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第2章 アルヴィゴ街道の騎士たち
4. 王女、はしゃぐ
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みなで歩を揃えて街道門を抜ける。
その直後、私は思わず駆け出していた。
「わぁっ! ついに首都の外へ……!」
高揚した声が自然と弾む。
高い壁に囲まれた城や首都しか知らなかった私にとって、何も遮るものがない世界に出るということは異世界に行くことも同然であった。
「すごいですわ! 地平線が見えますわ!! 道のずっとずっと向こうまで見渡せますわ!!」
「おいおいお嬢、今からそんな調子じゃこの先体力が持たないぜ? 基本は徒歩で旅すんだろ?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる私の背後からルスケンのからかう声が聞こえる。
たしかに、今回の旅は「この国や民衆の暮らしを隅々まで細かく見たい」という目的のために、あえて馬などは使わず徒歩移動にしようと決めている。
最初からこのテンションでは危ないなんてわかってはいるものの
「そういわれましても、この気持ちをどう抑えましょう……!」
首都の外の世界は想像していた以上に活気に満ちていた。
街道を行き交う隊商や旅人、大荷物をひく旅一座、護衛を連れた貴族らしき一団まで、多種多様な人々が歩を進めている。
道の両脇には広がる草原や遠くに点在する農村。
緩やかな丘の稜線が続き、その奥には深い森がちらりと覗いていた。
「シスター、あまり私たちから離れられませんよう」
カクペルが私のすぐ後ろに歩み寄り、静かに諫める。
「わ、わかっておりますわ!」
とは言ったものの、私の心は興奮であふれていた。
目に映るすべてが新鮮で、歩くたびに新しい景色が広がる。
首都の街並みもたいへん刺激的ですばらしいものであったが、こちらは広がる景色に限界がないという別の魅力がある。
「これでしたら、きっと永遠に歩いていけそうですわね!!」
「…………」
背後でカクペルとルスケンが――後者は苦笑交じりに――顔を見合わせている。
「な、なんですの? さあ、行きますわよ!!」
私たちは広く整備された街道を歩き続けた。
しばらくは首都ウェスマウンソーが誇る巨大な城壁が背後に見えていたが、2時間も歩いていると、それも小さくなっていった。
道の両脇には農民たちが畑仕事をする姿が見られる。
黙々と働く彼らに私は駆け寄り挨拶をする。
「ごきげんよう! 何を作っていらっしゃるの?」
「見ての通り大麦だよ! シスター、あんた町の人かい?」
「ええ、つい先ほどウェスマウンソーを出たばかりですの」
「ははは、やっぱりね。あんた、大麦といったらパンの形で生ってると思ってたクチだろ!」
「まあひどい。私そこまで物知らずではなくってよ?」
軽快な軽口をたたきあう、というのも新鮮な感覚だ。
こんな風に話をできる人など今までいなかったのに、まさか初対面の人とこのように話ができるとは!
旅をすることで私の気持ちもおおらかになっているということかしら?
「――――シスター」
「うっ」
振り返ると、カクペルが氷のように冷たい目でこちらを見ていた。
「つい先ほど、私たちから離れぬよう申し上げたはずでしたが」
「ご、ごめんあそばせ~……」
「うはは、怒られてやんの」
まあしかしカクペルの言うとおりだ。もう少し自制しなければ。
「それでは」と先ほど話をしていた農民たちに挨拶をするため、後ろを振り返る。
「……あら?」
しかし彼らはすでにこちらから離れたところで作業を始めていた。
私はなるべく大きな声を出して、お礼と別れの挨拶をする。
すると向こうも手を挙げて返事をしてくれた。
「ああ、彼らが私たちの糧を作ってくださる方々なのね。素晴らしいわ。ありがたいわ」
私は周囲の風景をしっかり見てから再び歩き出した。
「……………………」
「ん? どうしたカクペル」
「……ああ、いや……私も、少し見入っていただけだ」
「……ふぅん?」
***
「もう無理ですわ、歩けませんわ」
街道門を出発してから4時間ほど経ったころ。
私の足は限界を迎えていた。
「足の裏が、足首が、ふくらはぎが痛みますわ……! 地獄の責め苦ですわ……!?」
ヘロヘロになり泣きべそをかく私をルスケンが笑う。
「言わんこっちゃねえな」
「でもでも、ここまで歩けたこと自体すごいと思いませんこと!? 私一応引きこもりでしたのよ!?」
「『引きこもり』のスケールがデケェのよお前さんは」
「お言葉ですが殿下、城内の敷地は広大であるうえ、体力向上のための修練の時間もあったかと存じますが」
カクペルが畳みかける。
「殿下の体力測定の結果から推測するに、本来であればあと1時間は歩けるほどの余力が残っておられるはずですが」
「そんなもの机上の空論ですわ~……」
はしたないことは承知で地べたに座り込もうとしたその瞬間。
残り数十メートルのところに小さなティーハウスがあるのが見えた。
「……!? オアシスですわ!!」
私はフラフラと引き寄せられるようにティーハウスへと歩みを進める。
「……ここではまだ休憩をはさむ予定ではなかったはずなのですが」
「まあいいじゃねぇか、お嬢ははじめておつかいするガキみてぇなもんなんだろ? 最初のうちはこうもなるさ」
その直後、私は思わず駆け出していた。
「わぁっ! ついに首都の外へ……!」
高揚した声が自然と弾む。
高い壁に囲まれた城や首都しか知らなかった私にとって、何も遮るものがない世界に出るということは異世界に行くことも同然であった。
「すごいですわ! 地平線が見えますわ!! 道のずっとずっと向こうまで見渡せますわ!!」
「おいおいお嬢、今からそんな調子じゃこの先体力が持たないぜ? 基本は徒歩で旅すんだろ?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる私の背後からルスケンのからかう声が聞こえる。
たしかに、今回の旅は「この国や民衆の暮らしを隅々まで細かく見たい」という目的のために、あえて馬などは使わず徒歩移動にしようと決めている。
最初からこのテンションでは危ないなんてわかってはいるものの
「そういわれましても、この気持ちをどう抑えましょう……!」
首都の外の世界は想像していた以上に活気に満ちていた。
街道を行き交う隊商や旅人、大荷物をひく旅一座、護衛を連れた貴族らしき一団まで、多種多様な人々が歩を進めている。
道の両脇には広がる草原や遠くに点在する農村。
緩やかな丘の稜線が続き、その奥には深い森がちらりと覗いていた。
「シスター、あまり私たちから離れられませんよう」
カクペルが私のすぐ後ろに歩み寄り、静かに諫める。
「わ、わかっておりますわ!」
とは言ったものの、私の心は興奮であふれていた。
目に映るすべてが新鮮で、歩くたびに新しい景色が広がる。
首都の街並みもたいへん刺激的ですばらしいものであったが、こちらは広がる景色に限界がないという別の魅力がある。
「これでしたら、きっと永遠に歩いていけそうですわね!!」
「…………」
背後でカクペルとルスケンが――後者は苦笑交じりに――顔を見合わせている。
「な、なんですの? さあ、行きますわよ!!」
私たちは広く整備された街道を歩き続けた。
しばらくは首都ウェスマウンソーが誇る巨大な城壁が背後に見えていたが、2時間も歩いていると、それも小さくなっていった。
道の両脇には農民たちが畑仕事をする姿が見られる。
黙々と働く彼らに私は駆け寄り挨拶をする。
「ごきげんよう! 何を作っていらっしゃるの?」
「見ての通り大麦だよ! シスター、あんた町の人かい?」
「ええ、つい先ほどウェスマウンソーを出たばかりですの」
「ははは、やっぱりね。あんた、大麦といったらパンの形で生ってると思ってたクチだろ!」
「まあひどい。私そこまで物知らずではなくってよ?」
軽快な軽口をたたきあう、というのも新鮮な感覚だ。
こんな風に話をできる人など今までいなかったのに、まさか初対面の人とこのように話ができるとは!
旅をすることで私の気持ちもおおらかになっているということかしら?
「――――シスター」
「うっ」
振り返ると、カクペルが氷のように冷たい目でこちらを見ていた。
「つい先ほど、私たちから離れぬよう申し上げたはずでしたが」
「ご、ごめんあそばせ~……」
「うはは、怒られてやんの」
まあしかしカクペルの言うとおりだ。もう少し自制しなければ。
「それでは」と先ほど話をしていた農民たちに挨拶をするため、後ろを振り返る。
「……あら?」
しかし彼らはすでにこちらから離れたところで作業を始めていた。
私はなるべく大きな声を出して、お礼と別れの挨拶をする。
すると向こうも手を挙げて返事をしてくれた。
「ああ、彼らが私たちの糧を作ってくださる方々なのね。素晴らしいわ。ありがたいわ」
私は周囲の風景をしっかり見てから再び歩き出した。
「……………………」
「ん? どうしたカクペル」
「……ああ、いや……私も、少し見入っていただけだ」
「……ふぅん?」
***
「もう無理ですわ、歩けませんわ」
街道門を出発してから4時間ほど経ったころ。
私の足は限界を迎えていた。
「足の裏が、足首が、ふくらはぎが痛みますわ……! 地獄の責め苦ですわ……!?」
ヘロヘロになり泣きべそをかく私をルスケンが笑う。
「言わんこっちゃねえな」
「でもでも、ここまで歩けたこと自体すごいと思いませんこと!? 私一応引きこもりでしたのよ!?」
「『引きこもり』のスケールがデケェのよお前さんは」
「お言葉ですが殿下、城内の敷地は広大であるうえ、体力向上のための修練の時間もあったかと存じますが」
カクペルが畳みかける。
「殿下の体力測定の結果から推測するに、本来であればあと1時間は歩けるほどの余力が残っておられるはずですが」
「そんなもの机上の空論ですわ~……」
はしたないことは承知で地べたに座り込もうとしたその瞬間。
残り数十メートルのところに小さなティーハウスがあるのが見えた。
「……!? オアシスですわ!!」
私はフラフラと引き寄せられるようにティーハウスへと歩みを進める。
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