コミュ症の久美が大自然へ挑む惑星移民のSFファンタジー

乙巴じゅん

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初めの章

ライバルか

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 空中で下へ向けたモニターが森を移すが、岩肌に映る光るもの。何か人工の建物がある。
「杏樹の家かな。あそこへ戻ってくるかしら」
 久美はグライダーを近づかせる。10平方メートルぐらいの平屋みたいだ。箱型で、家というより倉庫の感じ。
 岩肌が剥きだすが、草地もあり、そこへグライダーは着地する。犬の行方は、ここで待てば、教えてくれるだろう。近づくと、入り口だろうか、奥まった番所がある。強化プラスチックで作られているらしい。
「中へは入れないかな。無断で入るわけにいかないか」
 タウンでは他人の部屋へ無断では入らないように決められているし、個人のことへ立ち入らないように奨励されていた。もっとも、この建物へ簡単には入れるわけもない。
 周囲を回るときに、地面を蹴る音。魔進がここへやってくるが、グライダーの方へ近づく。杏樹としてはグライダーの中に、久美がまだいると判断したのだ。
「おーい。杏樹。こっちだよ」
 久美は声をかける。
 振り返る杏樹が、しゅんっ、と空気を切って跳び、近くまで来る。
「てめぇは。もう許さない」
 隠れ家を見つけられた思いだ。さっそく胸のふくらみを持ちあげて炎の玉を発射する。
 すかさず避ける久美。
「ここで監視してるんだね。犬は大丈夫だったかしら」
「餌の豊富な山奥へ戻したから。それより、あなたは、もおっ」
 杏樹は剣を抜いて構える。
「私と手を組めば許してやろう。そうじゃなかったら危険生物として処理する」
「あなたが危険生命体でしょ。人類の敵よ」
「惑星メタフォーは人類のものじゃないの。それに手間が省けたわ。ここからは逃げられないのよ」
 手を上へ上げると、魔進が近づく。久美も短剣を抜いて構える。今はちょっと考える余裕もある。刃物の使い方を補助脳が提示して思い出した。スピン、スマッシュは最後の武器として取っておきたい。
 叩いて切るのではない。基本は横に引く。斜めにすると切りやすい。そうする間にも魔進から巨大アメーバーのアミバが現れる。
「今度は逃げる場所もないよ。おとなしく手下になるか、消化されるかだ」
「どっちも嫌だなあ」
 例のごとく覆いかぶさり包み込むアミバを短剣で、しゅっ、と切る。元に戻ろうとするのを、縦横に切り分けて、遠くに捨てる。
「使い方が上達したね。呑み込みが早い。惜しい腕だ」
 炎の玉を打つ準備をするが、アミバも巻き添えになるのは避けたい。
「なるほど。小さくなって動いている。やはりアメーバーなんだ」
 切られた破片が動くのをみて安心する。久美は背中からも手繰り寄せて切り刻む余裕ができた。
「もう。危機感のない人だなー。久美は絶体絶命なの」
 アミバのことは諦めて、炎の玉を打つ態勢に入る。久美はそれに気づくと両足を揃えて直立する。
 しゅっ、杏樹の胸からガスの音で、炎が点く。
「スピーン」回転する久美。
 右足を軸に回転して左足と両手でバランスを取る。炎の玉も弾かれた。フレアスカートが広がり浮き上がる。アミバのかけらが飛び散る。
「スマッシュ」両手を広げ、三回転で止まるが、杏樹を驚かせるには十分だ。
 じっさいは久美も、頭がふらふら、としているが弱みを見せられない。
「いつ短剣が飛ぶかしら。いくわよ」
「やれるかしら」
 杏樹は人類の体力も計算しているし、状態を見抜いている。くるくる回る久美が短剣を離す態勢に入るが、中心点の足元で、ばしゅっ、と炎の玉が弾ける。
「あわわわっ」
 バランスを失う久美。回る勢いで転がるが短剣を構えて、杏樹へ、またぶつかっていく。
「何度も、あなたは」
 倒れながらいう杏樹。がしっ、二人の剣があわさり、火の粉が飛び散る。
「近づけば、こっちのものよ」
 久美は相手の剣を、蹴飛ばして弾こうと思うが、今の態勢で足が届かない。もう片方の手でもぎ取ろうとする。
「甘いわね」
 杏樹が逆に片手で剣を取り、久美の短剣をもぎ取ろうと手を伸ばしながら、ジャンプして離れようと身体を丸める。
 久美は、その足に抱きつき引っ張り上げる。短剣が、からから、と石の上に転がる。
「そんな技、通用しないって」
 杏樹は上半身を起き上がらせるが、後ろについた両手は剣を離してしまっている。
「武器がなければ、私が勝ちよ」
 相手の襟を掴んで組み倒す。
 杏樹が解放された足を組みかえて捻る。立場が逆転して、久美は下になる。
「誰が勝ちよ。この、ひんにゅうが」
 杏樹も久美の襟を掴んでスカーフを外す姿勢になる。
「なんですって。あなたのは、ただの飾りパイじゃん」
 杏樹の襟付きベストの胸元をぐいぐい広げる。ちょっと、どういう展開か読めないが、女の喧嘩が始まった。

 久美は流れる汗と岩場の痛さがきついが、杏樹のベストとスカートは剝ぎ取りたい。武器があれば、今も仕掛けるかもしれない。
 杏樹としても久美のスカートに収められた武器をすべて調べてみたい。脱がし合いは続くが、埒があかないと杏樹は久美のポニーテールを掴んで引っ張る。
「いててっ」
 頭を持っていかれる。それならと、杏樹の手首を掴んで振り回す久美。遠心力が好きみたいだ。
「髪を離しなさいよ」
「もう何をしているか、訳が分からない」
 二人は目的が違うと気づく。杏樹がゴーグルを外して笑う。
「惑星メタフォーの自然をどうするかでしょ。ここで争っても仕方ないか」
 髪から手を離せば、久美も杏樹の腕を離した。
「そうだね。私はどんな試練でも生き抜いてみせる」
「生身の身体で大変だけれど、一人じゃ何もできないのよ。仲間はいないの」
 杏樹の経験で、人類は群れを作り行動すると記憶している。これは久美が苦手なこと。
「タウンの外へ出たがる人はいるかな。でも、外での生活は、一人じゃ大変だと分かった」
 vwxyの仲間も、どこまでタウンの外で生活するのを望んでいるかわからない。幼いころの遠足の延長ぐらいに思っている人が多いように思えた。
 杏樹は砂利道で幾度か会う人類に、一人で、というのは久美が初めてらしい。
「なにかしたいなら本当の仲間。友達というのが必要だよ。久美はそれが先だな」
「知ったようなことを。でも、その通りかも」
 ここで一時休戦ということになる。 久美にとっては惑星メタフォーの自然が相手であり、人類が暮らせる方法を手探りする挑戦は始まったばかりだ。

 久美は顛末を報告したが、砂利道から遠く離れたことを忠告される。グライダーから映された映像も解析率が低い。
「アンドロイドというより、魔女と間違われるような、猿が居るのかも知れない」
 その予想が納得できるという結論をする。

 三日ほどしてから、久美はpyupyapyoタウン管理センターにきた。惑星管理局の代理人が迎える。
「マザーコンピューターから直接に指示が来た。vwxy計画のことで、支給するものがある」
「今度からは、外へ行ったのは内緒にしますから。安心してくださいね」
 そのことでは叱られると考えた。
「いや。指摘はないが。警告もなかった。ただ、久美へ特別に配布するように指示があった。それが何を意味するのかは不明だ」
 久美は、タウンの外へ出ても良い、と解釈する。そのための装備品を持ってきたらしく、小型の箱に入ったもので、開けて説明する代理人。
「殺獣スプラッシュ銃と髪を止めるシュシュ」
 かなりの毒性の液体を噴射する、水鉄砲のような殺獣スプラッシュ銃は人体にも影響を与えるから、ストレート噴射が推奨される。これで、この前の犬は退治できるが、最後の手段として使うべきと思う久美。杏樹のいう保護という言葉にも同意する面があり、邪魔者はやみくもに抹殺、でもない。
 シュシュは一見、髪を団子にしたりポニーテールにしたりできる飾りに見えるが、頭を守る透明で薄くて強いベールがついている。グライダーを遠隔操作する指示端末もついているらしく、役に立つ道具になるが、久美は未だ知らない。

 道具も揃った。しかし、自然界は何があるか分からない。
 そして束縛から解き放たれた人類は、また同じことを繰り返すのか。それが一番に憂いすることだ。食い気と色気は根源的な欲望だ。マウントを取りたがる人が多いように、支配欲と自己肯定を混同する人も多く、なにで要求を満たすか模索していた。
 もっとも経済を模索する動きはあり、厄介なことが起こる。

 月乃とは連絡取れるように心がけていたから、新しいシュシュでポニーテールにした姿の写真を送る。このような何気ない情報交換も大切だが、相手は月乃しかいない久美。さっそくとタウンの外へ出かける準備をした。
「なぜか杏樹に会いたいんだよね。ぶつかり合うのも、何か理解し合いたいからだから」
 そういう交流は久美が一番に欠けている部分で、無理にでも、そういう関係になる杏樹はライバルでもある。ただ、ヒューマノイド。 しかし、タウンの人類よりは、生きている存在、として感じられた。

初めの章・終

 


















 

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