サマーナイトパーティ

言ノ葉征

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第12話 3つのルール

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「それじゃあ、今度はこちらだね。じゃあ小吉くんから」

 小吉は賀茂を一瞥して目の前にいる女性たちに向き直った。
「小口小平です。ここにきたのはほんの好奇心みたいなものなので、特に何も期待しないでください。ただ、全力でやらせていただきます。」
 女性たちは特に何も言わずに小吉の自己紹介を聞いていた。小吉の自己紹介は終わったかとおもったのだが、再び口を開いた。
「それと、隣にいるこいつ、大葉大治っていうんだけど、こいつは間違いなく逸材なので、楽しみにしててください」
 一瞬誰の何を言っているか分からなかった。しかし誰も何も喋らなかったので自分が口を開く番が来たのかと思わざるを得なかった。

「あ、は、いや、何言ってんだよ小吉。大葉大治です。僕はこの小吉について来ただけなのでいないものとでも思っていてください、はい。」
 早く何かを言わなくてはと思い最初の声が無駄に大きくなってしまったためか、最後の方は尻すぼみ、小さい声になってしまった。
 女性の2人は何もいうことはなかったが、先ほど瀬奈と名乗った女の子は少し笑っているように見えた。その笑いが可笑しくて笑っているのか、小馬鹿にしているのか、どういうニュアンスで笑っているのかは流石にこの短時間では分からない。

「さ、お互いの自己紹介も済んだところで、本題に入ろうか。まず、君たちにはとある人物を探してもらいたい。」
「佐々木里美さんですか?」瀬奈が口を開く。どうやら彼女にもその人物の名前くらいは知らされているようだ。
「あぁ、そうだ」
「どうしてですか?」今度は小吉が横槍を入れる。
「依頼人がその人物を探しているからだ」
「依頼人?」僕も思わず口を開いていた。依頼人と聞くと一気に探偵感が増すから不思議だ。今改めてここがそういう場所なのだと思った。
「数多ある我々の仕事の一つに人探しがある。それは探偵をやっていなくても想像に難くないだろう。最初から君たちに難しい案件を任せるのは流石に荷が重いだろうからまずはこの辺りからやってもらう。とは言え、正式な依頼だから、心して取り組んでほしいとは思うよ」賀茂が珍しく真面目なことを言っている、そんな印象だった。

「どうして依頼人は佐々木という人を探してるんですか?」
「佐々木という人物の特徴は何ですか?」
「俺たちと会ったときに大学近くにいたのは佐々木という人を探しに来てたからですか?」
 小吉が矢継ぎ早に聞いていく。賀茂に対しては遠慮しないようだ。
「理由は現状では分からない。ただ、あの大学にいるから、探してくれと言われたんだ。」
「特徴も分からない。名前からして女性だろうが、それ以上のことはわからないんだ。だから私も思いの外難儀しててね」
「そうだよ、あの日も佐々木さんを探してたんだけど見つからなくてね、途中で面白そうなボロボロの自転車の部品を見つけたから遊んでたんだ」
 賀茂は小吉の浅慮な質問にも顔色一つ変えずに淡々と答える。すると明後日の方向から声がした。

「ちょっと賀茂くん、また仕事サボってガラクタで遊んでたの?」
 先ほど一ノ瀬と名乗った女性が賀茂に詰め寄る。
「あ、いや、違うんですよ美鈴さん、僕の湧き上がる知的好奇心が抑えられなくてですね・・・」
「はあ、もう・・・、あまりひどいと社長に言っちゃうからね」
「それは勘弁してください、いや本当、ごめんなさい」

 これだけ狼狽している賀茂を初めて見た。賀茂もやはり人間なんだなと思えて少し安心できた。

「それにしても、手がかりがなさすぎるわね。名前と大学しかわからないなんて」
「そうなんですよね、何人か声をかけてみたんですけど、あれだけ学生がいる中で、知り合いを見つけるのは馬鹿馬鹿しく思えてきちゃいまして。学内の有名人なら調べれば出てくると思ったんですけど、何もヒットしないんですよ。」
 美鈴さんと賀茂の会話をふん、その程度か、と言いたげな顔で小吉が腕を組んで聞いている。
 僕がふと瀬奈さんに目をやると、じっと一点を見つめて何かを考えているようだった。身長はそれほど高くないが、目鼻立ちは整っている。黙っていれば間違いなく可愛いと言われるような容姿だ。口を開いたら更新されるかもしれないが。
「警察とかには言わないんですか?」瀬奈さんが熟考した後にそう言った。考えた挙句がそれか、と言いたくなったがとりあえず聞いてみることにした。

「そうだ、大事なことを言い忘れていた。我が探偵社にはルールが3つある。」賀茂が神妙な口ぶりで言う。
「ルール?」瀬奈さんが首を傾げる。何だその仕草、あざといと言われても文句は言えない。
「そ、基本的には自由なんだけど、これだけは絶対に破ってはならない、破ったら即解雇レベルの絶対的ルールよ」

 部屋にかかっている墨で「ルール」と大きく書かれた半紙を下ろして賀茂がルールを発表する。

「我らが縁の下探偵事務所の絶対的ルールをここに記す

ルール1 依頼人の情報は秘匿すること
ルール2 警察その他の公の機関に直接接触してはいけない
ルール3 3人1組のパーティで調査をすること

以上、全メンバーはこれを厳守し、依頼人のために最善を尽くすべし」

「どう?わかった?」美鈴さんが長い髪を手で撫でながら聞いてくる。

「はあ、1はわかりますけど、2のルールはこの仕事をする上で致命的ではないですか?」小吉はすっかり質問お化けになっている。
「そうかもね、でもこれは我が社ができた時からずっと掲げているルールなのよ、私たちの探偵事務所の名前の由来にもなっているんだけど、私たちは依頼人の依頼をこなすことが第一とされている。でも私たちには法的な強制力も権利もない。でもその手助けをすることはできる。私たちの理想の探偵像は縁の下の力持ち、決して表に出ずに依頼人に最大限の満足感と幸福をもたらすの。まあ、やっていけば自ずとわかるようになるわ」
 身振り手振りで説明していた美鈴さんの髪の毛があっちへこっちへと振られていくのが少し気になった。

「では、ルール3のパーティって言うのはひょっとすると」
「そう、君たちのことよ。本当は2人の予定だったから賀茂くんに入ってもらおうと思ってたんだけど、3人になったからちょうどいいわ。私たちはひとつの案件に対して必ず3人のパーティで対応するの。4人のときも2人のときもあったんだけど、3人がベストだねってことで今は3人でやってるの」
「絶対的ルールなのにそんなに曖昧でいいんですか」小吉は痛いところをついたと、僕は思った。
「ルールというのはより良くするために更新してくべきものだよ。法律だって日々変わるだろ?」小吉はぐうの音も出ないという表情だった。僕も流石に今のは賀茂の圧勝だと思った。特に競っているわけではないのだろうが。

「とにかく、君たち3人は今この瞬間から同僚でありパーティの仲間だ。ルールを厳守して頑張ってくれたまえ。もちろん私も美鈴さんもフォローするさ、心配するな」

「はあ、まあやってみますけど」さすがの小吉も情報量の多さに辟易している。

「よろしく、大治くん、小吉くん」
瀬奈さんがいつの間にか僕たちの前にきていた。
「あ、あぁ、よろしく。」
 まさかこんなことになるとは微塵も思っていなかったため、少し戸惑ったが、僕も小吉もコミュニケーションが苦手なわけではない。目的を同じとした仲間との会話なんて訳ないのだ。しかし、最初に抱いた彼女の僕に対する違和感のある反応にはいまだに懐疑的なものが拭えないでいた。
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