【完結】君の手が、入道雲を彫る

江夏みどり

文字の大きさ
14 / 51
第3章

第3話 手を振り払った後に

しおりを挟む
 夜間に降った雪で、通学路はふかふかになっていた。

 昨日の夢がまだ覚めていないような感覚で、夏樹は苛立ちながら登校していた。

 誰かが踏んだ靴跡をたどるように歩いていると、ぼすぼす雪を踏む音がして、霜矢が後ろからやってきた。

「よっ、時原! 晴れてよかったな!」
「……」
「なあ、聞いてくれよ。あのあと加藤と勉強してたら、ヤジマン先生がさあ……」
「……」
「時原? おーい、大丈夫?」

 夏樹は寝不足の目で霜矢の能天気な顔を見た。

「時原もしかして寝不足? 顔色悪いぞ」
「……別に。大丈夫」
「本当に? つらくなったらすぐ保健室に……」
「大丈夫っつってんだろ」

 突然、雪に足を取られて転びそうになる。

「あっ、時原!」

 咄嗟に霜矢が夏樹を支えようとした。
 だめだ。怖い。触るな。

「触んな!」

 夏樹は霜矢の手を強く払った。
 そのままバランスを崩して雪に倒れ込む。

「と、時原? 本当に大丈夫か……?」

 おろおろする霜矢の顔を見ることができない。
 触れられたら、何かが崩れてしまいそうだった。
 だからまた、先に壊してしまった。

「これ以上踏み込むな。ひとりにしてくれ」
「……ごめん」

 霜矢がつぶやいて、足音が遠ざかっていく。

「あー」

 夏樹は倒れたまま顔を両手で覆った。
 間抜けだ。情けない。
 善意で差し伸べてくれた手を、また払いのけてしまった。
 今度こそ、絶対に見捨てられた。

「何やってんだろ、俺」

   ×   ×   ×

 裏門のあたりでぼんやり空を眺めていると、深冬の声がした。

「時原くん、ここにいた。霜矢が悩んでたよ、時原くんのこと傷つけちゃったんじゃないかって。2人がぎくしゃくしちゃったの、私のせいだよね。変なこと相談して、考えさせちゃってごめん」
「……違う」
「え?」

 違う。誰もなにもわかってない。
 自分だってそうだ。俺はいつだってそうだ。逃げてばかり。手放してばかり。

「本当にそれでいいのかよ。思うことがあるなら、俺なんかに相談してないで須縄にぶつけろよ」
「時原くん……」
「でもだめだ!」

 自分でももう何を言っているのかわからない

「あいつへの告白は許さねえ。少しでも可能性のあることは、絶対に許さねえ」

 深冬が目を見開いて、それから笑い出した。

「あはは、時原くん、霜矢のこと大好きじゃん」
「……」
「なんとなく気づいてたよ。時原くんも、同じ気持ちなんじゃないかって。霜矢のこと、好きなんだよね? 私、わかっててひどいことした。ごめんね」

 意外だった。
 バレたら絶交されてもおかしくないと思っていた。
 なのに深冬は、笑っている。

「……俺さ、中学のとき、男の先輩と付き合ってたんだ」
「うん」
「でも、いきなり振られた。たぶん親父が先輩に別れろって圧をかけたんだ」
「うん」
「同じようになるのが怖い。怖いんだよ、俺」

 父の正道からも、「先輩」からも手を振り払われ、自分の手に呪いをかけられた。それから、人の手に触れるのが怖くなった。
 代わりに、彫刻に没頭するようになった。
 そのおかげで今の実績があるといえば聞こえはいいかもしれないが、当時の呪いがいまだに手に染みこんでいる。

 深冬が微笑んで、夏樹を見上げる。

「じゃあ、私たち、ライバルだ」
「ライバル……?」
「そ。負けたくないって気持ちと、時原くんを応援したい気持ち、私の中に両方あるよ。両方あるし、両立するものだと思う」

 胸に想いがつっかえて熱い。
 だが不思議と、嫌な感じはしなかった。

「行こ、霜矢のとこ。千佳ちゃんから奪い返してやろ」

 深冬が笑って校舎を指さす。

「……ああ」

 夏樹も一歩を踏み出した。

   ×   ×   ×

「だからー、これは関係代名詞だから……」

 机を突き合わせて千佳に勉強を教える霜矢に、夏樹と深冬は近づいた。

「霜矢、私たちもまぜて!」

 千佳が深冬を睨むが、霜矢は気づいていない様子で夏樹を見上げる。

「時原、もう大丈夫なのか?」
「ああ、ちょっと体調悪かっただけ。迷惑かけたな」
「よかったー、もう元気そうだな!」

 教室のドアをこんこん叩く音がする。
 入口のところに、美術部部長の鹿田が立っていた。

「美術部になんか届いてたぞ。須縄宛てだけど。雪まつり運営委員会、みたいなとこから来てる」
「えっ!」

 霜矢ががたがたと立ち上がって、封筒を受け取る。

「どうしよ、これってあれだよな。1次選考の結果。あ、あああ、どうしよう、時原、かわりに開けて」
「お前が開けろよ。班長だろ」
「う、うん。ふーっ、ふーっ」

 大げさに深呼吸しながら、霜矢が封を切り、三つ折りにされた紙を取り出す。

「開けるぞ」

 霜矢が震える手で紙を開いた。

 ――厳正なる選考の結果、「北ノ沢高校・美術部・雪像班」は、1次選考を「合格」となりました。

 3人で顔を見合わせる。

「う……うおおおおおお!」
「やったー!」

 霜矢と深冬が手を取り合って飛び上がった。

「時原、見てみて、ほらここ、合格って書いてある」
「ああ、見えてるよ」
「やったな二人とも! 頑張ってよかった!」

 涙目になって飛び上がる霜矢を見て、夏樹も笑った。
 こちらを睨む千佳のうらめしそうな顔も、今は気にならなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

恋愛速度【あっというまに始まった、おれと遊び人の先輩の恋の行方……】

毬村 緋紗子
BL
高校生になったばかりの千波矢は、2コ上の先輩、高城 慶と知り合う。 女の子にモテる慶は、これまでかなり派手に遊んできたらしい。 そんな慶から告白されて付き合いはじめた千波矢だったけれど、すぐに身体を求められて、戸惑い、思い悩んでしまう。 先輩は、本当におれのことが好きなのかな おれは、先輩に遊ばれてるだけなのかな──。 〈登場人物〉 瀧川 千波矢 タキガワ チハヤ 高1 高城 慶 タカシロ ケイ 高3 表紙イラストは、生成AIによる自作です。 エールをありがとうございます!(ω〃)

好きです、今も。

めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。 ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。

処理中です...