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第12話 青春の味はちょっぴり焦げた砂糖菓子に似ているようです
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「ここが厨房ですか?」
廊下の突き当りにある少々古めかしい印象を与える扉を前に、コヨミは表札に書かれている文字を読み上げた。
「ラッ……シェ、ランテ?」
「コヨミさんて文字が読めるんですね」
ブラックレターという字体に似てはいるが見覚えのない形をしている英字、語学力がゼロに等しい自分に何故読めたのか不思議に思いつつ頭に浮かんでくる単語の意味をそのまま口に出した。
「おとといきやがれ……」
なんて暴力的なメッセージなんだ。
「ふふふ、私も読み方を先輩に教えてもらったときにはびっくりしました。これもホダスティルモ様のせいらしいんですけどね。ディナーが出てくるまで待ちきれなくて頻繁につまみ食いに来ていたそうなんですよ。これを誰が書いたのかは知りませんけど、だいたい想像はつきます」
メルヴィーさんなんだろうなぁ、おしとやかそうに見えて腹黒いから。
ゾクリ。
急に背中に寒気を感じたので後ろを振り返ってみると黒い影がちょうど廊下脇の部屋に消えて行くところだった。
何今の……。
思っていたより薄暗いのは窓の数が少ないからなのだろうか。普段は十人程のメイドが料理を作るためにひしめいているであろう空間には誰もおらず、木造の壁の隙間から漏れる冷たい外気のせいで一層寂しさを感じさせた。速足で石窯の前まで駆けて行ったシノは厚手の布を手に巻くと黒い金属でできた蓋を開いて中のプレートを引っ張り出した。
「コヨミさんいい感じですよ。ちょっと火が通り過ぎちゃってる気もしますけど」
小麦色の焼き菓子は確かに一部赤焦げているようにも見える。
「おひとついかがですか?」
甘いものは嫌いじゃないけど、見た目があまりにその…………残念。
普通はクッキーと言えばいたく潰した生地を抜き型を使ってハートマークや星形に切り抜いていくと思うのだが、今目の前に突き出されているものは粘土でもこねくり回した様にデコボコで、おまけに材料の配分を間違えているののかやたらと表面がひび割れていて粉っぽい。
シノさん料理下手なんだなぁ。
そうはいっても女の子に勧められたもの拒否できるほどの人生経験のないコヨミは受け取った食べ物だろう物をしげしげと見つめ思い切って口に放り込んだ。ざらざらした触感とわずかに炭化した苦みが口に広がった。しかしこれは……。
「わりとおいしいかも」
クッキーというよりはビターを少し効かせた砂糖菓子を食べているような気がしたが、おやつというカテゴリーで考えるのならありのような気がする。
「よかった。じゃあ私も――って、あぁやっぱり先輩みたいには上手くできてないですね」
残念そうに苦笑するシノはがっかりと肩を落とした。
けれど落胆して諦めるといった印象は感じず、前向きに努力して頑張ろうとする芯の強さが伺えた。
「もう一度作らない?」
僕は反射的に自分の口から出た言葉にびっくりした。
他人の心を支えるために自分から何かを申し出たことなんて一度もなかったから。
廊下の突き当りにある少々古めかしい印象を与える扉を前に、コヨミは表札に書かれている文字を読み上げた。
「ラッ……シェ、ランテ?」
「コヨミさんて文字が読めるんですね」
ブラックレターという字体に似てはいるが見覚えのない形をしている英字、語学力がゼロに等しい自分に何故読めたのか不思議に思いつつ頭に浮かんでくる単語の意味をそのまま口に出した。
「おとといきやがれ……」
なんて暴力的なメッセージなんだ。
「ふふふ、私も読み方を先輩に教えてもらったときにはびっくりしました。これもホダスティルモ様のせいらしいんですけどね。ディナーが出てくるまで待ちきれなくて頻繁につまみ食いに来ていたそうなんですよ。これを誰が書いたのかは知りませんけど、だいたい想像はつきます」
メルヴィーさんなんだろうなぁ、おしとやかそうに見えて腹黒いから。
ゾクリ。
急に背中に寒気を感じたので後ろを振り返ってみると黒い影がちょうど廊下脇の部屋に消えて行くところだった。
何今の……。
思っていたより薄暗いのは窓の数が少ないからなのだろうか。普段は十人程のメイドが料理を作るためにひしめいているであろう空間には誰もおらず、木造の壁の隙間から漏れる冷たい外気のせいで一層寂しさを感じさせた。速足で石窯の前まで駆けて行ったシノは厚手の布を手に巻くと黒い金属でできた蓋を開いて中のプレートを引っ張り出した。
「コヨミさんいい感じですよ。ちょっと火が通り過ぎちゃってる気もしますけど」
小麦色の焼き菓子は確かに一部赤焦げているようにも見える。
「おひとついかがですか?」
甘いものは嫌いじゃないけど、見た目があまりにその…………残念。
普通はクッキーと言えばいたく潰した生地を抜き型を使ってハートマークや星形に切り抜いていくと思うのだが、今目の前に突き出されているものは粘土でもこねくり回した様にデコボコで、おまけに材料の配分を間違えているののかやたらと表面がひび割れていて粉っぽい。
シノさん料理下手なんだなぁ。
そうはいっても女の子に勧められたもの拒否できるほどの人生経験のないコヨミは受け取った食べ物だろう物をしげしげと見つめ思い切って口に放り込んだ。ざらざらした触感とわずかに炭化した苦みが口に広がった。しかしこれは……。
「わりとおいしいかも」
クッキーというよりはビターを少し効かせた砂糖菓子を食べているような気がしたが、おやつというカテゴリーで考えるのならありのような気がする。
「よかった。じゃあ私も――って、あぁやっぱり先輩みたいには上手くできてないですね」
残念そうに苦笑するシノはがっかりと肩を落とした。
けれど落胆して諦めるといった印象は感じず、前向きに努力して頑張ろうとする芯の強さが伺えた。
「もう一度作らない?」
僕は反射的に自分の口から出た言葉にびっくりした。
他人の心を支えるために自分から何かを申し出たことなんて一度もなかったから。
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