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第1章
第4話 中庭のアトリエ
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ふたつの校舎に挟まれた中庭に、3つの足音と深冬の声が近づいてくる。
「え、じゃあ時原くんが例の天才彫刻家なんだ!」
深冬に続き、霜矢に半ば強引に引っ張られるようにして、夏樹が中庭に現れた。
夏樹は唖然としたように中庭を見回した。
大小さまざまな雪像が並んでいる。どれもいびつな形で、上に雪が積もって変形していた。
「これ……全部雪像か?」
夏樹がつぶやくと、霜矢が明るく頷いた。
「そうそう。ここが俺たちのアトリエ! あっちのスコップとか道具類は好きに使っていいからな」
「おい、まだ話は……」
夏樹の言葉を遮るように、2階の窓がからりと開いて、色黒の男子生徒が顔を出す。
窓越しにイーゼルが見える。美術室だろうか。
霜矢が窓に向かって手を振った。
「あ、鹿田先輩!」
「おい須縄、雪なんかいじってないでそろそろ部活に顔出せよ」
鹿田の呆れたようなセリフに、霜矢が手でバツを作る。
「嫌ですぅ。雪像づくりも立派な美術部の活動ですぅ」
「お前なあ。絵画コンクールどうすんだよ。全国の予選会もうすぐだぞ」
「今年は俺たち、2月の雪まつりにどうしても出たいんです!」
「はあ……。とにかく、一回くらいは部室に来いよ。部長命令な」
鹿田が窓を閉めると、窓枠についた細かな雪がはらはらと落ちてきた。
霜矢が右手で窓を指さす。
「時原、今の人は美術部の部長の鹿田先輩。絵は超うまいけど、口うるさいの」
窓の向こうから鹿田の「聞こえてんぞ」という声が聞こえる。
「えへへ、すみませーん。とにかく、俺たち雪像班は今年度の北海道雪まつりに出るんだ。そのために、すっげー雪像作るんだ」
様々なツッコミどころはひとまず置いておくとして、霜矢の言い方に引っかかる。
「……それ、『すっげー雪像』作ったら出られるもんなのか?」
「そのことなんだけど……」
霜矢が照れたように笑って言った。
「雪まつりに出るには、倍率20倍の選考に通過しないといけないんだよね」
「……はあ? その選考は?」
「まだ。これから」
だんだん話が見えてきた。
つまりは、20倍を勝ち抜くために、協力しろと。
霜矢がキラキラした目で夏樹を見つめる。
「お前が作る一撃は、俺が百回雪を触るよりずっとすごい。お前がちょっと削っただけで、雪が生きてるみたいに見えるんだよな。雪がふわって笑ってるみたいに見えた。だからさ……隣にいてほしいんだよ。今日が初対面だけど、俺はもうお前のこと友達だと思ってる」
霜矢が夏樹の両手を握って、握手するように上下する。
笑顔があまりにも眩しくて、受け止めきれない。夏樹は思わず目を伏せた。
× × ×
鍵を回して部屋の扉を開け、夏樹は玄関にスニーカーを脱ぎ捨てた。
どっと疲れた。ベッドに顔から横たわる。
夏樹は、父親が別荘代わりに契約していたマンションの一室に住んでいる。がらんとした部屋には、まだ未開封の段ボール箱がいくつも積んである。
すべてを東京に置いてきたつもりだったのに、それでも所持品が多いことが意外だった。
寝返りを打って、天井を見つめる。
額の前髪がはらりと両脇に落ちるのを感じた。
夏樹は両手を冷たい空気に向かって伸ばした。
霜矢に手を握られても、呼吸が苦しくならなかった。
あんなにずけずけとこちらに踏み込んで来たのに、結局流されてしまった。
霜矢の眩しい笑顔が、目に焼き付いて離れない。
暖房をまだつけていない部屋はひどく寒くて、なのに顔がどんどん熱くなる。
これはきっと。
「やばい……これやばい」
両手を顔に当てると、手汗でしっとり湿っていた。
心臓がうるさい。
でも、まだ蓋をしておこう。決して外に出てこないように。
「え、じゃあ時原くんが例の天才彫刻家なんだ!」
深冬に続き、霜矢に半ば強引に引っ張られるようにして、夏樹が中庭に現れた。
夏樹は唖然としたように中庭を見回した。
大小さまざまな雪像が並んでいる。どれもいびつな形で、上に雪が積もって変形していた。
「これ……全部雪像か?」
夏樹がつぶやくと、霜矢が明るく頷いた。
「そうそう。ここが俺たちのアトリエ! あっちのスコップとか道具類は好きに使っていいからな」
「おい、まだ話は……」
夏樹の言葉を遮るように、2階の窓がからりと開いて、色黒の男子生徒が顔を出す。
窓越しにイーゼルが見える。美術室だろうか。
霜矢が窓に向かって手を振った。
「あ、鹿田先輩!」
「おい須縄、雪なんかいじってないでそろそろ部活に顔出せよ」
鹿田の呆れたようなセリフに、霜矢が手でバツを作る。
「嫌ですぅ。雪像づくりも立派な美術部の活動ですぅ」
「お前なあ。絵画コンクールどうすんだよ。全国の予選会もうすぐだぞ」
「今年は俺たち、2月の雪まつりにどうしても出たいんです!」
「はあ……。とにかく、一回くらいは部室に来いよ。部長命令な」
鹿田が窓を閉めると、窓枠についた細かな雪がはらはらと落ちてきた。
霜矢が右手で窓を指さす。
「時原、今の人は美術部の部長の鹿田先輩。絵は超うまいけど、口うるさいの」
窓の向こうから鹿田の「聞こえてんぞ」という声が聞こえる。
「えへへ、すみませーん。とにかく、俺たち雪像班は今年度の北海道雪まつりに出るんだ。そのために、すっげー雪像作るんだ」
様々なツッコミどころはひとまず置いておくとして、霜矢の言い方に引っかかる。
「……それ、『すっげー雪像』作ったら出られるもんなのか?」
「そのことなんだけど……」
霜矢が照れたように笑って言った。
「雪まつりに出るには、倍率20倍の選考に通過しないといけないんだよね」
「……はあ? その選考は?」
「まだ。これから」
だんだん話が見えてきた。
つまりは、20倍を勝ち抜くために、協力しろと。
霜矢がキラキラした目で夏樹を見つめる。
「お前が作る一撃は、俺が百回雪を触るよりずっとすごい。お前がちょっと削っただけで、雪が生きてるみたいに見えるんだよな。雪がふわって笑ってるみたいに見えた。だからさ……隣にいてほしいんだよ。今日が初対面だけど、俺はもうお前のこと友達だと思ってる」
霜矢が夏樹の両手を握って、握手するように上下する。
笑顔があまりにも眩しくて、受け止めきれない。夏樹は思わず目を伏せた。
× × ×
鍵を回して部屋の扉を開け、夏樹は玄関にスニーカーを脱ぎ捨てた。
どっと疲れた。ベッドに顔から横たわる。
夏樹は、父親が別荘代わりに契約していたマンションの一室に住んでいる。がらんとした部屋には、まだ未開封の段ボール箱がいくつも積んである。
すべてを東京に置いてきたつもりだったのに、それでも所持品が多いことが意外だった。
寝返りを打って、天井を見つめる。
額の前髪がはらりと両脇に落ちるのを感じた。
夏樹は両手を冷たい空気に向かって伸ばした。
霜矢に手を握られても、呼吸が苦しくならなかった。
あんなにずけずけとこちらに踏み込んで来たのに、結局流されてしまった。
霜矢の眩しい笑顔が、目に焼き付いて離れない。
暖房をまだつけていない部屋はひどく寒くて、なのに顔がどんどん熱くなる。
これはきっと。
「やばい……これやばい」
両手を顔に当てると、手汗でしっとり湿っていた。
心臓がうるさい。
でも、まだ蓋をしておこう。決して外に出てこないように。
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