンプレックスを大いに刺激する。
「……いったい俺はいつになったらみんなみたくなるのかな」
独り言をつぶやいてみたって、返事があるはずもなく。
呆れるほどに何度も吐いたため息をまた繰り返しながら、その尻尾と同じような毛並みの耳をしまい込んだ。
適当に選んだ服を身につけ、身支度をしてから部屋の外へ出る。鍵を閉めたところで、よく知った顔が廊下を歩いてくるのが見えた。
「おはよ、珠希」
「大和、おはよ」
にこ、と優しく笑う顔に俺もつられて笑う。
幼なじみで同郷の猫塚 大和とは、高校で一度離れたものの大学でまた一緒になってそれ以来、気安い仲だしとしょっちゅう一緒に行動していた。
俺も向こうも今日は二限からなので、時間に少し余裕がある。昨日のテレビの話や、流行りのゲームの話なんかをしながら、大学のキャンパスへと向かった。
「そういえば、もうすぐ夏休みじゃん」
「そうだねぇ」
「珠希は実家に帰省すんの?」
聞かれて、少し考える。だけど俺の選択肢はあまりない。
「帰らないかなぁ。あんまりいい気分になる気はしないし……大和は?」
「俺も帰る気ないよ」
「そっか」
その気持ちは痛いほどに理解できたので、笑って頷いた。
「帰らないって言ったらうるさいだろうけど、帰ったら帰ったでうるさいだろうし」
「同感。いつになったらちゃんとするんだなんて言われたって、俺らにもわかるわけないのにさ」
「どうにかできる方法があるなら教えて欲しいよね」
お互いにため息混じりで言い合いながら、カフェテラスへ足を向ける。まだ、講義が始まるまでには時間があった。そんな日は、いつも二人で構内のカフェテラスで少しゆっくりしてから講義室へ行くのが習慣になっている。
「よう」
「あ、おはよ真」
「おう」
「肇もおはよう」
そして、だいたい。俺たちが一杯目の飲み物を空にし終わるころに、鬼澤 真と竜門 肇が顔を出すのも、当たり前になっていた。
二人も、俺や大和と同じところの出身だ。他にもあと三人幼なじみって呼べる奴らはいるけれど、俺たち四人以外は違う学校に行っていたり、もう就職したりしている。
だから必然的に俺たちはよく四人でいるけれど、それは単純に幼なじみという他にも理由があった。
「あ、真。痣、消えきってない」
「うおマジか。サンキュ」
「……肇は今日も完璧だよね」
「まあな」
俺が真の顔を指して言えば、大和が上から下まで肇を眺めてぽつりと零す。
そう、俺たちは常日頃、人間に擬態して生活しているのだ。
ただいまぁ、と伸びをしながら言って寮の扉を開ける。この寮は俺たちみたいの専用で、気を抜いて耳が出ようが尻尾が出ようが誰も気にしない。
「珠希なんか飲む?」
「じゃあコーラ」
共用スペースのソファーに腰を下ろすと、カウンターの向こうから大和が飲み物を持ってきてくれた。ぴこ、と頭の上に生えた、灰色の耳が揺れている。
「ありがと」
「どういたしまして」
笑って言って受け取って、ほぼ同時に口をつけた。
「今日ってどっちの部屋?大和のとこだっけ」
「一応そのつもりだけど」
「……レポート終わるかなぁ……」
「終わらせようよ。夏休みなくなっちゃうじゃん」
この後の予定を軽く話していると、寮のインターホンが来客を告げる。よく見知った顔が二つ、モニターに映し出されているのを確認してから鍵を開けた。
入口から共用スペースまでには少し長い廊下がある。一応オートロックで、遠隔での解錠をしなければ開かない玄関になっているが念の為の設計だ。突然知らない人が来ても、俺らみたいに不器用な奴らが隠れられるように。
「おつかれ」
「おつかれー。今日大和んとこな」
ひょこ、と共有スペースに覗かせた二つの顔に言って、ソファーから立ち上がる。その手には分厚いファイルがあって、今日のレポートの不安さをさらに感じさせた。
「いやマジ助かる。ノート見せて」
「お前な、少しは自分でやれよ」
「やってるって。でも珠希は見せてくれんじゃん」
大和の部屋に移動して、二つのテーブルにそれぞれ課題を広げる。組み合わせとしては、俺と真、大和と肇。取っている講義の関係でそうなるわけだけれど、俺としてはささやかな楽しみだった。
ひとしきりレポートを進めて、ある程度までいったところで腹の虫が鳴る。それを見計らっていたように、顔を上げた真と目が合った。
ふわ、と笑う顔が少し心臓に悪くて、それを誤魔化すために大きく伸びをする。
するとそんな俺を真似るように、真も両腕を上に伸ばした。同時に、その額と顔に彼の特徴が浮かび上がる。
二つの青黒い角と、同じ色の文様を描く痣。気を抜いてくれたのが嬉しくて、俺の尻尾は勝手にばさりと音を立てた。
「珠希の尻尾いいよな、ふさふさで」
「そうでもないよ。いっくら手入れしてもすぐばさばさになる、毛質固いのか知らんけど」
「ちょっと触らせて」
「……じゃあついでに梳かして。大和ブラシ借りるね」
「どうぞー」
部屋の主から許可を得て、大き目のブラシを真に渡す。よ、という言葉と共に立ち上がると、俺の尻尾を軽く掴んでブラシを当てた。
この姿が証明する通り、俺たちは人間ではない。
俺は代々妖狐の家系で、真は鬼の家系。ついでに大和は化け猫、肇は龍。
昔々は俺たちみたいなのはもっとたくさん存在していて、人と関わったり関わらなかったり、妖怪だと恐れられたり神だと崇められたりしていた。
だけれども、人はどんどん増えて。それに合わせるように、俺たちの先祖が隠れ住んでいたような、山や森なんかも次々と拓かれていって。
化け物と罵られることも少なくなかったから、その数は人と反比例するように気づけばずいぶん少なくなっていた。
「よし、終わり」
「サンキュ。上手いよなお前」
「耳もやってやろうか?」
「くすぐったいからやだ。それよかお前、また角でかくなってね?」
「そうか?自分じゃよくわかんね」
「触らして」
「ダメ」
「いちゃついてんじゃねーよさっさと終わらせろや」
『はーい』
俺と真の会話に、呆れた肇がぼやく。
少し顔が熱くなって、だけど気づかれませんように、と思いながらレポートへと戻った。
ちら、と大和と肇の机の上を伺い見ると、なんかちょっとかわいい猫の落書きなんかがあったりして。
大和が描いただろうそれを見た肇の表情が、やけに楽しそうに見える。
「そっちあとどんくらい?」
「んと、二ページくらいかな。そっちは?」
「おんなじくらい。だいぶ順調」
「飯は終わらしてからだな」
言いながら眼鏡を押し上げた肇は、相変わらずきっちりとした人間の姿だ。
「なぁ肇、戻っても大丈夫だよ?」
「いいって別に気にすんな。ほらとっとと終わらすぞ」
大和が軽く首を傾げて俺と真を見る。毎度毎度のやりとりで、この寮は俺たちみたいなの専用だから、人がくることもめったにないのにと不思議に思った。
けれど肇は、最近俺たちの前でも本来の自分の姿を見せない。それが少しばかり、寂しくもある。
「まあ、肇には肇の考えがあるもんな。よし、終わらして飯いこ」
きっとその寂しさを一番感じているのは大和だろうに、彼はそう言って笑った。
四人で夕飯を食べたあと、帰る二人を見送って。
風呂も済ませれば、あとは基本自由な時間だけれど、俺はだいたいいつも大和といた。
互いの部屋を行ったり来たりして、ゲームしたりして過ごすのが日課だ。もちろん寮には他にも似たようなやつらばかりいるから、仲良くないのかと言われればそんなこともないのだけれど。
なんだかんだ、気心知れた幼なじみと一緒にいるのが気楽だということもある。あるし、それに。
「いいなぁ、珠希は。真と仲良くて」
「何言ってんの。大和だってそうじゃん」
互いの尻尾を梳かしながら、苦笑交じりで会話をする。
「……俺も肇に尻尾、やってもらおうかな……」
「言ったらやってくれるよ。コツはあくまで冗談っぽく」
「う、うん。がんばってみよっかな」
「今度飲み会やろうよ。そしたら少しはそれっぽく言えるかもだし」
ぱた、と目の前で大和の細い尻尾が動いた。
一通りお互いの毛づくろいを終えて、飲み物と軽いお菓子を用意して。明日はレポート提出だけすればあとは休みだからと、ゆっくり話す心づもりだ。
「二人は地元帰るのかなぁ」
「真はバイトあるから帰らないって言ってたよ。肇は?」
「三日帰るとは言ってたけど、いつかは聞いてないや」
「やっぱり肇は帰るんだ……まぁ、仕方ないよね、俺らと違って肇のとこは厳しいし」
そうだね、と大和が頷く。
「寂しい?」
「……うん」
「だよね」
素直な大和が可愛く思えて、くすりと微笑みながら返した。
二人してベッドに寄りかかって、テーブルの上に広げられたものを摘まみながら話に花が咲く。
半分ほどが空になったころに、ぼそりと大和はつぶやいた。
「それにしても、珠希は心配じゃないの?」
「心配って?」
「真がさ、大学入ってから垢抜けちゃって。やけに女の子にモテてるじゃん」
俺の置いたペットボトルが、小さく音を立てる。
心配とか、そんなことを言える立場にあるはずもない。眉を下げて、小さく首を横に振った。
「知ってるよ。でも俺が何か言えるわけないじゃん」
「……ごめん」
「ううん、だいじょぶ。確かにあいつ、もともとかっこよかったのが最近ますます、その、かっこいい、けどさ」
顔が熱くなるのがわかる。
それを逃がすために息を吐くけれど、長い付き合いの大和にはお見通しなんだろう。もう一度、彼はごめんねとつぶやいた。
「あーあ!ほんと、俺ってば健気!」
「自分で言う?」
「大和も健気!」
「ちょ、珠希、苦しいって」
どさくさに紛れて抱きつけば、文句と笑い声が聞こえる。
悲しい思いをしてほしいわけもなくて、それが聞こえたことに俺はほっとして体を離した。
「しょうがないよなぁ。好きになっちゃったもんはさ」
「……そうだね」
こつんと額をくっつけて言うと、大和がはにかんで頷く。
俺たちの正体とは違い、これは、これだけは、二人だけの秘密だ。
俺は真が。大和は肇のことが、幼い頃からずっと好きだということは。
茶色の髪と、茶色の目。それだけ見ればどこも人間と変わりはしない俺、佐狐 珠希は、彼らと決定的に異なる尻尾をばさりと動かした。
毛足だけは長いものの、いくら手入れをしてみてもばさばさとした毛並みのそれは、俺のコンプレックスを大いに刺激する。
「……いったい俺はいつになったらみんなみたくなるのかな」
独り言をつぶやいてみたって、返事があるはずもなく。
呆れるほどに何度も吐いたため息をまた繰り返しながら、その尻尾と同じような毛並みの耳をしまい込んだ。
適当に選んだ服を身につけ、身支度をしてから部屋の外へ出る。鍵を閉めたところで、よく知った顔が廊下を歩いてくるのが見えた。
「おはよ、珠希」
「大和、おはよ」
にこ、と優しく笑う顔に俺もつられて笑う。
幼なじみで同郷の猫塚 大和とは、高校で一度離れたものの大学でまた一緒になってそれ以来、気安い仲だしとしょっちゅう一緒に行動していた。
俺も向こうも今日は二限からなので、時間に少し余裕がある。昨日のテレビの話や、流行りのゲームの話なんかをしながら、大学のキャンパスへと向かった。
「そういえば、もうすぐ夏休みじゃん」
「そうだねぇ」
「珠希は実家に帰省すんの?」
聞かれて、少し考える。だけど俺の選択肢はあまりない。
「帰らないかなぁ。あんまりいい気分になる気はしないし……大和は?」
「俺も帰る気ないよ」
「そっか」
その気持ちは痛いほどに理解できたので、笑って頷いた。
「帰らないって言ったらうるさいだろうけど、帰ったら帰ったでうるさいだろうし」
「同感。いつになったらちゃんとするんだなんて言われたって、俺らにもわかるわけないのにさ」
「どうにかできる方法があるなら教えて欲しいよね」
お互いにため息混じりで言い合いながら、カフェテラスへ足を向ける。まだ、講義が始まるまでには時間があった。そんな日は、いつも二人で構内のカフェテラスで少しゆっくりしてから講義室へ行くのが習慣になっている。
「よう」
「あ、おはよ真」
「おう」
「肇もおはよう」
そして、だいたい。俺たちが一杯目の飲み物を空にし終わるころに、鬼澤 真と竜門 肇が顔を出すのも、当たり前になっていた。
二人も、俺や大和と同じところの出身だ。他にもあと三人幼なじみって呼べる奴らはいるけれど、俺たち四人以外は違う学校に行っていたり、もう就職したりしている。
だから必然的に俺たちはよく四人でいるけれど、それは単純に幼なじみという他にも理由があった。
「あ、真。痣、消えきってない」
「うおマジか。サンキュ」
「……肇は今日も完璧だよね」
「まあな」
俺が真の顔を指して言えば、大和が上から下まで肇を眺めてぽつりと零す。
そう、俺たちは常日頃、人間に擬態して生活しているのだ。
ただいまぁ、と伸びをしながら言って寮の扉を開ける。この寮は俺たちみたいの専用で、気を抜いて耳が出ようが尻尾が出ようが誰も気にしない。
「珠希なんか飲む?」
「じゃあコーラ」
共用スペースのソファーに腰を下ろすと、カウンターの向こうから大和が飲み物を持ってきてくれた。ぴこ、と頭の上に生えた、灰色の耳が揺れている。
「ありがと」
「どういたしまして」
笑って言って受け取って、ほぼ同時に口をつけた。
「今日ってどっちの部屋?大和のとこだっけ」
「一応そのつもりだけど」
「……レポート終わるかなぁ……」
「終わらせようよ。夏休みなくなっちゃうじゃん」
この後の予定を軽く話していると、寮のインターホンが来客を告げる。よく見知った顔が二つ、モニターに映し出されているのを確認してから鍵を開けた。
入口から共用スペースまでには少し長い廊下がある。一応オートロックで、遠隔での解錠をしなければ開かない玄関になっているが念の為の設計だ。突然知らない人が来ても、俺らみたいに不器用な奴らが隠れられるように。
「おつかれ」
「おつかれー。今日大和んとこな」
ひょこ、と共有スペースに覗かせた二つの顔に言って、ソファーから立ち上がる。その手には分厚いファイルがあって、今日のレポートの不安さをさらに感じさせた。
「いやマジ助かる。ノート見せて」
「お前な、少しは自分でやれよ」
「やってるって。でも珠希は見せてくれんじゃん」
大和の部屋に移動して、二つのテーブルにそれぞれ課題を広げる。組み合わせとしては、俺と真、大和と肇。取っている講義の関係でそうなるわけだけれど、俺としてはささやかな楽しみだった。
ひとしきりレポートを進めて、ある程度までいったところで腹の虫が鳴る。それを見計らっていたように、顔を上げた真と目が合った。
ふわ、と笑う顔が少し心臓に悪くて、それを誤魔化すために大きく伸びをする。
するとそんな俺を真似るように、真も両腕を上に伸ばした。同時に、その額と顔に彼の特徴が浮かび上がる。
二つの青黒い角と、同じ色の文様を描く痣。気を抜いてくれたのが嬉しくて、俺の尻尾は勝手にばさりと音を立てた。
「珠希の尻尾いいよな、ふさふさで」
「そうでもないよ。いっくら手入れしてもすぐばさばさになる、毛質固いのか知らんけど」
「ちょっと触らせて」
「……じゃあついでに梳かして。大和ブラシ借りるね」
「どうぞー」
部屋の主から許可を得て、大き目のブラシを真に渡す。よ、という言葉と共に立ち上がると、俺の尻尾を軽く掴んでブラシを当てた。
この姿が証明する通り、俺たちは人間ではない。
俺は代々妖狐の家系で、真は鬼の家系。ついでに大和は化け猫、肇は龍。
昔々は俺たちみたいなのはもっとたくさん存在していて、人と関わったり関わらなかったり、妖怪だと恐れられたり神だと崇められたりしていた。
だけれども、人はどんどん増えて。それに合わせるように、俺たちの先祖が隠れ住んでいたような、山や森なんかも次々と拓かれていって。
化け物と罵られることも少なくなかったから、その数は人と反比例するように気づけばずいぶん少なくなっていた。
「よし、終わり」
「サンキュ。上手いよなお前」
「耳もやってやろうか?」
「くすぐったいからやだ。それよかお前、また角でかくなってね?」
「そうか?自分じゃよくわかんね」
「触らして」
「ダメ」
「いちゃついてんじゃねーよさっさと終わらせろや」
『はーい』
俺と真の会話に、呆れた肇がぼやく。
少し顔が熱くなって、だけど気づかれませんように、と思いながらレポートへと戻った。
ちら、と大和と肇の机の上を伺い見ると、なんかちょっとかわいい猫の落書きなんかがあったりして。
大和が描いただろうそれを見た肇の表情が、やけに楽しそうに見える。
「そっちあとどんくらい?」
「んと、二ページくらいかな。そっちは?」
「おんなじくらい。だいぶ順調」
「飯は終わらしてからだな」
言いながら眼鏡を押し上げた肇は、相変わらずきっちりとした人間の姿だ。
「なぁ肇、戻っても大丈夫だよ?」
「いいって別に気にすんな。ほらとっとと終わらすぞ」
大和が軽く首を傾げて俺と真を見る。毎度毎度のやりとりで、この寮は俺たちみたいなの専用だから、人がくることもめったにないのにと不思議に思った。
けれど肇は、最近俺たちの前でも本来の自分の姿を見せない。それが少しばかり、寂しくもある。
「まあ、肇には肇の考えがあるもんな。よし、終わらして飯いこ」
きっとその寂しさを一番感じているのは大和だろうに、彼はそう言って笑った。
四人で夕飯を食べたあと、帰る二人を見送って。
風呂も済ませれば、あとは基本自由な時間だけれど、俺はだいたいいつも大和といた。
互いの部屋を行ったり来たりして、ゲームしたりして過ごすのが日課だ。もちろん寮には他にも似たようなやつらばかりいるから、仲良くないのかと言われればそんなこともないのだけれど。
なんだかんだ、気心知れた幼なじみと一緒にいるのが気楽だということもある。あるし、それに。
「いいなぁ、珠希は。真と仲良くて」
「何言ってんの。大和だってそうじゃん」
互いの尻尾を梳かしながら、苦笑交じりで会話をする。
「……俺も肇に尻尾、やってもらおうかな……」
「言ったらやってくれるよ。コツはあくまで冗談っぽく」
「う、うん。がんばってみよっかな」
「今度飲み会やろうよ。そしたら少しはそれっぽく言えるかもだし」
ぱた、と目の前で大和の細い尻尾が動いた。
一通りお互いの毛づくろいを終えて、飲み物と軽いお菓子を用意して。明日はレポート提出だけすればあとは休みだからと、ゆっくり話す心づもりだ。
「二人は地元帰るのかなぁ」
「真はバイトあるから帰らないって言ってたよ。肇は?」
「三日帰るとは言ってたけど、いつかは聞いてないや」
「やっぱり肇は帰るんだ……まぁ、仕方ないよね、俺らと違って肇のとこは厳しいし」
そうだね、と大和が頷く。
「寂しい?」
「……うん」
「だよね」
素直な大和が可愛く思えて、くすりと微笑みながら返した。
二人してベッドに寄りかかって、テーブルの上に広げられたものを摘まみながら話に花が咲く。
半分ほどが空になったころに、ぼそりと大和はつぶやいた。
「それにしても、珠希は心配じゃないの?」
「心配って?」
「真がさ、大学入ってから垢抜けちゃって。やけに女の子にモテてるじゃん」
俺の置いたペットボトルが、小さく音を立てる。
心配とか、そんなことを言える立場にあるはずもない。眉を下げて、小さく首を横に振った。
「知ってるよ。でも俺が何か言えるわけないじゃん」
「……ごめん」
「ううん、だいじょぶ。確かにあいつ、もともとかっこよかったのが最近ますます、その、かっこいい、けどさ」
顔が熱くなるのがわかる。
それを逃がすために息を吐くけれど、長い付き合いの大和にはお見通しなんだろう。もう一度、彼はごめんねとつぶやいた。
「あーあ!ほんと、俺ってば健気!」
「自分で言う?」
「大和も健気!」
「ちょ、珠希、苦しいって」
どさくさに紛れて抱きつけば、文句と笑い声が聞こえる。
悲しい思いをしてほしいわけもなくて、それが聞こえたことに俺はほっとして体を離した。
「しょうがないよなぁ。好きになっちゃったもんはさ」
「……そうだね」
こつんと額をくっつけて言うと、大和がはにかんで頷く。
俺たちの正体とは違い、これは、これだけは、二人だけの秘密だ。
俺は真が。大和は肇のことが、幼い頃からずっと好きだということは。
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