引きこもり王女ですが最強パーティーが集まったので世直し旅をします~この紋章が目に入らぬか!~

ぬいぬ

文字の大きさ
4 / 18
第1章 旅の始まり

3. 「狂熊」との邂逅

しおりを挟む
 ベーカリーを後にしてから1時間ほどが経った。
 私たちは引き続き、首都・ウェスマウンソーを散策している。

 「それにしても、ウェスマウンソーは歩いても歩いても新鮮な驚きがある街ですわね。まさか私が今までこんなに素敵な街に住んでいて、それに気づかなかっただなんて」
 
 いわゆる城下町とされるエリアからだいぶ離れ、いよいよ街道門――首都の出口が近くなってきた。
 城下町がウェスマウンソー市民のための街であるならば、ここは旅人のための街といえるだろう。
 商家が多く立ち並ぶのは城下と変わらないが、その趣には独特のものがある。
 ミトレウスの様々な土地の特産品が並ぶ店や、珍品・奇品を扱う怪しい雑貨屋、これから街道を通って長旅を行う人々がその支度を整えるための専門店、そして疲れた旅人を癒す宿などが数多く立ち並んでいる。

 「見てくださいなカクペル、海外領の原住民の手工芸品ですって。美しいわ」
 私は大通りから一本入ったところにあるオリエンタルな雰囲気の店に立ち寄った。
 「お言葉ですがシスター、そのような買い物は旅支度として不適です。ただでさえ食料品や大道芸のチップ等に金を使っているのです。そろそろご自重ください」
 「もぅ。さっきまでは優しかったのに」
 「先ほどまではシスターの社会性の涵養を優先したまでです。買い物の方法もチップの渡し方にもお慣れになった頃合いでしょう、これ以上のお勉強は無用かと」

 私が口をとがらせて反論しようとしたとき、背後から笑い交じりの低い声が聞こえた。

 「こんにちは~シスター。両手いっぱいに持ってる美味そうなパン、俺たちにも分けてくんね?」

 振り返ると、粗悪な身なりの男たちがニヤニヤと笑いながら立ちはだかっていた。
 その数5人。
 どの顔にも悪意が満ちており、隠しているつもりだろうが、彼らはそれぞれ武器を持っているようである。

 「ごきげんよう。大変心苦しいのですが、これは私たちの旅の糧なのです。施しは教会でお受けになってくださいまし」
 
 私は冷静を装いながら答えるも、内心では緊張が走る。
 一方で私の背後に控えるカクペルは一切動じていない。その余裕ある姿勢に、少しだけ安心感を覚える。

 「え、なんか冷たくね? 俺たちさーもう腹減りすぎて仕方ないんだわ。教会っつったってこっから結構遠いっしょ」
 「もうクタクタで動けねーよぅ」
 「修道士サンたち金持ってんだろ? パンなんかあとで買いなおしゃいーじゃん!」

 男たちがわざとらしい笑みを浮かべる。その声は妙に馴れ馴れしく、視線は舐めまわすように私をとらえる。

 「しかし……」

 私の返答など関係ないと言わんばかりに、彼らはゆっくりと間合いを詰め始めた。
 背後のカクペルがそっと、しかし明確な殺気を醸し出しながらサーベルに手を置く。

 「シスターを困らせるのはやめていただこう」
 
 サーベルの刃が鞘の中で微かに鳴り、張り詰めた空気が広がる。

 「おお、おっかねえ。あいつ『聖光輪騎士団』の修道士だぜ」
 「そっちは一人とはいえさぁ、徒手の市民に剣を抜くのはどうなのかな~?」

 「ほう。貴様らそれで物騒なモノを隠しているつもりか?」

 カクペルの挑発的な声を受け、男たちは凶悪な笑みを浮かべながらそれぞれの武器を取り出した。

 一触即発。
 誰からともなく開戦の火蓋が切って落とされようとしたとき

 「よしときな。お前らゴロツキにゃちと分が悪い」

 飄々とした声。
 振り返ると、いつの間にか傭兵風の男がこちらに歩いてきていた。
 
 日に焼けた肌、シンプルで実用的な――粗野とも受け取れる――装い。肩には使い込まれた大きな背負い袋を担いでいる。
 男は愉快そうに歯を見せて笑っているが、それが決して優しさのこもったものではないのは明らかだ。
 それはまさに、眼前の相手をいまからいたぶろうという獣の戯笑であった。

 明らかに異質な雰囲気に、先ほどまで下卑た笑みを浮かべていた男たちの顔から余裕が消える。

 「な、なんだよお前」
 「関係ねーだろ、あっち行けよ」

 「いーや行かねー。オレも善良な市民の一員でな。教会の使徒を放っておくなんざ、寝覚めが悪くてかなわねぇ」

 「正義の味方気取りってか? いい度胸してんじゃねえかよ!」

 ゴロツキの一人が声を荒げ、ナイフを胸の前に構えながら傭兵風の男に突進する。
 
 「度胸試しか? いいぜ、受けてやるよ」

 重そうな背負い袋を置き、「獣」が牙を剥いた。

 突進してきた男は真正面から彼の浅黒い喉元を狙う。

 だが、その攻撃は虚しく空を切った。

 「うぉ……っ!」

 狙われた彼はナイフをぎりぎりまでひきつけたのち、驚くほどしなやかに体をひねり、敵の腕をわずか数ミリのところでかわしていた。
 そしてそのまま素早く男の腕をつかみ、力強く捩じ上げる。

 「ぎゃあああああっ!!」

 悲鳴とともにナイフが地面に落ちる。
 ミシミシと骨がきしむ音が聞こえる。
 
 傭兵風の男は腕を決して離さないまま、一瞬の動きで相手の足を払う。
 男はバランスを崩し、派手な音を立てて地面に叩きつけられた。

 「な、なんだよこれ……っ」
 
 地面に倒れこんだ男は必死に起き上がろうとするが、それは無情にも胸を押さえつける足によって阻まれる。

 「そら、次の挑戦者は? ひとりずつ来ンのか、それともまとめてかかって来るか!?」

 それは勝負を呼び込む声というより、もはや勝鬨に近いものに聞こえられた。

 「くそっ、こうなったら俺たちが纏めて――!」
 「お、おい待て、こいつ、ただの通りすがりじゃねえ……!」
 ゴロツキの一人が震えながら後ずさりし始める。
 「何言ってやがる、丸腰の相手にビビんなって――」
 「こ、こいつ……『狂熊の手グリズリー・ハンズ』ルスク・リンデマンだ!!」

 その言葉に傭兵風の男がピクリと反応する。

 「『狂熊の手グリズリー・ハンズ』……?」
 思わずつぶやき、カクペルを見上げる。
 彼は頷きながら「噂を耳にしたことがあります」と口にし、続ける。
 
 「ルスク・リンデマン。徒手戦闘で無敵の強さを誇る傭兵です。その肉体に荒ぶる熊のごとき破壊力を秘めることから通称『狂熊の手グリズリー・ハンズ』……ある戦いでは、兵士一人一人が銃を装備した1個中隊を単身で壊滅させたとか」

 「ルスク・リンデマン……」

 私はその名を反芻しながら、私を背に立つ男――ルスク・リンデマンを改めて見つめた。
 
 伝説の名を聞いた周囲委の空気が一瞬で凍りついたのがわかる」

 「お、おい冗談だろ。そんな奴がたまたまここにいるわけ……」

 最初に私たちに絡んできた男の声が震えている。
 その目はすでに怯えに満ち、荒ぶる熊の指の動き、筋肉の収縮ひとつひとつに神経を張り詰めているようだった。

 しかし熊はその視線をものともせず、やれやれと苦笑を浮かべ肩をすくめた。

 「ま、噂ってのは大概大袈裟なもんだ。銃を持った1個中隊相手だって? さすがに死ぬぜ、オレ」
 
 そう言って目を瞑り、軽いため息をつく。
 次に彼が目を開けたとき、その緋色の瞳には再び猛獣の光が宿っていた。

 「だが4人ばかしだとどうかな?」

 「ひっ……!」

 男たちは完全に繊維を失ったようだった。
 ゴロツキを引き連れていた男が拳を握りしめながら、苦々しげに唇を噛む。

 「くそっ、覚えてやがれ!」

 典型的な三下の捨て台詞を残し、男たちは一斉にその場を離れ、通りの影へと消えていった。

 静けさが戻り、張り詰めていた空気が緩む。
 私は胸をなでおろした。

 「助かりましたわ、ミスター・リンデマン。なんと感謝を申し上げればよいか」

 私は頭を下げ、心から礼を述べた。

 「あー、その『ミスター』っつーのはやめてくれ。どうにも背中がムズムズする」
 「では……」
 「ルスケンでいい。仲間はみんなそう呼ぶ」

 彼は照れ臭そうに頭をかく。その気さくな態度に、私は思わずクスリと笑った。

 「わかりましたわ、ルスケン様。改めて感謝を申し上げます」
 「様もいらねえよ。オレぁただの傭兵なんだからな。……ところでなんだが」

 ルスケンは少し声を低くして、真剣なまなざしで私たちを見つめた。

 「忠告だ。お前さんたち、このままじゃ一生あんな連中のカモだぜ」

 「なっ、貴様、私と彼女がそんなひ弱に見えるというか!」

 カクペルが珍しく感情的につっかかる。
 命の恩人に対してそのような態度はよくないと諫めようとするも、彼は私を侮辱されたと思い込んでヒートアップしているようだ。

 「そうじゃねぇ。金持ってるニオイがプンプンすんだよ。要するに身なりがこぎれいすぎるっつーの。大方実家が貴族ってタイプの修道士様たちなんだろうけどよ」

 「……!? し、しかし。私はともかく、シスターをこれ以上貧相な身なりにさせるわけには……」
 「私のことは構わないでカクペル。たしかにルスケンのおっしゃる通りですわ。出立にあたり、私たちはもう少しそこに気を配るべきだったのです」
 「シスター……」

 私はルスケンに向き直る。
 「ご忠告、痛み入りますわ」

 彼は私の言葉に「おう」と返事をし、
 「ま、そうなったとしても修道女様の騎士なら何とかするんだろうけどな」
 と言いながら背負い袋を担ぎなおした。

 「それじゃあな。二人の旅路に神のご加護がありますよう!」
 次に、袋を担ぐのと逆の手を無造作にあげ、彼は路地の奥へと歩き出した。
 その姿が影に溶けるように消えていくまで、私とカクペルはその背を見つめ続けた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...