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プロローグ
しおりを挟む俺は大量の睡眠薬と500mlのペットボトルを前に、スマートフォンのカメラロールを眺めていた。
この世にただ一つ、未練があるとすれば、大好きなあの場所を収めた写真たちだ。
スマホのデータは全て消していくつもりでいたけれど、こんなに綺麗な写真が、このまま誰にも見られずに消去されていくと思うと少し寂しい。
それならば消さなければいい話かもしれないが、俺は両親にあの場所を知られてしまうのは嫌だった。あの場所だけじゃない。俺が好きだったもの全てに両親に関わってほしくない。だから、データの全消去は必ずしなければならない。
俺は少し悩んで、決めた。スマホに残すことができないのなら、インターネット上に遺せばいい。今どきのSNSは嫌いだ。いつでも、誰とでも繋がれる、というそのコンセプトが苦手だから。俺は独りでいたい。
だから、ネットで作り方を検索して、見よう見まねでブログを作った。フリーのメールアドレスを取得して管理者の欄に打ち込むと、あとはタイトルだけだ。
どうせなら、恰好いいものにしたい。となると、四字熟語か、横文字か。
しばらく真剣悩んで、やがて自分の滑稽さに気が付いた。
もう死ぬのだから、反響なんて見ることはできない。それなのに、何でこんな無意味なことをしているのだろう?
「ほんの一瞬だけなのに。」
口から漏れた自嘲の笑みに、はっとさせられた。
それだ。
“moment” つまり『一瞬』。
これ以上、このブログに似合うタイトルはない。
俺は満足して、スマホの画面を触って、ブログを作成した。
画面いっぱいに浮かびあがるあの場所の写真に癒される。
いつか、誰かが、この写真を見て、俺と同じように感動してくれたらいいな。
スマホがデータを消去している最中であることを示す、くるくると回る円を見ながら、がらにもなくそんなことを思う。
『消去が完了しました』
心地よい充足感に満たされながら俺はスマホを置いて、ペットボトルに手を伸ばした。
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