セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
51 / 52
最終章

01 新人と忘れ雪

しおりを挟む

 渚が美喜に謝ってふたりは仲直りしたらしい。
 それからというものの、美喜と渚は一緒に元気そうな笑顔を浮かべて、『メイドォール』へと再び通い始めていた。
 しかし今は美喜だけが、『メイドォール』のカウンター席に座っている。成実と萌相手に、雑談に花を咲かせている。

「そうだ。私ね、バイトをすることにしたの」

 切り出すように言うと、成実がいち早く反応した。

「撮影助手的な?」
「うん。彩乃さんの所で、カメラマンの見習いとして働くことにしたの」

 あれから何度か美喜と彩乃は、喫茶店で会うたび雑談を交し合っていた。その中で美喜の写真を撮る技術が、彩乃なりに光るものが見えたらしい。そして、彩乃の勤める会社でバイトとしての入社が決まっていた。

「優美ちゃんと彩乃さんには、感謝しないとね」

 優美は首を横に振る。

「いえいえ、いいのよ。姉も負担が減って喜んでるし、むしろこっちが感謝してるわ」
「大学を通いながらは大変ですけれども、その分得られるものも増えますし、大きくなりますわ。体を壊さないよう、精進なさってくださいまし」

 萌のエールに、美喜はありがたく受け取りつつも、同情の目を向けてしまう。

「茂さんも大変ですよねぇ……」
「ええ、まったくです。仕事なんて辞めてしまえばよろしいのに」

 萌は少し影のある笑みを満面に広げる。

「ちょっとちょっと、萌さん中身が出てるって!」
「ふふふふ」

 成実が注意するも、萌は意味あり気に笑うだけだ。

「美喜さんもすっかり慣れたみたいで」

 優美が苦笑する。美喜は目じりを下げてコーヒーをすすった。

「それはそれ、これはこれで割り切れるようになると、楽しいことがわかったの」
「精神的にたくましくなりましたね」
「嫌だなぁ、ならざるを得なかったの」

 美喜のおどけ混じりのひと言に、みなの笑い声がフロアに響き渡る。

「おい、優美」

 名指しで呼ばれた優美が顔を向けると、郷子が厨房内から手招きをしていた。

「はーい、今行きます」

 優美が厨房内に足を踏み入れる。作業台の上には、お盆の上に載ったチョコレートパフェがあった。

「最近、奴を見かけないな」
「奴、と言いますと?」

 お盆を持ちながら優美は訊き返す。

「渚のことだ」
「あー。こっちにこないだけですよ。なんか用事があるみたいで。でも、最近はうちに来るんですよねぇ。昨日もうちに来て、姉とこそこそやってましたね。ま、大丈夫だと思いますけど」

 優美は大したことなさそうに、笑って受け流す。

「おまえの姉貴とこそこそ……?」

 表情が苦虫をつぶしたものになっていく。

「なあ、嫌な予感がしないか?」
「嫌な予感? まさか……浮気?」

 コツン、と麺棒の先が優美の頭を見舞う。

「おまえと豪(たけ)のバカ、幸せすぎて脳みそが鈍化してるな。今にとんでもないことが――」
「優美ちゃんに郷子さん、店長が今来て知らせたいことがあるって!」

 店内から成実の呼びかける声が聞こえてきた。

「はーい! なんでしょうね?」
「もう手遅れかもな……」

 優美には郷子が嘆く理由がわからなかった。



 * * *



「やあやあ、みんなおはよう」

 店長の島も、彩乃にフラれた傷心が癒えて、今では以前の明るさを取り戻していた。

「なんですか? 知らせたいことって」

 成実が目を輝かせている。

「想像できませんわね」

 萌が小首をかしげている。

「私もなんなのかさっぱり」

 優美も首をひねっている。

「……」

 郷子は無言で腕を組んでいる。

「あの、席をはずしたほうがいいですか?」

 美喜が気を遣って島に尋ねた。

「あ、いいよ。そのままで。美喜ちゃんにも関係あることだから」
「え? なんだろう……」
「それじゃ、入ってきていいよ!」

 開け放たれている出入り口のドアに向かって島が呼びかける。

「やっぱり、か……」

 やれやれと言わんばかりに、郷子は額に手を当てる。

「……」

 郷子以外はただただ驚き、言葉が頭に浮かばない。口を開けているだけである。すると、みんなの視線の先にはメイド服姿の渚が入ってきた。

「メイド姿では初めまして。今日からみなさんとともに働かせていただくことになりました、渚です! よろしくお願いします!」

 渚は丁寧にお辞儀をする。

「はい、みんな拍手拍手」

 島が拍手を求める。
 客はともかく、優美たちは呆然と手を打ち鳴らしたのだった。



 * * *



 閉店時間の30分前には島が、店長自らの音頭で店じまいした。
 一同は、渚の歓迎会が行われるいつものファミレスへ向けて歩いている。
 ちなみに、美喜も招待されていたが、用事があるため直行することになっていた。
 豪篤と渚は、みなから距離を取って並んで歩いている。
 豪篤は怪訝な顔をして渚の横顔に目をやった。

「みんなはあえて触れないようにしてたけど、何か企みでもあるのか?」
「実は義姉(ねえ)さんが、『メイドォール』で働いてみたらって提案してきたの」
「あのバカ、余計なことを……」

 豪篤が嘆いてみせるが、時すでに遅しである。

「そうだ。おまえ、受験は? 美喜さんと同じところを受けるんだろ。油売ってていいのかよ」
「調べたらまだまだ先だから余裕よ。あとね、アンタと違って地頭(じあたま)がいいの。過去問も楽勝だったし、大丈夫」
「なら、いいけどさ」

 しかし、豪篤はあることに気づいた。

「姉貴は店長をフッて、実質絶縁状態だったんじゃないのか? というか連絡先はどうやって仕入れた?」
「茂勝さんからメルアドを訊いて教えたよ。で、何がどうなったのかわからない。けど、何回か交換してるうちに、仕事の面で店長と意気投合しちゃったみたい」
「じゃあ、今日のおまえの歓迎会にも姉貴はいるってことか」
「そうだよ」
「あーあ、マジかよ……」

 痛む頭を押さえて豪篤は、憐れみの表情を隠せなかった。

「渚はいいのか? 結果的に、姉貴が無理矢理働かせるようなもんだけど」
「いいよ。男性恐怖症の克服のためだと思えば、ね。あと、前からメイド服を着てみたいって気持ちもあったの。……それに」
「それに?」

 渚は珍しく顔を赤らめて照れた口調でつぶやいた。

「豪篤と優美といっしょにいる時間を増やしたいから」
「……そっか。そういうことならいいかも。俺も大学の講義に支障が出ないように調整しないとな」

 豪篤は片手で渚の肩を引き寄せる。渚も豪篤の肩に頬を当てた。
 そのとき、ふたりの目の前に、はらりはらりと雪が落ちてきた。 

「3月に入ったのに珍しいね」 
「ああ。でも、今年はまだ寒いからな」

 雪は少しずつ量を増やし、なおも降り続く。
 季節遅れのそれはまるで、ふたりを祝福しているかのようだった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...