アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
59 / 230
第3章 蒼粒石の秘密

第16話 空に駆ける

しおりを挟む
「プレア殿、全然進まないんだけど……」

暫く機動装置開発を進めていたところ、ハルからそんな声が上がる。見に行ってみると、確かにさっきと変わっていない。むしろ、少し状態が落ちているようにも見える。うーん、このやり方じゃダメなのかな?

「どうしようか……とりあえず一旦やめようか」

「うん、そうする」

ハルが刀を引き抜くと、血が滴り落ちて行く。ゲーム補正で止血が進まない分、刃にこびり付いて取れないなんてことはなかったものの。これをずっと続けるのも流石に難しいか。他の方法を考えないと。

「プレア殿、【精錬】はどう?」

「あー、新しく金属を作るってこと?」

「んーそんな感じ?で、それと小春を【統合強化】するみたいな?」

「ああ……そうじゃん、最初からそれで行けばよかったね」

【統合強化】は、それを使った場合必ず錬成に成功するという、隠れてチート級の性質がある。ここ最近、そのことをすっかり忘れていた。やっぱり、必ず成功するって凄いんだな。

そうと決まれば、早速作っていく。とはいえ、元となる金属に実際の刃を使うのは流石に憚られたので、血液のみで作る。一度瓶から出してしまえば、血液凝固は始まるのだから。レシピから刀の鞘を自動作成して、その中に血液を流し込んで行く。そのままだと固まっただけで終わってしまうので、鞘ごと【精錬】にかける。

「さて、どうなるか……」

もう、完全に手探りだ。何となく、今までの経験から思いついたことを手当たり次第やっているだけ。宝石を今のところ使っていない分、宝石技師の利点も活かせないし。

でも、だからといって専門分野だけやっているわけにはいかない。数十年前、世界中である感染症が流行した時、日本が脱却に随分と時間がかかってしまった原因の一つは、医療機関が余りにも細分化され過ぎていたことだった。

日本は他の国と比べ、医師一人一人がある分野にのみ特化している傾向にある。だから、そういった非常事態で対応できる医師が枯渇しがちだったのだ。現在では、その事態を受けて増加した新世代の医師達によって、その分割傾向が見直されつつあるが、他の先進国に比べるとまだまだ遠い。

別にそれとこれとは何ら関係はないが、僕もせっかくこうして遊んでいるからには、色々な方面を試したいと思う。そもそも、僕のこんなキャラビルドも、元はと言えばそういう思考によるものだし。一旦、宝石から離れて原点回帰してみるのも良いだろう。あの頃の、何も分からないまま直感で物を作っていた僕に。

「【統合強化】」

そう思いながら、機動装置を完成させた。既存の技術を応用するだけだったので簡単に作れた。精々、フックショットのアンカー部分の改造と、それと連動したパーツを作ったくらい。それも、以前獲得した【拡大鏡】のおかげで非常に楽になった。一見地味なスキルだが、大きく見えるだけでここまで効率が変わるとは。これは今後も愛用する予感。

ーーー統合強化に成功しました。『小型フックショット:改×2』『ホルスターベルト』『気流式ナノジェット』は『空間機動ベルト』に統合強化されました。

ーーー職業レベルが上がりました。(Lv.6→10)

ーーー宝石技師Lv.10に到達。スキル【簡易調整】を獲得しました。

【簡易調整】消費MP:200 クールタイム:1時間
宝石を使用しているアイテムの機能の程度を簡易的に調整できる。ただし、機能を新たに付けたり外したりはできない。

とはいえ、今回はゴリゴリ宝石を使わせてもらった。まあ、フックショット自体が既に蒼粒石で動くやつだし、今更なんだけどね。今回作ったアイテムは、なるべく元ネタを参考に作るようにした。そのおかげか、割とイメージ通りのものを錬成できた。

『空間機動ベルト』☆7 AGI+30
売価不明。両腰の装置からワイヤーを射出し、壁や天井などに引っ掛けることができる。アンカーが突き刺さると即座に引き寄せられるが、その際連動して背部のジェットが起動することで、高い推力での移動ができる。使用時身体に大きな負担がかかるため、VIT50未満の場合装備できない。

と、危ない危ない。僕のVITは40。それを、武器の効果で90まで引き上げている。現状あの武器なしで装備するのは無理なようだ。まあ、今のところ僕の武器は一択だから問題ないんだけどね。

「さてと、木材が切れそうだから試運転がてら採ってくるよ」

「あっプレア殿、ボクも見てみたいな。プレア殿が空を飛ぶとこ」

「まだそこまで行けるかは分かんないけどね……良いよ、どうせ暫くは放置だろうし」

あの血液の精錬には時間がかかる。流石に血液だけではどうにもならないと思い、事前に金属の粉末を投入している。果たして金属のようになってくれるだろうか?

精錬中の血液の塊を部屋に放置し、僕達は平原へと歩を進めた。狙うのは木の幹。ただし、そこそこ高度のある所だ。あの辺りは若い枝が多く、根元よりも上質な素材が手に入りやすい。しかし、この地域に生えている木は背の高いものが多く、普通に地上から伐るのでは殆ど届かない。

そこで、このベルトの出番だ。果たして、どこまで活躍してくれるだろうか。僕は足をしっかりと踏みしめると、助走のために走る!うおっ、速い!ベルトの効果でさりげなくAGIが上がっていたお陰だ。よし、この辺で良いだろう。

「行くよ、ハル!」

「うん!」

ハルの返事を聞くや否や、僕は大きく跳躍した。ただ跳ぶだけではない。身体の向きが、目標に向けて真っ直ぐになるようにして……

「今だ、ワイヤー射出!」

言いながら、強く思念する。間もなく、両腰の装置からワイヤーが放たれた。改善が奏功し、より速く射出できるようになったので、アンカーを補強して重量が増した今でもかなりのスピードで飛んでいった。

宙に浮いていた僕の身体がガコンと揺れる。アンカーが固定された。今回の改造を経て、元々フック状だったアンカー部分を5本の鉤爪に変更した。因みに、これはカンナさんに作った調薬装置のミキサー部分の応用だ。ただし、素材はあの巨人のを使っているため、更に強度が高い。

そして、最初閉じた状態で飛んでいくアンカーは、何か物に突き刺さると爪を開く。丁度、グーからパーに開くような形で。そうすることで、アンカーを内部でガッチリと固定することができる。

直後、ワイヤーの引き寄せが始まる。それと連動して、ベルトの背面に取り付けたジェットエンジンが作動し、僕の身体は急速に木の幹へと手繰り寄せられる。

「おおぉぉぉぉ!!?」

じ、Gが凄い。これは装備制限かかるわけだ。でも、この空を切って高速移動する感覚、良いな。絶叫マシンにハマるようなものだ。スピードによって得られるスリルと、それ以上の楽しさ。この独特なセンセーションが僕の心と身体を掴んで離さない。

「う、おぉっ……楽しい!」

無事に幹に到達し、近くの大枝に着地した僕は、思わずそう叫んでいた。チャットでハル視点からの録画映像が送られてくる。そこには、確かに物凄いスピードで、角度の緩やかな放物線上を疾走する僕がいた。

………

「いや~、楽しくて時間忘れてた……」

「ホントだよ、途中ボクが言うまで木材のことも忘れてたでしょ」

「はい、仰る通りです……」

全くもう、といった風にプイッと背いてみせられる。しかし、その目元もどこか楽しそうだった。どんな形であれ、こうやって時間を忘れるほど夢中になれるのは悪いことじゃないからね。特に、ゲームを楽しむという点では。

さて、そろそろ精錬が終わる頃だろう。どうなっただろうか?願わくば金属のように、加工しやすい形に仕上がっていて欲しいが。そう思いながら、恐る恐る、入れ物にしていた空の鞘からそれを引き抜いて行く。……え。

「「……何これ」」

思わずハルとハモった。僕達の目の前に出てきたのは、だった。



プレアデス Lv.25
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.10
HP:500(+250)
MP:170(+360)
STR:50(+50)
VIT:40(+50)
AGI:0(+30)
INT:50(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30

SP:0

頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する恐牙の戦槌ブーストファング・ウォーハンマー
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…空間機動ベルト

所持金:45700G

満腹度:60%

装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加エンチャント(火炎) 《火傷》付与(中) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒)

称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者ジェム・コレクター》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》

スキル:【統合強化】【硬化】【金属探知】【宝石片弾ジェム・ブラスト】【ジェットファング】【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】【脆弱化】【ジェノサイド】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】

チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【VTuber】猫乃わん太 through Unmemory World Online【ぬいぐるみ系】

mituha
SF
「Unmemory World Online」通称「アンメモ」は実用、市販レベルでは世界初のフルダイブ方式VRMMOである。 ぬいぐるみ系VTuberとして活動している猫乃わん太は、突然送られてきたベータテスト当選通知に戸惑いつつもフルダイブVRMMO配信を始めるのだったが…… その他の配信はこちら https://kakuyomu.jp/users/mituha/collections/16817330654179865121 777文字で書いた短編版の再編集+続きとなります。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

処理中です...