引きこもり王女ですが最強パーティーが集まったので世直し旅をします~この紋章が目に入らぬか!~

ぬいぬ

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第1章 旅の始まり

プロローグ

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  夕日が沈みかけた小さな村。

 収穫を終えた畑が広がり、その間にぽつぽつと建つ美しい建造物が、穏やかな田舎の景色を描いている。

 しかし、今日はその村に普段の穏やかさはなかった。

 領主の館の門を通った先の広場では、小太りな領主と彼に嘆願する領民たちの間で、緊張が高まっていた。

 「領主様、どうかご容赦ください。これ以上の地代をお支払いするとなれば、ワシら領民は飢え死にする他なくなります……!」

 領民たちの先頭に立つ老人が膝をつき、自らの孫と同じ年代の支配者を仰ぎ見る。
 胸の前で組まれた手は骨ばっており、歳のせいという以上に震えていた。

 だが、領主は老人の言葉を聞き流し、冷たく鼻で笑った。

 「ほざけ、愚民が。貴様らの怠惰ゆえに我が領地は飢えておるのだ。その代償を払うときが来たというだけのことよ」

 「し、しかし」

 「農奴ごときがこれ以上近づくな!」

 衝動的に立ち上がろうとした老人を領主が容赦なく足蹴にする。

 尻もちをつきうめき声をあげる老人。周りの領民が敬愛する彼をかばうように集まってくる。

 領民のうち数人は大胆にも領主をにらみつけるが、尚領主は領民たちに汚らしいものを見るかのような目を向けた。

 「まったく、先代の父は甘かった。だから領民がこのようにつけあがるのだ。愚民は鞭打ち躾けるべきというに」

 「それゆえ貴方は領民に鞭を与えるのですか? 苛烈な重税という鞭を――」

 可憐な、それであって芯の強い凛とした声だった。

 「! 誰だ!」

 驚愕する領主。数分前まで領主と領民しかいなかった館の広場に、いつの間にか見慣れぬ三人組が立っていた。

 修道士のような恰好をした一行だ。
 華やかな金髪で、人形にも見紛う高貴な美貌を持つ若き修道女が、後ろに控える騎士然とした男と、粗野にも見える傭兵風の男を率いている。

 「お父上の統治は領民への思いやりにあふれた善きものであったと聞き及んでおります。しかし近年は財政が悪化し、領民に求める税負担が多くなっている、らしいですわねぇ」

 少女と表現できるほどの年代の修道女が鷹揚と述べる。

 「貴様らは、最近訪れたという旅の修道士か。よそ者が何を言おうと関係ない。私の領地で混乱を招けば、教会の者であれどそれ相応の報いを受けてもらうことになるぞ」

 領主は眉を顰め、威圧的に言い返した。

 しかし彼女はそれに気圧されることなくことなく受け流し、飄々とした態度を崩さない。

 修道女は「ほほほ」と上品な笑い声を出しながら続ける。

 「いやはやまったく、お上手な言い訳を思いついたものですわねぇ! 自らの私腹を肥やすために必要以上の地代を徴収する言い訳を……」

 領民たちの間でざわめきが起き始める。
 困惑と怒りの声が大きくなるにつれ、領主の顔も真っ赤になっていく。

 「おのれ、黙って聞いて居れば修道女風情が……!」

 領主は激昂し、思い切り手を振り上げた。
 それは合図だった。どこからともなく領主の私兵たち――兵士というより野盗や山賊といったほうが近い風貌である――が現れ、修道士一行を取り囲む。
 その数は十五。

 高貴な者には似つかわしくない怒号をもって、領主は私兵たちに命ずる。

 「この者たちを殺せ!」

 私兵たちが一斉に各々の得物を構える。

 一方修道女――ルキエラは「やれやれ」と溜息を吐いたのち、静かにつぶやいた。

 「ルスケン、カクペル――少し懲らしめてあげなさい」

 ルキエラの言葉に反応するや否や、私兵たちが一斉に襲い掛かってきた。地面を蹴る音が広場に響き、剣が光を反射する。

 しかしルキエラに命じられた二人の従者はその場で動じることなく、余裕さえ感じさせる表情を浮かべていた。

 三対十五、ルキエラたちには圧倒的に不利かのように思われた。
 
 が――
 勝負は数分にも満たないものだった。
 
 私兵が乱暴に振り回す剣はすべて冷静な騎士・カクペルにいなされ、うかつに立ち向かってきた者は荒ぶる徒手の傭兵・ルスケンに倒されていった。

 二人の隙をつきルキエラに襲い掛かった兵士は、ルキエラの前に張られた不可視の壁に弾き飛ばされた。ルキエラの魔法によるものである。

 それはまるで嵐の如く。純朴な領民がそこに神の加護を見るには十分すぎるものだった。

 私兵のすべてが戦闘不能もしくは戦意喪失し、領主が怒りと恐れで震えているのを確認したのち、ルキエラはふたたび従者に声をかける。

 「ルスケン、カクペル、もうよいでしょう」

 ルキエラの声に、カクペルは剣を収め、ルスケンは固く握られた拳をゆるめる。

 そしてカクペルはおもむろに重厚な装飾が施された短剣を取り出した。

 「鎮まれ!」

 ルスケンとカクペルが次々と厳粛な態度で叫ぶ。

 カクペルが短剣を鞘から抜き、剣身に刻まれた模様を広く見せつけるように掲げた。

 「この紋章が目に入らぬか!」

 それは、この国の支配者――イエローゲート王家の紋章であった。

 カクペルが高らかに謳い上げる。

 「こちらにおわす御方をどなたと心得る! 畏れ多くも次代の女王陛下、ルキエラ・ミシェル・マリア・イエローゲート殿下にあらせられるぞ!」
  
 それをみとめた途端、領民たちの中から驚きと興奮の声が次々と沸き上がった。

 「う、嘘だろう! あのシスターが、お、王女様だったなんて!」
 「王家のお方がこのような片田舎に……!」

 私兵たちも動揺を隠せず、一部はその場で武器を取り落とし、震え始める。

 領主は顔面蒼白になり、うわごとのように「そんな」「嘘だ」と小さく繰り返しつぶやいている。

 「一同、殿下の御前である――頭が高い! 控えおろう!」

 続くルスケンの一喝を前に、領民はもちろん、領主と私兵たちも先ほどの様子が嘘であったかのように平伏した。

 「領主よ。貴公の所業、隅々まで調べ上げておりますわ。領民から不当に取り立てた地代を着服し、贅沢や遊興に耽ったとのこと」

 ルキエラは続ける。 

 「貴族たるもの、時には豪勢な催し、絢爛な姿を以て威厳を保つことも必要でしょう。然れどそれは領地、領民を富ませた次に行うこと。ましてや苦しむ領民をさらに責め立てる所業など、まさしく言語道断ですわ!」

 「も、申し訳ございませぬ……!」

 「貴公には追って王より厳しき沙汰があるものと心得なさい」

 「は、はは~ッ……!!」

 この地の問題を収めた安堵の表情が、王女の唇に微笑みとして現れた。
 
 これは、王位継承順位第一位の王女が、仲間とともに王国内の諸領をめぐる物語である――
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