【完結】君の手が、入道雲を彫る

江夏みどり

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第8章

第3話 告白

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 泊まっていけという正道の提案を断って、夏樹と霜矢は夜の住宅街を歩いていた。
 ワイヤークラフトは北海道に持って帰ることになり、箱に包んでもらってリュックサックに入れた。

 むすっと押し黙る夏樹とは対照的に、霜矢の口からは言葉がぺらぺらと流れ出る。

「宿どっか空いてるかなあ。まあ最悪ネカフェにでも泊まるか。でもお前のご両親に宿代もらえて助かったよ。実はもう財布がすっからかんでさあ。というか、お前のお父さん、ちょっと不器用そうだったけどいい人じゃん」
「おい」

 霜矢を見下ろすと、能天気な視線が帰ってきた。
 この鈍感馬鹿。どうにかしてやりたくなる。

「何も言わねえの?」
「え?」
「俺、男が好きなんだよ」

 霜矢がきょとんとした顔になる。

「うんうん。まあそういう奴もいるよな」

 霜矢の返答に夏樹は頭を抱えた。
 こいつ、何もわかっていない。
 たまに、わざと自分を傷つけようと鈍感なふりをしているのではないか、と思うこともあった。しかし、今確信した。霜矢はただ純粋にひどく鈍いだけだ。

 夏樹はじろっと霜矢を睨みつける。

「はっきり言わねえとわかんねえ? 俺、お前が好きなんだよ。ずっと前から」

 霜矢の目が、ゆっくり、本当にゆっくりと見開かれていった。
 ほんの数秒のことなのに、時間が何分も経過したように感じた。

「……え?」

 腹が立って、夏樹は言葉をまくしたてた。

「好きになるってのは相手を傷つけることだ。俺だってわかってる。なのにお前が何も気づかないから。お前が『普通』を求めるから俺は……」
「ちょ、ちょっと待って、突っ走りすぎ」

 暗くてよくわからないが、霜矢の顔色は赤くも青くもなっていない。
 本当にただの一度も意識されたことがなかったんだなとわかる。

「時原、お前俺のことが好きなの……?」
「そう言ってるだろ」
「い、いつから?」
「最初から」

 夏樹がふてくされたように答えると、霜矢はしばらく困惑したように口をぱくぱくさせていた。

 もうだめだ。すべて壊してしまった。
 今我慢したところでいつかは打ち明けてしまっていただろうから、傷が比較的浅いうちに告白できてよかったと思う。

「俺、実家戻るわ。お前はホテルにでも泊まりな」
「え、なんで」
「もうこうなったら俺と一緒に行動したくねえだろ」
「え、なんで」

 なんでを繰り返す霜矢に苛立ちが募る。

「振られた相手となんでべたべたつるまなきゃいけねえんだよ。察しろよ」
「え、俺お前のこと振ったの?」
「はあ?」

 霜矢がまっすぐ夏樹の目を見つめた。

「ちょっと考える時間がほしい。俺と、お前のこと」

 今度は夏樹がぽかんとする番だった。

「考えるって……」
「今はまだ時原と同じ気持ちは返せないかもしれないけど、ちゃんと考えさせて」
「だって、だってお前は……」

 霜矢が困ったように目を伏せた。

「嫌じゃ……なかったんだよ。こんなの初めてで、どうしたら……」

 混乱した頭でうつむくと、霜矢のポケットのスマホ画面が光っていることに気づいた。

「なんか電話かかってきてるけど」
「あれ、深冬みふゆちゃんからだ」

 霜矢がスマホをスピーカーにして通話に出ると、深冬の悲鳴に近い声が聞こえた。

「やっと出た! 時原くんも電話でないし、二人とも今どこいるの!?」
「どうしたの、そんなに慌てて」

 霜矢が聞き返すと、深冬が興奮したように言った。

「インフルエンザで雪まつりのチームにひとつ空きが出たんだって! ぎりぎり落選だったチームで再選考をするらしいんだけど、私たちにも声がかかったの! 再選考会は明日の午前11時からだって! 出るよね?」

「出る」
「出る」

 霜矢と夏樹はほとんど同時に答えていた。

「よかった~。じゃあ、明日の朝札幌駅に10時集合ね! おやすみ!」

 電話がぷつっと切れた。
 夏樹と霜矢は顔を見合わせて、同時に青ざめた。

「やべ!」
「飛行機!」
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