Bloody Rose〜血染め女王の罪と罰〜

鳩谷つむぎ

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夢と過去の記憶12

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地下牢に着くと、使用人達に押さえつけられ、涙目で震えているフィーネの姿があった。

今日はまだ、何の失態も犯していない。

なのに、どうしてここへ連れてこられたのか、彼女は全く理解できなかった。

ただ一つ分かっているのは、エルナの機嫌が頗る悪いということ。

エルナはフィーネの姿をとらえるや否や、鬼の形相で睨みつけた。

「エルナ様……どうして……?」

フィーネは恐れながら尋ねる。

そしてエルナから返ってきた言葉に耳を疑った。

「理由なんて何でもいい。私はお前が気に入らない。……どうしてお前がオリバーに愛される? 身分も低く、醜いお前がどうして!」

フィーネはエルナの言っている事が全く理解できなかった。

オリバー様が私を愛する? 

そんな事ある訳ない! オリバー様は小さい頃から一緒に遊んでくださった大切な友人……。

エルナ様は勘違いされているのだわ!

「ち……違います! エルナ様! オリバー様は私にそのような感情は抱いておりません! 私もオリバー様に対して尊敬の気持ちしかありません!」


フィーネは必死に否定するが、火に油を注いだようである。

「お黙り! お前は私に意見するつもり?」

エルナの怒りは収まることなく、どんどん激しくなっていく。

「お前達、この女を縛りあげなさい!」
使用人達に命じ、フィーネは縄で体を縛り付けられた。

「お前はもう、使用人としての仕事はしなくていいわ」

「え……?」

困惑した表情を浮かべる。

「お前は死ぬまで、地下牢に閉じ込めておく。毎日拷問で苦しめばいい。本当は死刑になる筈だったんだから、例え拷問で死んでも文句言う人間はいないわ」

エルナから発せられた言葉に、フィーネは頭の中が真っ白になる。

「でも、簡単には死なせないわよ。お前にはとことん苦しみを味わってもらうから」

フィーネの心臓が跳ね上がり、呼吸が荒くなる。

「さ、お前達、始めなさい」

エルナの合図で、使用人達は、昨日と同じく、革製の鞭と焼きごてを用意した。

いつもは衣服の上から背中に向けて打ちつけるだけであったが、今回は背中だけに留まらず、顔面にも幾度なく振り下ろされた。

バチンバチンと鋭い音を立てて、鞭がフィーネの頬を腫れ上がらせていく。

情け容赦なく、何度も、何度も打ちつける。

「止めなさい」

エルナが使用人に鞭打つ手を止めるように命じた時には、フィーネの顔は赤くパンパンに腫れ上がり、元の顔立ちが分からない程になっていた。

「鞭はこの位にして、次にいくわよ」

そう言われ、使用人達は高音に熱した焼ごてを、鞭で何度も打たれ、ミミズ腫れになっている背中に押し当てた。

「ひっ……ぎゃあああああ!」

声にならない絶叫が牢内に響き渡る。

昨日のように、気絶していたなら、まだマシだったが、今回は意識がハッキリしており、想像を絶する痛みがフィーネを襲う。

その様子を見て、エルナが可笑しそうに笑う。

「あははは! いいわね! 最高だわ!」

そして今度は、既に赤く膨れ上がった頬にも押し付ける。

「っがあああああっ……」

けたたましい叫び声と共に、あまりの激痛にフィーネの意識は途切れた。

「……死んじゃった?」

エルナはまたもや不満そうに言い、使用人に生死を確認させる。

使用人がフィーネの顔に近づく。

「いえ、まだ息はあります。気絶しているだけですね」

それを聞いてエルナが悪魔のように微笑む。

「良かったわ。すぐに死んだらつまらないもの」

使用人はフィーネの意識を覚醒させようと、冷水を準備しに外へ出ようとするが……。

「待って」

エルナが使用人を引き止める。

「今日はここまでにするわ。続きは明日にしましょう」

「承知いたしました」

エルナはそう言うと、牢から出て鍵をかけた。

こんな状態で逃げられる訳ないのだが、念のためである。


意識を失ってからどの位の時間が経ったのだろうか。

フィーネはゆっくり目を開ける。

それと同時に鋭い痛みが全身を駆け抜けた。

「っ……! ああああ! 痛い! 痛い!」

額から脂汗が噴出し、苦悶の表情でのたうち回る。

助けて……助けて! 誰か……!

暫く暴れ続けていると、段々、痛みにも慣れてきた。

すると、自然と涙が止めどなく溢れてくる。

ここに来てから、どれだけの涙を流したのだろう……

酷い拷問に合い、それがこれから毎日続く……

「……?」

その時、フィーネは牢の隅に何かが置かれていることに気づいた。

痛みに悶えていて、今まで気づかなかった。

「……なに?」

必死に体を滑らせ、手を伸ばす。

そこにあったのは、濃い茶色の液体と白く濁った液体。

昨日、ハンナが渡した物と同じ液体であった。

「これは……昨日ハンナ様が下さった薬……。痛み止めの方は昨日飲んだし、白い方は、使用人部屋に隠してある。どうしてここに……?」

フィーネは不思議に思いながら薬をじっと見つめる。

濃い茶色の方は痛み止め。

すごく苦いけど、痛みが嘘のように消える。

もう一つの白く濁った方は、最後の手段……

そしてハンナに言われたことを思い出す。

『今よりもっと……辛い状況が来て、耐えられなくなった時に、飲みなさい。一切の苦しみから瞬時に解放してくれるわ』

「……痛みじゃなく、苦しみからの解放……」

『……但し、これを飲めば、二度と大切な人達と会うことは叶わない。この意味……わかるわね?』

「でも大切な人と二度と会えない……」

フィーネは脳裏に、自分の母やオリバーのことを思い浮かべた。

エルナに言った通り、オリバーに尊敬の念以上の想いは抱いていない。

けれども、フィーネにとって、彼は大切な友人だ。

この二つの薬を前に、フィーネはハンナから、どちらか選択しろと言われているように感じた。

濃い茶色の痛み止めを飲み、いつか助けられるという希望を捨てずに拷問に耐え続ける日々を送るか。

それとも……

白い濁った薬を飲み、大切な人と会えないという犠牲を払って、一切の苦しみから逃れるか。

昨日は、意味がよくわからなかったけれど、今漸く分かった。

……希望なんて、ない。私はローレン家から身柄を引き渡された身。

もう二度とローレン家に戻ることは許されない。

あんな拷問、毎日されたら、生きていられる訳ない。

何かとびきりの奇跡が起きない限り、私は一生……。

それでも奇跡を信じて耐える?

……ううん、そんなの無理だよ。

……最初から選ぶべき答えなんて分かっていた。

「ああ。せめて最後に一目会いたかったな……オリバー様、立場関係なく一緒に遊んでくれて、友人として大切にしてくれてありがとう。お母様……親不孝な娘でごめんね」

フィーネはそっと白い濁った液体の入った瓶を手に取る。

蓋を開けると、フワッとフルーティな甘酸っぱい香りが漂う。

「痛み止めと違って、良い香りなのね」

フィーネはクスッと小さく笑う。

そして ゆっくりと口に含む。

甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がる。

……何だかエルナ様に頂いたお茶の味と似てるような……

何て言ってたっけ……

忘れちゃったけど、とても美味しい……

全て飲みきると、身体中が暖かい何かで包まれているような感じがした。

とても心地よく、眠気を誘う。

そして、視界も段々と狭くなっていく。

……ああ、これで解放される。

……お母様、オリバー様、どうかお元気で……

……さようなら。

そこでフィーネの意識は完全に途切れた。

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