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第19話 天然水とスポドリと、牛乳

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「5人もいた?」僕たちは事務所までの道すがら、事実確認を行なっていた。乱れた息はすでに整っており、僕はスーパーで買った天然水を半分近く飲み干していた。

「うん、4人の少し奥に一人座ってる人がいたよ、多分女性だったと思う」そう話しながら僕の隣を歩く瀬奈はスポーツドリンクを一口飲んだだけでそのまま鞄にしまっていた。それだけしか飲まないのならかえって荷物になるんじゃないかと思っていた。
「そうか、暗いからよく見えなかった。とにかくあの連中が危険なことに変わりはないからあの場は逃げるしかなかっただろ。だからいつまでも悔しがってんなよ、小吉」
 小吉は僕たちの後ろをポケットに手を突っこんだまま物静かに歩いていた。小吉は紙パックの200ml牛乳を一気に飲み干してスーパーの前でゴミ箱に放り込んできたため飲み物は何も持っていなかった。コーヒーよりカフェラテを好むのは知っていたがまさかこんな時も牛乳を摂取しようとするとは、流石に思わなかったため、その時は瀬奈と無言で顔を合わせた。
「いや、流石にそれはもういいんだけどあいつら、初めて見たような気がしないんだよな」小吉は左手だけポケットから出して顎に手を当てながら言う。妙に様になっている。
「そう?私は初めて見たけど」
「僕も初めてかな、そもそもよく見えなかったし」
 僕と瀬奈は話す時だけ首を後ろに振り向かせた。
「顔や姿を見たことがあると言うか、癇癪玉を使ってある種の迷惑行為をしている連中の存在を聞いたんだよ、噂程度に」
「どこで?」
「いつ?」
「それぞれ別の質問を投げてくるんじゃねえよ。いつだったかな、大治とさくらで講義をサボっている時に近くの席の奴が言っていた。そうだ、賀茂を見かけた日だ」
「あぁ、あの時か。全く気がつかなかったな、僕は壁際の席だったってのもあるんだろうけど。具体的にはどう言う噂だったのか覚えてる?」いつの間にか僕たち3人は歩くのをやめて話に集中していた。
「確か、近々大学近辺で夜な夜な騒いでる迷惑な連中がいるらしいって言う話で、そいつらの話では癇癪玉や花火、時にはスプレーで壁に落書きをして近隣に迷惑をかける常習犯になってるんだって。大学側も知ってて一回注意したらしいんだけど、聞く耳持たないらしい。」
「それだけ聞くとただの不良のように聞こえるし、早々に何とかできそうなのに、何で未だにのさばってんだろうな。」僕は思わず口を挟んでしまった。
「さあな、もしかしたらその連中の中に厄介な奴が紛れ込んでるんじゃないか?」
「その人たちってみんな私たちと同じ学生なのかな」今度は瀬奈が質問してくる。
「まあ、うちの大学で噂になってるんだし、大学が注意したってことはそうなんだろう」
「それで、厄介な学生って?」
「例えば、その学生に余計なことをすると、バックにいる権力者が現れて大学的に立場が危うくなるとか。うちは私立だし、厄介な人が関わっててもおかしくない」
「とにかく、関わらない方がいいよな、僕たちがいますべきことは佐々木さんを探すことだ」
「うん、とりあえず事務所に行ってみよう。」
「そうね、これ以上考えても埒が明かないし、流石に私たちのことは覚えられてないだろうし」瀬奈はスポーツドリンクの二口目を口にして歩き出す。
「だといいけどな」小吉は再び両手をポケットに突っ込んで歩き出した。

 僕も天然水をもう一口飲み、足を前に出した。
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