恋と美容術で男爵家のオテンバ令嬢アカリーヌは天下を取りに行く

乙巴じゅん

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2章 美容コーナーでの出会い

第一回美容対決

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 三時の鐘が鳴り、キャリロン王女が何人か引き連れやってきた。告知していたようで、見学する人たちも遠巻きにする。男性もいるようだし、物売りや勧誘の声も響く。
 群衆の前へ進み出るキャリロン王女。
「恒例の美容術対決が久しぶりに叶った。ケイヒキュウシュウ美容術とリン波念力美容術の五日対決。みなの応援するひいき施術者へ声援も嬉しく思うぞ」
 拍手が起こる。これがしたかったんだろう。キャリロン王女は満足したようにスカートを翻して下がる。あとはイザベルがゲストを紹介して施術が始まるわけだ。
 ゲストは舞台女優が二人。シラベルとイザベルが肌の状態を確認する。普段から手入れをしているのだろう、素顔でも綺麗な感じがする。更に良い状態となるとハードルは高い。

 アカリーヌは、エマを受け持つことになった。面長の美人系だが、どのようにも見られる演技が評判だ。
 まずはいつもの手入れ方法を確認したい。
「竜の涙という、化粧水で肌を柔らかく、つるつるにします。いつもは何かお使いでしょうか」
「化粧水? 水で大丈夫みたい。ただ美容液には凝ってるのよ。肌と相性があうから」
 さすが舞台女優。美容術には拘りがあるらしい。うかつにリン波念力を始められないかも知れない。
「リン波という念力を使いますが、マッサージのやり方にもこだわりはございますか」
「そうね。私はやんわりと。しつこく擦るのは嫌なの」
(それなら、いけるかも)
 エマの好みはリン波念力に適しているだろう。
「大丈夫です、やんわりとね。椿油はお嫌いで?」
 庶民が使うし、有名人が避けないか気がかりだ。
「私は外国のカメリアオイルを利用している。たまには良いか、任せよう」
 椿油を外国語でカメリアオイルというはずだが、どうだろう。

 背もたれを倒して施術を始めた。日頃の手入れもしているからだろう。エマの肌は綺麗だ。近くで見ようと歩み寄る群衆の波に焦るが、深呼吸で落ち着こう。
(見られているというプレッシャーもあるんだ)
 視線を落として、エマの肌へ集中する。
 いつもよりも短時間で終わらせた。リンパさえしっかり流せば、肌へ余分なものはつけない方がいい。

 背もたれを起こして、鏡で確認させる。庶民たちから感心したような声が漏れる。
「このしっとり感はカメリアオイルへ似ているな。匂いは柔らかい」 
 エマは椿油と比べているらしい。カメリアオイルは癖が強いはず。
「やはり、リン波念力が大切ですね」
 マッサージのやりかたでも差をつけたい。
「ただ摩るだけではなかったな。良いことを教えてもらった」
 髪を整えながら言う。考えれば目の前に観衆がいる。いつも人目は意識しているようだ。
「だれにでもできますので。デコルテも試してみてください」
「そうだね。うなじから鎖骨へ。ちょっとしたコツかな」
 手真似しながら言う。エマも試してみる気になったようだ。
(リン波念力が流行るといいけどさ)

 アカリーヌの施術は短い間で終わるが、ケイヒキュウシュウはパックみたいなもの。目を向けると、器に入っているのに変えていた。相変わらず半分に切ったお土産用のフルーツ。
(果実をペースト状にしたか。あれはキウイフルーツ、輸入物を贅沢に使っているねー)
 相手側も舞台女優。肌は綺麗なはず。アーホカが目ざとく、終了したアカリーヌへ声をかける。
「女優を更に美しくするのはむつかしいぞ。それだけでいいのか。こっちは仕上げのクリームがコラーゲンだ」
 経皮吸収と関係ないはずだし、言い返さないと気が済まない。
「魔王エーアイの技かしら。コラーゲンは意味ないでしょ」
「ぷりぷりムチムチ肌になる。どうやらアカリーヌは素人らしいな」
 施術はまだ未熟と思うが、美容術については知っている。
「魔女様がおっしゃってた」
 アーホカの目がつり上がる。
「魔女? まだ存在していたか。魔女というのは邪道だ」
(妖精なら知ってるのかなー。どっちでもいいや)
「消えた魔王より確かな存在だし。まだいるのエーアイとやらは」
 逆に訊ねる。姿の無い魔王エーアイと森に隠れる魔女の戦いが水面下で始まったのか、気になるところだ。機械や複雑な社会の無いスローライフの世界が乱されると思う。
「知らないのかな。神話の時代にインターネットで集めた情報だ。最適な美容術はいまも生きているのだ」
 ネットがなんとかは、神話の中でも事実らしいと思われていることだ。
「魔女様が半分は嘘だとおっしゃってた。だから魔王の都市は壊れたのよ」
「魔女など、信仰をもたないのが支配者になれない。女はカガクの魔法で美しくなると知れ」
 話している間にも施術が終わる。アーホカとこれ以上は言い合えないが、仕事をする上で、避けて通れない魔王エーアイの美容術だろう。
(ちょっと恋してる暇はないか。でもいいか、この先に庶民へ何か返せるなら)
 貨幣が庶民の生活を変えると思っている。そのための美容術なのか、いまは分からない。
 さて、最終の審査まで、イザベルとシラベルは評価しないが、軽く仕上がりをチャックした。

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