私と彼女の逃避行

といろ

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幕間 彼女についての抽象的な考察

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 なんだか難儀だなあと、彼女の話を聞くたびにそう思う。
 例えば、家の話。彼女の家にはあまりお金がない。

 彼女の場合お金がないというのは、別に文字通り一文無しという意味ではないけれど、例えば一ヶ月間に自由に使える家庭のお金が二千円あるからといって、それを「お金がある家庭だ」といえるかというとそうとはいえないんじゃないかなって、そういう話。彼女はわたしとは違う理由で、高校選びを制限されていたらしい。

 変にお金と権力にゆとりがあるのもどうかと思う。だけど、どちらも持たなかったからといって幸せになれるとは限らないのだ。
 それから、お金と権力から離れたとしても、それを補おうとする大きな愛がそこにあるかは、有り体に言ってしまえば運次第らしい。相性の問題もあるし。

 そういうものだと受け入れてしまえれば、きっと彼女は楽だったんだろう。
 世間は、知らないままで幸福に過ごすことより、知った上で苦しんでもがくことを推奨する。たぶんそれは、他人が苦しむことをどこかで期待しているから。

 だけど彼女はそうならなくて、だからあんなに歪なんだろうな。世間とは相入れない一個人が、そのままで生きて行くことは難しい。

 また抽象的な話になってしまった。わたしのちょっとだけ悪い癖だ。
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