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第1章
第2話 オレンジの少年
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11月下旬の北海道。外は雪が降っている。
教室の窓の下は、壁一面のストーブになっている。ストーブの上には誰かの手袋やニット帽が並べて置かれていた。
私立北ノ沢高校・1年1組担任教師の屋島が、黒板にきれいな字で「時原夏樹」と書いた。
「時原、みんなに挨拶しなさい」
教壇の脇に立たされた夏樹は、ぐるっと教室を見回した。どいつもこいつも、目なんかキラキラさせて田舎者丸出しだ。
興味なさそうに鼻で笑い、両手をポケットに突っ込む。誰の視線も、自分を値踏みするようで気に食わなかった。
「時原夏樹、東京から来ました。よろしく」
夏樹の次の言葉を待つように、教室が静かになる。
屋島が困ったように眉を寄せた。
「もっとこう、何かないのか、趣味とか興味のある部活とか」
「部活に入るつもりはないです。昼寝が趣味です。友達とか作る気ないんで」
前髪を指でかき上げ、わざと退屈そうに視線を横へ流す。興味も期待もない。
夏樹のふてくされたような返事に、教室がざわついた。
「時原くん、かっこいいけどなんか性格悪そう」
「えー、でもイケメンじゃん。たしかに性格は悪そうだけど」
聞こえてんだよ。じろっと睨みつけると、女子二人が首をすくめた。
性格のよしあしなんてどうでもいい。どうせ、みんな内側には何か抱えているのだから。
こんな高校、適当に卒業して、大学も適当に出て、適当に就職して適当に死ぬ。
もう決して夢なんて恥ずかしいものは持たない。決して。
にわかに教室の外から足音がした。ダダダっと廊下を駆け抜けて、1年1組の入口がスパンと開けられる。
頭に雪をのせて息を切らしていたのは、夏樹より背の低い男子生徒。
髪は赤のようなオレンジのようなよくわからない果物みたいな色に染めていて、頭頂部だけが黒くなっている。
「須縄霜矢、遅刻だぞ」
「ごめんヤジマン先生、寝坊しちゃった! 許して!」
霜矢が両手を合わせて拝むようなポーズをした。頭の雪が近くの机に盛大に落ちる。
教室から笑いが起きた。
なんだこいつ。その髪色、柿か? みかんか? はっきりしろよ。
夏樹が霜矢を眺めていると、ふと目が合った。
こちらが目を逸らす前に、霜矢が興奮したように飛び跳ねて、夏樹に駆け寄った。
「もっ、もっ、もしかして、彫刻家の時原夏樹!?」
いきなりのことに「え」と声が漏れる。
霜矢が「うわあ」と声を漏らして、夏樹の両手をぎゅっと握った。
外から来たばかりだというのに、子供のようにほかほかの手だった。
「東京から越してくる噂ってまじだったんだ! 今年の国際彫刻コンクールの記事見たよ。俺的には君の作品が金賞獲ると思ったんだけど、やっぱ主催国がフランスだとフランスっぽいモチーフの方が受賞しやすかったのかなあ」
早口でまくし立てる霜矢の頭を、屋島がバインダーではたく。
「こら須縄、時原が驚いてるだろ。二人とも、席につきなさい」
はーい、と返事をして、霜矢がこっそり夏樹に笑いかける。
「へへ、よろしく」
教室の一番後ろの空いている席は、一つだけ新しくて、他の机と色が少し違った。
椅子を引いて座り、夏樹は自分の両手を眺めた。
人間の素手に触れたのは数年ぶりだ。だが、不思議と苦しくはならなかった。
教室の窓の下は、壁一面のストーブになっている。ストーブの上には誰かの手袋やニット帽が並べて置かれていた。
私立北ノ沢高校・1年1組担任教師の屋島が、黒板にきれいな字で「時原夏樹」と書いた。
「時原、みんなに挨拶しなさい」
教壇の脇に立たされた夏樹は、ぐるっと教室を見回した。どいつもこいつも、目なんかキラキラさせて田舎者丸出しだ。
興味なさそうに鼻で笑い、両手をポケットに突っ込む。誰の視線も、自分を値踏みするようで気に食わなかった。
「時原夏樹、東京から来ました。よろしく」
夏樹の次の言葉を待つように、教室が静かになる。
屋島が困ったように眉を寄せた。
「もっとこう、何かないのか、趣味とか興味のある部活とか」
「部活に入るつもりはないです。昼寝が趣味です。友達とか作る気ないんで」
前髪を指でかき上げ、わざと退屈そうに視線を横へ流す。興味も期待もない。
夏樹のふてくされたような返事に、教室がざわついた。
「時原くん、かっこいいけどなんか性格悪そう」
「えー、でもイケメンじゃん。たしかに性格は悪そうだけど」
聞こえてんだよ。じろっと睨みつけると、女子二人が首をすくめた。
性格のよしあしなんてどうでもいい。どうせ、みんな内側には何か抱えているのだから。
こんな高校、適当に卒業して、大学も適当に出て、適当に就職して適当に死ぬ。
もう決して夢なんて恥ずかしいものは持たない。決して。
にわかに教室の外から足音がした。ダダダっと廊下を駆け抜けて、1年1組の入口がスパンと開けられる。
頭に雪をのせて息を切らしていたのは、夏樹より背の低い男子生徒。
髪は赤のようなオレンジのようなよくわからない果物みたいな色に染めていて、頭頂部だけが黒くなっている。
「須縄霜矢、遅刻だぞ」
「ごめんヤジマン先生、寝坊しちゃった! 許して!」
霜矢が両手を合わせて拝むようなポーズをした。頭の雪が近くの机に盛大に落ちる。
教室から笑いが起きた。
なんだこいつ。その髪色、柿か? みかんか? はっきりしろよ。
夏樹が霜矢を眺めていると、ふと目が合った。
こちらが目を逸らす前に、霜矢が興奮したように飛び跳ねて、夏樹に駆け寄った。
「もっ、もっ、もしかして、彫刻家の時原夏樹!?」
いきなりのことに「え」と声が漏れる。
霜矢が「うわあ」と声を漏らして、夏樹の両手をぎゅっと握った。
外から来たばかりだというのに、子供のようにほかほかの手だった。
「東京から越してくる噂ってまじだったんだ! 今年の国際彫刻コンクールの記事見たよ。俺的には君の作品が金賞獲ると思ったんだけど、やっぱ主催国がフランスだとフランスっぽいモチーフの方が受賞しやすかったのかなあ」
早口でまくし立てる霜矢の頭を、屋島がバインダーではたく。
「こら須縄、時原が驚いてるだろ。二人とも、席につきなさい」
はーい、と返事をして、霜矢がこっそり夏樹に笑いかける。
「へへ、よろしく」
教室の一番後ろの空いている席は、一つだけ新しくて、他の机と色が少し違った。
椅子を引いて座り、夏樹は自分の両手を眺めた。
人間の素手に触れたのは数年ぶりだ。だが、不思議と苦しくはならなかった。
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