アセンブラカウボーイ ~ わしらは、高齢プログラマー! ~

ムロ蘭丸

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第二章:高齢プログラマー、奮闘す!

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高年齢者雇用安定法: 
 正式名称は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」。
 この法律は社会や時代の変化を踏まえて、様々な改正を重ねてきた。
 中でも、“定年”は、1975年くらいまでは55歳定年が一般的だった。
(あの、サザエさんの波平さんも定年前の54歳という設定だった。)
 その後、定年は60歳となり、65歳までの継続雇用が努力義務化された。
 そして2021年には、70歳までの就業機会確保が努力義務化されようとしている。
 早晩、定年も65歳、あるいは定年そのものを廃止する企業の動きが加速すると思われる。
 

 
 私は、予め渡されていたカードキーを使ってB社執務室のドアを開けた。いきなり年寄りたち七人がフロアに入っていくと、全員の視線が突き刺さってくる。唖然としたような顔も見える。
 七人は、多少の違いはあっても、新聞に入ってくる“高齢者向け通販チラシ”に載っているような服を着ている。このため、余計に年寄り臭い雰囲気を醸し出していた。
 
 部長の堀田は我々に気が付くと駆け寄ってきた。堀田の目にも多少の驚きが感じられる。それはそうだ、年寄りが七人もぞろぞろとIT会社のフロアに入ってくるのは、明らかに場違いな感じだ。
 
 その日は社長の岩田も来ていた。岩田は、いつもは少し離れたB社本社にいるのだが、今日は何か打合せでもあるのだろう、奥の会議机に銀髪の姿を見せている。岩田も当然ながらA社からの天下りだった。銀縁の眼鏡の奥から、人をさげすんだような視線をこちらに向けている。
 
 堀田は私に、「みなさんには、まずは挨拶と自己紹介していただきます。今日のところは、その後は契約や執務開始の準備だけになると思います」と言い、フロアの中ほどに招き入れられる。
 その間も、好奇の視線が注がれ、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
 
 「みなさん、ちょっと集まってください。ご紹介したいと思います」と、堀田がフロア内に聞こえるように叫ぶと、机に向かっていためいめいが立ち上がってフロアの真ん中に集まって来た。彼らの目の前にいるのは、一列に並んだ年寄り連中。と言っても、もともとはこの会社にいた人間だ。年配者の中には懐かしそうにこちらに会釈をしている人も見受けられる。しかしここ数年に入社した面々は、面白いものでも見るような、あるいは驚いたような表情を浮かべてこちらを見ている。
 
 堀田が、DX対応でアセンブラの作り替えのために先輩諸氏の力を借りることにした、という口上を述べ、それに続いて私を皮切りに、「よろしくお願いします」の、挨拶をした。
 お定まりの挨拶だが、「頑張れじいさん」というような、ささやくような野次も聞こえる。最後は最年長の元木だった。「げほん」と、大きく咳払いし、「最近あまり人前でしゃべってないもんで」と前置きした途端、入れ歯がはずれた。本人も少々あわて、前かがみになったところで、カツラが少しずれた。
 フロアの面々は、必死に笑いをこらえていた。しかし若い女子社員の一人が、とうとうこらえきれずに大声で笑いだした。そしてそれにつられるようにみんなが笑い出した。
 元木はバツが悪そうに舌を出したが、みんなにあわせて自分も笑っていた。そこは年の功で人間が出来ているとでもいうべきだろうか。
 
 「まあ、みなさんよりもはるかに先輩たちですが、どうか仲間として、よろしくお願いします」と、堀田は締めくくった。
 席に戻りながらの面々からは、「大丈夫なのか?」とか、「年寄りばっか!」というような話し声が聞こえていた。
 
 その後は、私と伝田だけが残り、他の面々には明日から出社するように伝えて帰し、契約の話をした。七人のチームは、アセンブラカウボーイ社(AC社)という会社組織とし、準委任契約でやらせてほしいことは予め伝えていた。
まず、フロア内の執務場所の確認を行った。準委任契約では、指揮命令系統があいまいになったり、勤怠管理をしていたり、と誤解される可能性を排除するため、通常は委託元社員とは別に“島”を作って席を設ける。その“島”は、フロアの少し奥まった一角に八つの机が用意されていた。
 その後、契約書の文面を確認した。メンバー全員がフルタイムでは働けない事情もあるので、それを考慮した人月での契約となっており問題はなかった。お互い調印し、契約書を取り交わした。
 一日目はこれで終わった。
 
 帰り際、奥の会議机に座っていた社長の岩田が、こちらにやってきた。勤めていたころは、顔を合わせるのは、会社の宴会か、全社の検討会程度だった。あまり話をしたこともなかった。その岩田からは「よろしく頼みます。期待しています」と言われたのだが、例の人を見下したような目つきからは、はたしてそれが本心から言っているのかは、うかがい知ることはできなかった。
 
 我々がフロアから出ていく間際、岩田が堀田の席に走っていく姿が、ちらっと見えた。おそらくは、「堀田くん、あんな年寄りで大丈夫なのかね」とでも言っていることだろう。
我々にも一抹の不安がないわけはない。自信をもって大丈夫です、とは言えないのが正直なところだ。でも、請けた以上、やってみるしかない。
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