コミュ症の久美が大自然へ挑む惑星移民のSFファンタジー

乙巴じゅん

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終わりの章

翼竜アホタレ

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 翼竜アホタレの飛来が増えて、調査に行こうとする久美。グライダーは胴体へ羽をくっつけて保管されていた。
「出動準備」
 合図で2対の羽が開く。砂利道へ続く広場が活動拠点。
「あれっ。ここへ来た」
 空で旋回しながら降りて来る、鳥のようなもの。翼竜アホタレだ。正式には翼竜アルファ・テホゾー・クサクソタレ。
 アホタレは白鳥のような羽を持つが、3本の爪が,翼竜の証として生える。長い足は太腿まで筋肉が付くように太い。飛べるのかと思うほど丸々とした体形。
 久美が翼竜の降りた場所へ着くとアホタレは野菜の中へ頭を突っ込んで物色している。翼を折り、爪と足で立っているふうだ。首は器用に曲げられるらしいが、これだと、人間の肩ぐらいの背丈。
「このアホタレが」
 3人の男性体形が捕らえようとするが、羽を広げてはじき返す。思い切り広げた羽は片翼2メートルぐらいか。当たりの野菜もなぎ倒した。
「ぐわっ」
 アホタレが怒って首を引きあげて男たちへ顔を向ける。探していたミミズが嘴に挟まれたまま暴れている。野性動物は結構するどい目をしているし、相手は翼竜、まだ未知の生物だ。
「石をぶつけろ」
 一人がいうと何人かが土の上から石を拾う。これで逃げるかな、と思う久美。石を投げる名手でもなければ、特殊な石でもないはず。
「危ないから。離れて」
 アホタレの正面へ進み出る久美だが、石が翼竜の頭へいくつも飛ぶ。それを軽く避けると、がうっ、男たちへ遅いかかるアホタレの嘴。
「あぎゃっ」
 悲鳴を上げて転がる。慌てて逃げる者を、立ち上がり追うアホタレ。足が長く、人間の背丈より高い所で翼竜の灰色の毛が波打つ。
「待ちなさいよ」
 久美は蛸鞭でアホタレの尻を叩く。短い尻尾に当たり、ぴくぴく跳ねる。
「はぅーっ」
 翼竜は直接に手を上げた者へ憎しみも湧くらしい。足を不器用に動かして久美と相対する。
 まわりでは救急ロボットが来て、怪我した者たちを運んでいく。
「あなたは。あの調査員」
 人々はそのようなことも囁き合う。秘密にしたいが、半ば気づいてもいる者はいた。しかし、久美は今も相手をしている暇はない。
 また何か仕掛けないか、とアホタレも様子をみる。おとなしく食事をさせれば文句もないだろう。
「害をなすものは成敗するしかないよね」
 久美は短剣を抜き取り構える。これなら翼竜の腹に届くだろう。
 アホタレは太陽に当たり光るものへ危険を感じたか、嘴で突き落とそうと、頭を突進させてくる。久美は翼竜の足元へ逃げて、腹を、しゅっ、と切った。深く刃が入り込んだが、毛がふわふわ落ちて来る。
「そうなのね。胴体はかなり細い。おっと」
 鋭い足の爪を避けて、再び前へ移動しながら蛸鞭を構える。
 どこへ逃げたか、探していたアホタレと目が合う。開く嘴に野菜を手づかみして突っ込む。
「はむっ」
 条件反射で咥えるアホタレ。その隙に鞭で首を巻き付ける。
「ぐわっ」
 アホタレはびっくりして振り払おうとする。
 久美は引っ張り振り回す予定だが、首が長い。
「あわわっ」
 久美は逆に振り回されて畑を転がる。勝ち誇ったように餌を漁るアホタレだが首をくねらせて頭を上げる。ハニャーの足が嘴に巻き付いている。
「はっにゃにゃ」
 ハニャーも休憩中を邪魔されたらしく機嫌がわるい。大きく7本の足を広げる。
「7本足だ。あのハニャーだ」
 騒ぐ外野は気にしない久美。弱点はどこか観察する。
「首の付け根か。それとも足を」
 後ろから足を切る方法が現実的と思うが、生きて暴れるのをどうしたものかと考える。しかし、そんな場面でもない。
 アホタレは首を巡らせ嘴を旋回させる。さすがにハニャーもするっと抜ける。
「厄介だよね。しかたないか」
 スカートの襞から 殺獣スプラッシュ銃を取り出した。人体にも影響を与えるが、直接にかけなければ効かないし、自分も気分が悪くなる。
「顔か首は皮膚も見えるから、効果が期待できる」
 射程範囲まで近づくが、アホタレが首を上げる。追って、銃口を上へ向ける。
「きゅるるっ」
 喉が鳴り、急に足を伸ばして羽ばたくアホタレ。射程内から遠く浮かび上がり、ぶしゃー、尻からシャワー状に液体を噴射。
「いま糞をするか」
 久美は慌てて横へジャンプして避ける。この翼竜を一番に嫌う理由は、この腐った魚みたいな匂いをまき散らすから。だからクサクソタレと名付けられている。
「またやられた」
 人々もざわめく。臭いも嫌だが、調べると病原菌も豊富に入っているという。前は世界中でも、忘れたころに被害がでていたが、最近は各地で被害が増えてきている。
 久美はグライダーの方へ急いで、乗り込むが、アホタレはとっくにどこかへ飛んで行ったらしい。
「杏樹の仕業か。いや。何かを知っているかもしれない」
 久美は、こっちから杏樹へ会いに行こう、と決める。

  杏樹のいる岩場に近づくと、二頭のアホタレが離れた岩陰で休んでいる。やはり関係があるはず、と近づけば空から、ひゅーっ、と突風が吹き、魔進が舞い降りる。安寿は遠出をしていたらしい。
「久美か。わざわざ何の用だ。意味のない争いは無駄だよ」
「アホタレのことよ。二頭も飼っているのね」
 睨むが、相手は知らない顔。
「勝手に来たんだが、とうとう卵を産んだらしい」
 追っ払ってもくるし、留守の間に巣のように使っているようだ。
「始末しなさいよ。あなたなら簡単でしょ」
 杏樹の剣と跳躍力だと、簡単に倒せると思う久美だが、首を振る杏樹。
「野生の奴は、動きを察知するのが上手い。胴体はなかなか切れないし、足は堅くて強い」
 結局は分厚い毛が邪魔をするのだ。久美もタウンでは、切っ先が表面を切ったと気づく。
「すると、杏樹も持て余していると」
「このニューガイア大陸で共存できるなら構わないと思う」
 生物には食の連鎖があり、環境も変化しながらも連鎖するとの主張だ。
「臭いのよ。それにタウンで人へ被害も出ている」
 人類の生活を考える久美とは相いれない。
「だからさあ。生態を調べているから」
 杏樹は諭すようにいう。清潔好きなアホタレは、住処から離れて汚物を捨てるし、狭いパーソナルスペースだが、独占欲が強い。
「どこかで聞いたような話ね」
 久美は海や森へゴミを捨てた原始時代を思い起こす。それで、自然を排除する独占欲の強さ。杏樹も頷く。
「惑星メタフォーへ来た人類と同じじゃん。さて、生き残れますかね」
「生存競争かしらね。別に人類は滅びないと思うけれど」
 今のアホタレが脅威でもないと久美は思うが、杏樹が首を振る。色々と調べてもいるようだ。
「砂漠を知っているだろう。そこに集団でいる。約百頭はいるかな。それで卵も限りなく産んでいる。自然淘汰されると思うが、その前に人類がどうなるかだな」
「肉食なの」
 久美は言うが、ミミズを咥えていたからあり得る。
「基本はそうだが、手当たり次第に何でも食べる。もし闘うとしたら、逆に攻撃されるだろうな」
 確かに食べるよりも巣を守るのに命を懸ける野性生物。
「自然界なら天敵もあるでしょ。なにかいないの。ま、調べるけれど」
 久美は思いついたら、自分で行動したいが、ここで杏樹が調べていたら早いと考えた。
「当然さ。漆の痒みは苦手らしい」
「それなら探してくる。ありがとうね。今日は帰るから」
 久美も無駄な争いはしたくないが、杏樹が止める。
「あのなあ。一人で行動するなって。仲間を頼ることも必要なの」
「杏樹は仲間じゃないし」
「アホタレを追い返すことでは同じでしょ。そのあとどうするかは違うけれど」
 いうと魔進に合図する。言葉とは別に電波で通信してもいる。魔進は翼竜たちに近づく。羽を揺さぶり、首を揺らせて威嚇するアホタレ。
 魔進の胸が開いて、いくつもの小枝が飛び出してアホタレの毛にかかる。それを嘴で避けようとするが、痒くなると気づいたらしい。首と身体を震わせて振り払おうとするが、付着した液汁は取れるものではない。アホタレたちは羽ばたき、洗い流せる場所を探して遠ざかる。
「うん、これか。それより。卵を破壊しよう」
 久美は短剣を抜いて、大きな卵へ小走りで近づく。
「早まるな。二つ、注意したい」
 杏樹が言う間にも足が痒くなり始める。どうやら漆の液汁が飛び散ったらしい。
「ほうら。皮膚治療薬はあるでしょ。それに、この卵は研究材料なの」
「研究。あわわっ、手も痒くなってきた」
「地球とは違うのよ、成分が空間へ浮遊するの。もう。クリーンアップシャワー」
 杏樹が叫ぶと魔進が近づき後方からホースが出てくる。
「強力洗浄シャワーだから。特別に使うことを許す」
 水がシャワー状に噴き出して久美をずぶ濡れにする。そのホースを手に取って、あっちこっちにかける久美。
「なんとか和らいだけれど。出す場所を考えてよ」
 スカーフを絞り、顔を拭きながら言う久美。
「それより。見てみろ。面白いことが分かった」
 杏樹が指さすのは、卵の置かれた地面。蟻みたいな像が何匹も群がっている。
「エレファント蟻。その鼻でなんでも壊す角の役目をする」
 杏樹が説明する間にも、柔らかな卵は殻が破れて、とろとろと溶け出す。エレファント像は、鼻で吸ったり食べたりしている。
「哺乳類に恐竜の卵は食べられたという話もあったけれど」
 アホタレの卵が安全に孵化を迎えるわけでもない。久美は何かのヒントになると感じた。
 久美は身体を3回転して水分を払い落す。
「武器じゃなかったね。何をするものなの」
「掃除道具。蟻とかをひと吹きで退かせられるから」
 それで、お尻から、と変に納得する久美。
「さて。アホタレ退治のヒントは見つかった。砂漠にいるのね」
「ほんとに、久美は。百頭ぐらいいるのよ。一人じゃ無理でしょ」
「それじゃ杏樹も行こうよ」
「だから。私は退治の立場じゃないの。あなったっていう人は」
 あまり考えないというより、思考の途中を、端折って喋る久美に手こずっている杏樹。
「もう良い。勝手にすれば。とっておきの方法は、あなたにだけは教えないから。久美にだけはね」
 何か含みを持たせるが、久美は気づかない。
「良い方法があるのね。それなら。どうしても協力させたい」
 久美は短剣を構えて蛸の鞭も取り出す。ここは二人の仲で、力勝負しかないと思っている。
「面白いじゃん」
 杏樹も剣を取り、両手で掴み構える。久美が鞭で剣を巻き取ろうとする。杏樹も予測していて除けると、片手で剣を持ち鞭を捕まえる。
「同じ手は通じないよ」
「握力もないでしょ」
 久美は相手の剣と短剣を、がしっ、と合わせる。簡単に剣を手放さない杏樹。
「握力もこれぐらいは有るのよ。面倒だね」
 杏樹は鞭を引っ張るが、久美が手放して、杏樹がよろける。
「観念しなさいね」
 ぐっと近づき、相手の顔へ短剣の先を向けるが、杏樹は、くるりっ、と頭を回して後頭部からいく本もの針金が現れて、短剣を絡めとる。
「さすがっ」
 感心する久美だが、短剣が引き抜けないまま、頭を回した杏樹が短剣を振り落とす。
「久美こそ観念して」
 剣を大きく構えて襲おうとするが、久美が相手の手首を掴む。
「さあ。剣を離しなさいっよっ」
 杏樹の手首を振り回す。身体を縮めてジャンプする杏樹。久美は吸い付くようにして剣の柄をもぎ取るが、からから、と転がって行く。

 剣を無くした二人。光源砲と炎の玉が来る前に、久美は杏樹の襟首へ飛びつく。杏樹は久美のスカートをたくし上げる。
「ほかに何を持ってるの。さっさと捨てなさいね」
 スカートの襞を調べる杏樹。
「見つけたよ。こうしてやる」
 久美は光源砲の装置を見つけて、襟付きベストから引き剝がす。
「これは。こうしてやる」
 簡易磁気発生装置を見つけた杏樹は、久美の足へくっつける。
「あわわわっ」
 びりびりするが、ここは引き下がれない。杏樹のスカートのスリットを大きく寄せて開ける。
「仕返しよ」
 磁気でぴくぴく震えながら、杏樹の両太腿を掴んだ。
「なっ。やめれっ止めれ」
 磁気発生装置は人体もロボットの内部も危ない。

 やれやれ、と疲れた状態で、ぺたっ、と座る二人。こうしているときではないと、また悟る。
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