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第十三話
しおりを挟む「走って!」
「うわ何、バレた!?」
「早く!」
彼女の視線は私より後ろに向けられていて、警察が追ってきていることを察した。
彼女は走りながら私に手を差し出している。リレーのバトンを手渡すときみたい。手を重ねて、ホテルを出る。日の光が眩しくて目をつむったけれど、空はどんより曇っていた。なんでこんなに眩しいの。
「とりあえず左!」
「駅! 駅に行こう! 車まで戻るの!」
「いいねそうしよう!」
次は直進、次は左、分かれ道の度に彼女に伝えながら、駅へ向かって。今も警察は追ってきているのか、確認するのは怖くてただ走る。気配がしないから距離はありそうだけど、でもそんなのわかんないし。
喉の奥がひりひりして、耳の奥が痛い。中学校の体育を思い出す。ちょっとやだなあ。
「切符買わなきゃ」
地下鉄の入り口を駆け降りる。人の間をすり抜けて、すぐ後ろに警察がいないことを確認してから券売機を探した。
「え、っと、いくらだっけ、?」
「んとね、はぁ、四百、十円」
「おっけ、」
お互い息切れがひどくて、顔を見合わせてちょっと笑う。
「ふ、あはは、つかれたね。早く買っちゃおう」
四百十円分の切符を買って、車を停めた駅に向かう。東京の駅は相変わらず人が多くて、目まぐるしく変わる景色に頭が痛い。
でも、この時間だからか、来た時と逆方向に進んでいるからなのか、電車の中は思ったよりもすいていた。車両のちょうど真ん中に空いていた二人分の座席に、彼女と並んで座る。ていうか、今、何時だ。
スマホで時間を確認しようとして、電源が落ちていることに気が付いた。え、壊れた? 背筋にすうっと冷たいものが伝った気がした。でも、よく考えたら充電切れかもしれない。携帯の充電を切らしたのは何年ぶりだろう。覚えがなさ過ぎて、本当にこれがただの充電切れなのかちょっと不安なんだけど。
まあいっか、ということにして、背もたれに体重をかけた。彼女が隣で息を整えている。
「そういえばさあ、」
「うん?」
「来た時と乗ってる駅違うよね。本当に四百十円であってたのかな」
「あ」
急いでいたから気が付かなかった。え、私と彼女どっちが言い出したんだっけ。それすら覚えていない。
「うわー、違うかも。私が言った気がする。うわっ、ごめん」
「わたしかも? こっちこそごめん」
「えぇ、そうだっけ? 覚えてないや」
「ふふふ、わたしも。まあいっか」
「そうだね。ちょっと惜しいけど」
そういえば飛び乗った電車は正しい行先のだったかな。土地勘がなさすぎて車内の掲示を見てもわからない。
「ねえ、この電車さあ」
スマホが落ちている私では調べようもなくて、彼女に尋ねる。
「あ」
彼女はあたふたとしながらスマホで確認してくれた。
案の定というか、私たちが乗っていた電車は目的地にはつかないことが判明して、笑いながら次の駅で降りた。
「なんで急いでるときって、急いでるのに余計にミスが出ちゃうんだろうねえ」
「急いでるからじゃない? 急がば回れってやつだ」
「先人の知恵は偉大だねえ」
今度はちゃんと調べて、行き先を確認してから電車に乗り込む。
「謎に一駅移動して降りているから、警察も撒けちゃいそうだね。逆に良かったかも?」
「たしかに」
車内の電子案内には、今度こそ、昨日も聞いたような覚えがある駅名が並んでいた。
ようやく目的の駅にたどり着いて、改札をくぐる。
「ねえ今何時?」
「あ、スマホ切れたんだっけ。えっとねえ、十時」
「まだ朝じゃん。走って疲れたね~」
「ほんとにねえ」
昨日通った道を思い返しながら歩いて、駐車場へ。
私たちが乗ってきた車を、警察が二人で見張っていた。こちらに気付いて、走ってくる。
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