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夢と過去の記憶7
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エルナは目を擦りながらも市場へ行く準備を整えていた。
昨日の出来事を思うと恐ろしさで体が強張る。
しかしハンナを巻き込んでいる以上引くに引けない。
自分から協力を仰いでおきながら、本当に辞めてしまうのは悔しい。
みすぼらしい庶民の格好をすることも、護衛が役割を果たしていないことにも文句は言ったが、自分から言い出したことを辞めてしまうことはエルナのプライドが許さなかった。
重たい足取りで何とか市場へ着く。
いつもの場所へ行くと、既にフィーネは来ていたが、いつものように明るい笑顔はなかった。
さらに一人ではなく、隣にオリバーも座っていた。
フィーネはエルナを見つけると、どことなく気まずそうに手を振った。
「エルナさん、こんにちは……」
フィーネがエルナから視線をずらしながらボソッと言う。
「フィーネ。それにオリバーまで一緒なの?」
エルナは不満な気持ちと安堵感、両方を感じた。
「今日からは俺も一緒に市場に来ることにした。昨日あんなことがあったし、女二人だけじゃどうも心配だからな」
確かに、フィーネだけじゃ心許ない。
だが、これでは何の為に市場へ来てフィーネと仲良くするのか意味がわからない。
……私何しにここに来ているの?
何でオリバーも一緒に来るの?
ハンナは問題ないって言ってたけど、問題大アリでしょ。
オリバーのこと大嫌いだし、早く屈服させてやりたいのに……。
昨日のことがあってからおかしい。
オリバーがいることに安堵し始めている。
エルナがぐるぐると考えを巡らせていると……
「あのエルナさん……」
フィーネが再び話しかける。
「昨日は……助けられなくて本当に申し訳ございませんでした」
フィーネは勢いよく顔を地面に擦り付けた。
「ちょ……いいわよ。いや良くないけど、あんなの……予想外だし、あんな大男、女のあなたじゃ歯が立たない事くらいわかるわ」
フィーネはまだ顔を上げようとしない。
「それでも、私を助けようとしたんだから、まあ許してあげるわよ……。だから顔を上げなさい。目立つでしょう!」
言葉はきついものの、エルナの声が弱弱しく、傲慢な態度ではなかったので、オリバーは何も言わずに暫く黙って二人のやりとりを聞いていた。
フィーネはゆっくり顔を上げた。
「……ねえ、フィーネ。あなたは何で……絶対に勝てないのに、あの男に立ち向かって行ったの? 何で逃げなかったの?」
フィーネは小柄で、特別な体術を習っているわけでもない、ただの使用人の女の子だ。
到底勝てる筈もない相手に、恐怖を感じながらもエルナを助けようとした。
「そんなの……当たり前じゃないですか! 大切な友人を見捨てて逃げるなんて……」
「大切な友人……?」
「あ……申し訳ございません! 私のような末端の立場にある者が、エルナさんのご友人になど到底なれる筈ないのですが……」
フィーネは思わず赤面する。
王家の方に何て失礼な事を申し上げているのだろう!
「それに……、目の前で困っている人を見捨てるなんて、母にも叱られてしまいますから」
「母?」
エルナは思わず聞き返す。
「ええ。母には人を大切にするように、優しさと思いやりの心を忘れずに、困っている人がいたら助けなさいと厳しく言われてきましたから」
フィーネはどこか嬉しそうに自分の母親について語る。
「そう。よくわからないけど……良いお母さんなのね」
エルナは感情の籠もっていない声で返す。
フィーネはそんなことには気づかず、母を褒められたと思い、更に嬉しくなった。
「母は厳しいですけど、とても優しくて……だからか、いつも母の周りには人が集まってくるんです。私も母のような立派な人間になりたい」
目を輝かせるフィーネを見て、エルナは自分の心がなぜか痛むのを感じた。
いつも姉ばかり気にかける両親。
外では、エルナの美しさを周囲に自慢しながらも、家の中では、ハンナの賢さばかりを褒め称える。
ハンナが小汚い格好をしていようが、好き勝手にさせる。
ハンナにばかり愛情を注いでいるように思えてならなかった。
だから、フィーネが母の話を誇らしげに、そして嬉しそうにしている間、エルナはとても居心地が悪かった。
「そう。とりあえず、助けようとしてくれたことに礼は言うわ。さ、この話はもう終わりよ」
居心地の悪さを取り払うかの様に、エルナは話を切り上げ、鞄から水筒を取り出す。
「今日はね、オレンジピールのブレンドティーを持って来たの」
エルナが水筒を開けると、フルーティな甘酸っぱい香りが漂う。
「オレンジピールには、お肌をきれいにする効果があるわ」
エルナが先程よりも明るく話し始める。
「お肌を綺麗に! 素晴らしいお茶ですね!」
「ええ。それに、気分を上げてくれるの。だから落ち込んだ時に飲むと元気になれるわ」
お茶のことを楽しそうに話すエルナを見て、それまで黙って聞いていたオリバーが心底驚いた様子で話に入って来た。
「お前、そんな楽しそうに話すことあるんだな。無教養と思っていたんだが、お茶のことについてはかなり詳しいんだな」
オリバーにそう言われ、エルナは当然苛つきを覚えたが、バカにするのではなく、驚きつつも優しさが感じられるような表情をしていたので、エルナは少し戸惑った。
そして、演技に決まっているでしょ? と心の中で毒づくも、完全に演技ではない自分の感情もあった。
「な……。私を何だと思っていたのよ?」
「すぐ怒る傲慢なお嬢様だと思っていたよ」
オリバーが笑いながら言う。
「バカにしてるの?」
エルナはムッとした表情をした。
ただそれだけだった。
初めて会ったあのお茶会の時みたいに、心の底から沸き上がってくる怒りは感じられなかった。
どうしてあの時、私はあんなにも怒りを感じていたのだろう……?
自分の行いに対して、オリバーが本気で蔑んでいるように感じたからかもしれない。
あの時はお茶会に参加出来なくて本当にイライラしていたし、男は常に美しい私の機嫌を伺って、下手に出るのが普通なのに、オリバーは私に対して説教して来た。
そのことが重なって怒りが爆発してしまった感じだ。
今だって、あの時みたいに怒りが沸き上がってきてもおかしくないのに、何で?
「バカになんかしてない。むしろ嬉しいと思ってるよ」
オリバーは優しい声色で否定する。
「前は、怒ってたり、高飛車な態度で周りと距離を置いてたりする感じだったからさ。こうやってちゃんと楽しく話すこともあるんだなって安心したよ」
え? 何? 嬉しい? 安心?
……意味がわからない。
エルナは混乱しつつも、自分の顔が熱を持っているかのように熱くなっているのを感じた。
◇
ハンナから市場へ行く期間は約一ヶ月だと知らされていた。
不審な男に襲撃された日からずっと、毎日欠かさずオリバーもフィーネと一緒にやって来るようになった。
当初の計画とは随分違う方向へ向かっているようだが、エルナは本来の馬鹿げた目的など忘れているような感じである。
それどころか更におかしな方向へ向かっているような感じさえした。
「エルナ。明日が最終日な訳だけれど……。どうするの? あんた、もうオリバーを屈服させるとかどうでも良くなってるでしょ?」
ハンナが幻滅した様にエルナに問いかける。
「それは……」
エルナは言葉に詰まってしまった。
その通りである。
あれ以来すっとオリバーのことが頭から離れず、毎晩寝る前には彼のことを考え、毎日たわいの無い話をしていく内に彼に惹かれていった。
……あんなに大嫌いだったのに。
美しい自分に一切媚びず、自分の意思を貫き、立場関係なく人に優しく、自分のことを助けてくれたオリバー。
「はあ……。ま、何となくそんな予感はしていたけど。で、明日は最後だけど、あの計画は実行せずに終わる?」
ハンナはつまらなさそうに尋ねる。
「……いいえ。実行しますわ。お姉様。確かに当初の予定とは違います。それは認めます。ですが……だからこそ余計に実行したくなりました」
エルナは不気味な笑みを浮かべる。
「は?」
眉根を寄せるハンナ。
「当初の目的は、オリバーを屈服させることでした。それは彼が憎かったから。変な言い方でしょうけど……。今でも彼を屈服させたいと思っています」
「……どういうこと?」
「それは……憎いからではなく、愛しいからこそです。オリバーが私と同じ気持ちでないことは感じ取っています。だからこそ、そういう意味で屈服させたいのです」
エルナの突然の告白にハンナは呆気にとられた。
……は? 何言ってるのかしらこの子。
頭の中大丈夫? ……大丈夫な訳ないわね。
あれだけ憎いって言っていた相手に惚れるなんて、本当単純馬鹿もいいところ。呆れて物も言えないわ。
「……あ、そう。でもそれならフィーネはもう必要ないし、計画を実行する意味なんてないんじゃ……」
ハンナは馬鹿馬鹿しさで気が狂いそうになるのを堪えて何とか言葉を絞り出した。
「はい。フィーネは必要ない。その通りです。だから計画通り、フィーネをオリバーの前から消さなければならないのです」
「でもフィーネは怪我したあんたを手当したり、変な男から守ろうとしてくれたりしたんでしょ? せっかく友好関係を築けていたのに、そんな相手を消してしまっていいの?」
ハンナからの問いかけにエルナは眉を寄せる。
「オリバーはフィーネをとても大切にしている。ただの、それも末端の使用人のくせに。それが許せない。私がオリバーを愛してしまった以上、彼の一番にならなければいけない」
そして更にエルナは怒りの籠った声で続ける。
「彼が一番気にかけるのは私でなければ嫌。だからフィーネには消えてもらいます」
エルナのあまりに身勝手で幼稚すぎる言動に、ハンナは呆れを通り越して面白さを感じた。
ここまで頭の狂った妹がどうなっていくのか見てみるのも悪くない。
「そう。わかったわ。じゃあ、明日は最終計画実行と行きましょう。あ、明日と言えば例の会合がある日だけど。あんたがオリバーに惚れたなら、私は断るわね」
例の会合とは、オリバーの婚約者を決める会合のことである。
「正直、私は結婚自体したくないからね。ま、向こうの両親が決めることだけど、私にも全く拒否権がない訳じゃないし」
ハンナは自分の自由が制限され、一生夫の為に尽くす人生など、心底つまらないと感じている。
「それから、計画の最後の部分は変更する方がいいのかしら? 当初の予定では、フィーネを解放予定だったけれど……?」
ハンナがそう言うと、エルナは姉の意図を理解したようにニヤリと笑った。
「ええ。変更いたします。ただ、フィーネは解放しません。これ以上、私のオリバーに近づける訳にはいきませんわ」
昨日の出来事を思うと恐ろしさで体が強張る。
しかしハンナを巻き込んでいる以上引くに引けない。
自分から協力を仰いでおきながら、本当に辞めてしまうのは悔しい。
みすぼらしい庶民の格好をすることも、護衛が役割を果たしていないことにも文句は言ったが、自分から言い出したことを辞めてしまうことはエルナのプライドが許さなかった。
重たい足取りで何とか市場へ着く。
いつもの場所へ行くと、既にフィーネは来ていたが、いつものように明るい笑顔はなかった。
さらに一人ではなく、隣にオリバーも座っていた。
フィーネはエルナを見つけると、どことなく気まずそうに手を振った。
「エルナさん、こんにちは……」
フィーネがエルナから視線をずらしながらボソッと言う。
「フィーネ。それにオリバーまで一緒なの?」
エルナは不満な気持ちと安堵感、両方を感じた。
「今日からは俺も一緒に市場に来ることにした。昨日あんなことがあったし、女二人だけじゃどうも心配だからな」
確かに、フィーネだけじゃ心許ない。
だが、これでは何の為に市場へ来てフィーネと仲良くするのか意味がわからない。
……私何しにここに来ているの?
何でオリバーも一緒に来るの?
ハンナは問題ないって言ってたけど、問題大アリでしょ。
オリバーのこと大嫌いだし、早く屈服させてやりたいのに……。
昨日のことがあってからおかしい。
オリバーがいることに安堵し始めている。
エルナがぐるぐると考えを巡らせていると……
「あのエルナさん……」
フィーネが再び話しかける。
「昨日は……助けられなくて本当に申し訳ございませんでした」
フィーネは勢いよく顔を地面に擦り付けた。
「ちょ……いいわよ。いや良くないけど、あんなの……予想外だし、あんな大男、女のあなたじゃ歯が立たない事くらいわかるわ」
フィーネはまだ顔を上げようとしない。
「それでも、私を助けようとしたんだから、まあ許してあげるわよ……。だから顔を上げなさい。目立つでしょう!」
言葉はきついものの、エルナの声が弱弱しく、傲慢な態度ではなかったので、オリバーは何も言わずに暫く黙って二人のやりとりを聞いていた。
フィーネはゆっくり顔を上げた。
「……ねえ、フィーネ。あなたは何で……絶対に勝てないのに、あの男に立ち向かって行ったの? 何で逃げなかったの?」
フィーネは小柄で、特別な体術を習っているわけでもない、ただの使用人の女の子だ。
到底勝てる筈もない相手に、恐怖を感じながらもエルナを助けようとした。
「そんなの……当たり前じゃないですか! 大切な友人を見捨てて逃げるなんて……」
「大切な友人……?」
「あ……申し訳ございません! 私のような末端の立場にある者が、エルナさんのご友人になど到底なれる筈ないのですが……」
フィーネは思わず赤面する。
王家の方に何て失礼な事を申し上げているのだろう!
「それに……、目の前で困っている人を見捨てるなんて、母にも叱られてしまいますから」
「母?」
エルナは思わず聞き返す。
「ええ。母には人を大切にするように、優しさと思いやりの心を忘れずに、困っている人がいたら助けなさいと厳しく言われてきましたから」
フィーネはどこか嬉しそうに自分の母親について語る。
「そう。よくわからないけど……良いお母さんなのね」
エルナは感情の籠もっていない声で返す。
フィーネはそんなことには気づかず、母を褒められたと思い、更に嬉しくなった。
「母は厳しいですけど、とても優しくて……だからか、いつも母の周りには人が集まってくるんです。私も母のような立派な人間になりたい」
目を輝かせるフィーネを見て、エルナは自分の心がなぜか痛むのを感じた。
いつも姉ばかり気にかける両親。
外では、エルナの美しさを周囲に自慢しながらも、家の中では、ハンナの賢さばかりを褒め称える。
ハンナが小汚い格好をしていようが、好き勝手にさせる。
ハンナにばかり愛情を注いでいるように思えてならなかった。
だから、フィーネが母の話を誇らしげに、そして嬉しそうにしている間、エルナはとても居心地が悪かった。
「そう。とりあえず、助けようとしてくれたことに礼は言うわ。さ、この話はもう終わりよ」
居心地の悪さを取り払うかの様に、エルナは話を切り上げ、鞄から水筒を取り出す。
「今日はね、オレンジピールのブレンドティーを持って来たの」
エルナが水筒を開けると、フルーティな甘酸っぱい香りが漂う。
「オレンジピールには、お肌をきれいにする効果があるわ」
エルナが先程よりも明るく話し始める。
「お肌を綺麗に! 素晴らしいお茶ですね!」
「ええ。それに、気分を上げてくれるの。だから落ち込んだ時に飲むと元気になれるわ」
お茶のことを楽しそうに話すエルナを見て、それまで黙って聞いていたオリバーが心底驚いた様子で話に入って来た。
「お前、そんな楽しそうに話すことあるんだな。無教養と思っていたんだが、お茶のことについてはかなり詳しいんだな」
オリバーにそう言われ、エルナは当然苛つきを覚えたが、バカにするのではなく、驚きつつも優しさが感じられるような表情をしていたので、エルナは少し戸惑った。
そして、演技に決まっているでしょ? と心の中で毒づくも、完全に演技ではない自分の感情もあった。
「な……。私を何だと思っていたのよ?」
「すぐ怒る傲慢なお嬢様だと思っていたよ」
オリバーが笑いながら言う。
「バカにしてるの?」
エルナはムッとした表情をした。
ただそれだけだった。
初めて会ったあのお茶会の時みたいに、心の底から沸き上がってくる怒りは感じられなかった。
どうしてあの時、私はあんなにも怒りを感じていたのだろう……?
自分の行いに対して、オリバーが本気で蔑んでいるように感じたからかもしれない。
あの時はお茶会に参加出来なくて本当にイライラしていたし、男は常に美しい私の機嫌を伺って、下手に出るのが普通なのに、オリバーは私に対して説教して来た。
そのことが重なって怒りが爆発してしまった感じだ。
今だって、あの時みたいに怒りが沸き上がってきてもおかしくないのに、何で?
「バカになんかしてない。むしろ嬉しいと思ってるよ」
オリバーは優しい声色で否定する。
「前は、怒ってたり、高飛車な態度で周りと距離を置いてたりする感じだったからさ。こうやってちゃんと楽しく話すこともあるんだなって安心したよ」
え? 何? 嬉しい? 安心?
……意味がわからない。
エルナは混乱しつつも、自分の顔が熱を持っているかのように熱くなっているのを感じた。
◇
ハンナから市場へ行く期間は約一ヶ月だと知らされていた。
不審な男に襲撃された日からずっと、毎日欠かさずオリバーもフィーネと一緒にやって来るようになった。
当初の計画とは随分違う方向へ向かっているようだが、エルナは本来の馬鹿げた目的など忘れているような感じである。
それどころか更におかしな方向へ向かっているような感じさえした。
「エルナ。明日が最終日な訳だけれど……。どうするの? あんた、もうオリバーを屈服させるとかどうでも良くなってるでしょ?」
ハンナが幻滅した様にエルナに問いかける。
「それは……」
エルナは言葉に詰まってしまった。
その通りである。
あれ以来すっとオリバーのことが頭から離れず、毎晩寝る前には彼のことを考え、毎日たわいの無い話をしていく内に彼に惹かれていった。
……あんなに大嫌いだったのに。
美しい自分に一切媚びず、自分の意思を貫き、立場関係なく人に優しく、自分のことを助けてくれたオリバー。
「はあ……。ま、何となくそんな予感はしていたけど。で、明日は最後だけど、あの計画は実行せずに終わる?」
ハンナはつまらなさそうに尋ねる。
「……いいえ。実行しますわ。お姉様。確かに当初の予定とは違います。それは認めます。ですが……だからこそ余計に実行したくなりました」
エルナは不気味な笑みを浮かべる。
「は?」
眉根を寄せるハンナ。
「当初の目的は、オリバーを屈服させることでした。それは彼が憎かったから。変な言い方でしょうけど……。今でも彼を屈服させたいと思っています」
「……どういうこと?」
「それは……憎いからではなく、愛しいからこそです。オリバーが私と同じ気持ちでないことは感じ取っています。だからこそ、そういう意味で屈服させたいのです」
エルナの突然の告白にハンナは呆気にとられた。
……は? 何言ってるのかしらこの子。
頭の中大丈夫? ……大丈夫な訳ないわね。
あれだけ憎いって言っていた相手に惚れるなんて、本当単純馬鹿もいいところ。呆れて物も言えないわ。
「……あ、そう。でもそれならフィーネはもう必要ないし、計画を実行する意味なんてないんじゃ……」
ハンナは馬鹿馬鹿しさで気が狂いそうになるのを堪えて何とか言葉を絞り出した。
「はい。フィーネは必要ない。その通りです。だから計画通り、フィーネをオリバーの前から消さなければならないのです」
「でもフィーネは怪我したあんたを手当したり、変な男から守ろうとしてくれたりしたんでしょ? せっかく友好関係を築けていたのに、そんな相手を消してしまっていいの?」
ハンナからの問いかけにエルナは眉を寄せる。
「オリバーはフィーネをとても大切にしている。ただの、それも末端の使用人のくせに。それが許せない。私がオリバーを愛してしまった以上、彼の一番にならなければいけない」
そして更にエルナは怒りの籠った声で続ける。
「彼が一番気にかけるのは私でなければ嫌。だからフィーネには消えてもらいます」
エルナのあまりに身勝手で幼稚すぎる言動に、ハンナは呆れを通り越して面白さを感じた。
ここまで頭の狂った妹がどうなっていくのか見てみるのも悪くない。
「そう。わかったわ。じゃあ、明日は最終計画実行と行きましょう。あ、明日と言えば例の会合がある日だけど。あんたがオリバーに惚れたなら、私は断るわね」
例の会合とは、オリバーの婚約者を決める会合のことである。
「正直、私は結婚自体したくないからね。ま、向こうの両親が決めることだけど、私にも全く拒否権がない訳じゃないし」
ハンナは自分の自由が制限され、一生夫の為に尽くす人生など、心底つまらないと感じている。
「それから、計画の最後の部分は変更する方がいいのかしら? 当初の予定では、フィーネを解放予定だったけれど……?」
ハンナがそう言うと、エルナは姉の意図を理解したようにニヤリと笑った。
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