サマーナイトパーティ

言ノ葉征

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第6話 消えた学生証 3幕

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「思ったより早かったじゃないか」
 賀茂は先ほど別れたところで確かに待っていた。何かをしていたようには見えないが、昨日出会ったばかりだし、仕方ないことかもしれないがこの男の子とはどうもよくわからない。小吉が疑うのも無理もない。僕だって信じているわけではない。

「あんたが逃げないように急いで帰ってきましたから」
 小吉は疑念から発せられている敵対心をもはや隠す気はないらしい。

「そうか、それで、見つかったのかい、君の学生証は」
 何も気にしない様子の賀茂は相変わらず飄々と言葉を並べる。

「ありませんでしたよ、さあ、これで俺たちに付き合ってもらいますからね」
 小吉はドヤ顔とほくそ笑んだ顔のちょうど中間のような顔をしている。しかし次に賀茂が口にした言葉を聞いてその表情が一変する。

「それはそうだろう、君の学生証は私が持っているのだから」
 賀茂は学生証らしきカードを右手の人差し指と中指で挟んでヒラヒラとこちらに向けてきた。
 文字通り言葉を失っている小吉を尻目に僕は賀茂の持っているカードが本当に学生証か確認する。

「確かに、これは紛れもなく小吉の学生証だ」
 顔写真から生年月日まで、どこをどうみても小吉のものだ。一応偽造という可能性も考えたが、先ほど賀茂は学生証は大抵の人間の役には立たないと言っていた。そんな人物がわざわざ偽造学生証を作っているとは考えにくい。おそらく本物だろう。

「な、何であんたが・・・!」
 小吉はようやく口を開いたかと思えばまたすぐに口を紡いでしまった。悔しいのか、うまく言葉が出てこない様子だ。

「いや、すまんな、ちょっと君に興味があってね、小口小吉くん」
 賀茂は黒いネクタイを揺らしながらゆっくりと小吉に近づき学生証を返した。

「実は、その学生証は昨日、君が大学を出た瞬間に拾ったんだ」
 淡々とした口ぶりでそのまま続ける。

「そのまま声をかけようとしたんだが、何やら面白そうな会話をしていたからね。そのまま尾行させてもらったよ。その途中で手ごろなボロ自転車が捨てられていたからちょっとした遊び心で乗ってみたら散々だったよ。でも、そのおかげで君と話す口実ができたし、結果オーライだったかな。」

「面白そうな会話?」
 小吉が僕をみながら呟いた。僕にも心当たりがない。

「暗い方が静かだとか、何とか、言ってたじゃないか、確か、君のいとこの話だったかな」

「その程度のこと、俺たちはよく話している」
 小吉はいまだにこの男が何を言っているのかわからないようだ。僕もわからない。

「そ、それで、昨日だけだと物足りなかったから今日も実は君を尾行していたんだ。」

「そういえば、さくらにいた時に窓の外を歩いていましたよね」
 僕はその時のことが印象的だったのではっきりと覚えていた。

「あぁ、あの時も実は同じ茶店にいたのさ、さくらってところ、なかなかいい店だね」

「全く気づかなかった・・・」
 小吉は空を見ながら話している。いや、話しているというよりは独り言に近い。

「ど、どうして尾行したりしたんですか、何が目的ですか!」
 僕は何となくこの男と小吉をこれ以上関わらせてはいけない気がした。

「君をスカウトするためさ」
 賀茂は小吉を指差して真っ直ぐそう言った。

「ス、スカウト・・・?」
 さすがに何を言っているのかわからなかった。いやそれまでも十分わからなかったが完全に思考が詰んだ。もちろんスカウトという言葉の意味は知っている。しかしこの男は昨日会ったばかりで素性の知らない自称探偵の怪しい男だ。そんな男がスカウトとは、いや、やはりわからない。

「なににスカウトしようと言うんだ」
 小吉はようやく少し落ち着いたようだ、それにしても動揺しすぎだった。これほど感情がわかりやすい小吉も珍しい。

「それはもちろん、我々と同じ、探偵さ」

「何で、俺をスカウトする!俺は探偵なんてしたこはない!」
 小吉は恐怖と怒りを交えたような声を出す。怒りで恐怖を消そうとしているようにも見える。

「そんなことは百も承知さ。我々がやっている仕事は経験なんて必要ない、いや、あるに越したことはないが、必要なのは思考とセンスだ。君にはその両方を感じた。」

「俺に、思考と、センスを・・・」

「探偵をやる上で必要な思考とセンスってことですか?」
 僕は自然と小吉の前に出る。

「あぁ、そうさ。決まり切ったことではないんだが、簡単に言ってしまえば、どれだけ物事をねじ曲げて捉え、考えることが出来るか、という思考力。またそのねじ曲げた考えを婉曲して表現するセンス、とでも言うのかな。それが小吉くん、君から感じ取れた。」
 ネクタイを指でクルクルしながら意気揚々と話を進める賀茂。その姿にだんだん気圧されていくのを感じた。

「そ、それが探偵をやる上でどう役に立つと言うんだ!」
 小吉もおそらく賀茂の醸し出すオーラや口ぶりに少し怯んでいるように感じる。交番を出た頃の威勢の良さは微塵もない。

「それは実際にやってみないときっとわからないよ。言ったろ、私はスカウトしにきたんだ。全てをわかってもらおうなんて思ってないし、強制するつもりもない。ただ、面白そうだって思っただけさ。」

「そんな調子のいいことを言っても俺は・・・」
 小吉は複雑な表情を浮かべていた。

「そんなに焦って考えなくてもいいさ。とりあえずはそうだな、私のスカウトを受けるかどうか、考えてくれたらいいよ。1週間あげるよ。1週間後の今日、10時半に例のさくらで返事を聞かせてもらえるかな」

 その時間は講義がある、と言おうとしたがどうせ僕たちがその講義には出ないことをわかってその時間にしたのだろう。見透かされているようで気味が悪い。そもそも僕は無関係なのだろう、スカウトされているのは小吉だけのようだ。

「それじゃ、またね、小吉くん」
 賀茂はくるりと踵を返し、コツコツと革靴で足音を刻みながら去っていった。

 僕も小吉も呆然とその姿を見送ることしかできなかった。
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