【完結】君の手が、入道雲を彫る

江夏みどり

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第13章

終話 幸福なかささぎ

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 4年後。東京駅。夜。

 大きなキャリーケースを引きずって改札から出てきた夏樹は、周囲をぐるっと見回した。

「あいつ、どこだよ……」

 このあたりにいるとは言っていたが、見当たらない。
「着いた!」というメッセージは15分前に来ているというのに。

 往来の邪魔にならないように端に寄って壁にもたれると、ポケットのスマホに着信があった。

「もしもし」
「もしもし夏樹! ごめん、道に迷ってたおばあさんを案内してたら遅くなった」

 焦ったような霜矢の声に、思わずにやけてしまう。

「俺も今着いたから。ゆっくり戻ってきて」
「それなんだけど……へへ、今度は俺が道に迷っちゃってさ」
「はあ? ったく……」

 深くため息をつくと、電話越しに霜矢のしゅんとした声が聞こえた。

「ごめん……」
「……そっち向かう。周囲になんか書いてたりしない?」
「え? うーん、でも赤いレンガの建物のとこに出た」
「わかった。待ってて」

 電話を切って、1階の丸の内口に向かう。

 駅舎から外に出て、周囲を見回す。
 黒や灰色の雑踏の中、ふっと視界が開けた。

 少し離れた位置に、心細そうな様子で、オレンジの髪の霜矢が立っているのが見えた。

「霜矢」

 片手を挙げると、こちらの顔に気づいた霜矢の顔がぱあっと明るくなり、次の瞬間しょんもりと暗くなった。

「ごめん。もう大人なのに迷子になったりして……怒った?」
「怒った」
「え……」
「お前と早く会いたかったのに」

 霜矢の顔がぽぽぽっと赤くなり、両手で顔を覆った。

「お前のそういうたまに素直なとこ、好き……」
「お前、昔もそれ言ってたよな」
「え、そうだっけ」

 意味は違えど、霜矢から初めてもらった「好き」だ。忘れるわけがない。

 涼しいのにあちーと言って顔を手で仰ぐ霜矢を見下ろす。

「霜矢、髪またオレンジにしたんだ」
「この色が、お前に一番見つけてもらいやすいかと思って。へへ、計画成功だな」
「結局迷子になったんだから失敗だろ」
「うー」

 電車に乗って、2人で住んでいるアパートに帰る。
 成人男性2人で住むにはやや手狭だが、立地は悪くないし、バストイレも別だ。

 夏樹は迷った結果、高校卒業と同時に親とは緩やかに縁を切った。

 確執は少しずつなくなっていたが、霜矢との交際を反対されていたためだった。

 それでも、たまに電話で生存報告をする。その程度。いずれは関係を再構築したいと考えているが、まだ少し先の話になるだろう。

 大学に進学するかさっさと彫刻家になるかの2択を迫られて、結局夏樹は後者を選んだ。大学は行こうと思えば後からでも行けるし、今は霜矢との生活を優先させたい。

 霜矢は都内の四年制大学に進学した。霜矢も母親からの支援は期待できないし、祖母からの仕送りも断って、今は奨学金とバイト掛け持ちでなんとかやっている。

 夏樹の彫刻はたまにとんでもない値段が付くこともあるが、売れるかどうかを自分でコントロールはできないので収入が思うように安定しない。話し合った結果、ある程度節制しながら生活することになった。

 霜矢が玄関の鍵穴に鍵を差し込もうとがちゃがちゃしている。

「あれ、ささらない……」
「それチャリの鍵じゃねえの」
「あ、ほんとだ」

 霜矢の手が少し震える。

「はは、緊張しすぎ」
「だって夏樹、最近ずっと海外飛び回ってて久々に帰ってきたんだもん」

 霜矢が鍵を差し込んで、ガチャッと音を立てて回した。

 1か月ぶりに帰ってきた2人の部屋は、清潔に保たれていた。張り切って掃除したのか、シンクも机もぴかぴかになっている。

「そうだ夏樹、こんど深冬ちゃんが北海道からこっちに来るんだって。また3人で飯食いに行こうよ」
「んー」
「おい、聞いてる?」

 スーツケースを開きながら、腕時計を見る。
 あと3秒、2秒、1秒。
 0時。日付が変わる。

「夏樹? どうした?」
「これやる」
「えっ?」

 霜矢の手に、スーツケースから取り出した箱を押し付ける。

「うわ、重っ、なにこれ」
「開けてみ」

 霜矢がおそるおそる箱を開けると、中から高さ30センチメートルほどの、かささぎのブロンズ像が出てきた。
 霜矢が仰天したように目を丸くした。

「うえっ!? これこないだの国際彫刻コンクールで金賞獲ったやつだろ。持って帰ってきたの!?」
「俺が作ったんだからどうしようと俺の自由だろ。霜矢、20歳の誕生日おめでとう」

 霜矢がかささぎ像を抱きしめたまま、へなへなとしゃがみこんだ。目からぼろぼろ涙がこぼれ出す。

「俺……こんな幸せ、抱えきれねえよ……」

 夏樹は霜矢の前にしゃがみこんで、くしゃっと頭を撫でてやった。

「お前のために作ったんだ。大事にしろよ」
「うん……うん……俺が一番近くでこいつを守る」
「はは、なんだよそれ」

 手を差し出すと、霜矢が目をぬぐって夏樹の手を取り、立ち上がった。

 手を取り合って玄関に向かい、靴箱の上にそっと像を飾る。
 
 霜矢が鼻をすすって笑った。

「こいつ、世界一有名なかささぎから、世界一幸せなかささぎになっちゃったな!」
「だな」
「ありがとう、夏樹……俺、泣きすぎて顔ぐしゃぐしゃだ」

 顔を拭おうとした霜矢の手を、夏樹が掴む。

「別にいい。こういう顔も好きだし」

 言葉の後、照れも隠さずそのまま唇を重ねた。

 しょっぱくなった相手の唇を歯でやわらかく噛んだ。霜矢が肩を震わせる。
 ただただ心地よくて、二人はキスしながら手を強く握り合った。

 互いの指先の熱が、過去も未来もやわらかく溶かしていく気がした。



〈完〉
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感想 1

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みんなの感想(1件)

浮世そぞろ
2025.08.24 浮世そぞろ

クーデレ×素直最高!CPの2人がそれぞれに魅力的で可愛かったです。
そして恋愛要素抜きで純粋に青春してる描写がとても面白かったです。
温度や触感が丁寧に伝わってくる細やかな情景描写に想像力を掻き立てられました。
何度か起こるすれ違いも長すぎなくて助かります。
オカン達はカスだけど、そのおかげで深い二人の世界が作られていってナイスアシストでした。
夏でも読み終えるとココアを飲みながら雪まつりを検索したくなる、とっても爽やかで暖かい素敵な作品でした!

2025.08.24 江夏みどり

感想ありがとうございます!
とっても嬉しいです!!!

解除

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