姉の殻。

るかこ

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__不登校のワケ。

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「お姉ちゃん?お姉ちゃんってば!」
私の姉、梨香は学校に行っていない。不登校だ。
お姉ちゃんの部屋に入る。
「…なに?」
お姉ちゃんはヘッドホンを首に下げた。
「晩御飯できたよ、行こっ。」
「めんどい、持ってきて。」
「お父さんに怒られるよっ!」
お姉ちゃんを部屋から引きずり出すのが私の役割だ。
お姉ちゃんは重度のひきこもりで晩御飯の時間以外は姿を見せない。
街へ出かけることなんてありえないだろう。
理由は私も知らない。思い当たることがない。

お姉ちゃんがようやく出てきた。
「梨香!いつも待たせやがって…。」
お父さんの怒鳴る声がキッチンに響いた。
「うっせぇ、黙れクソ親父…!」
お父さんとお姉ちゃんの言い合いが始まってしまった。
「いただきますっ!」
言い合いを破るように私は叫んだ。
お父さんとお姉ちゃんはため息をついて晩御飯を食べ始めた。いただきますも言わずに。
今日の晩御飯は私が作った炒飯だ。
お姉ちゃんの大好きなオニオンを入れてみた。
気に入ってくれるかな?
「うまい。」
お姉ちゃんは小さな声で呟いた。
気に入ってくれたみたい、良かった。

「ごち。」
食べ終わるとすぐに部屋へ戻ってしまった。
お風呂は入らないのかな。
「お姉ちゃん!お風呂は?」
ドア越しに叫ぶ。
「先に入っていいよ。」
と返ってきた。

お父さんに洗い物をまかせてお風呂に入ることにした。
お風呂に入りながらでさえお姉ちゃんのことを考えている。
「あっ。」
お姉ちゃんのお気に入りであるシャンプーが切れている。明日買ってこよう。

「おやすみ。」
1人の部屋で呟いて、ベットに入る。
もちもちの毛布にくるまり、いつの間にか眠っていた。

「…梨奈、梨香おいで。」
お母さん…
お姉ちゃんと一緒にお母さんの胸に飛びつく。
「お散歩行こう。」
近所のさくら公園へ3人で歩いて行ってよく遊んだ。
「梨奈、梨香帰ろうか。」
「お母さん、お姉ちゃんいない。」
「そんな…梨香!どこ?!」
あぁ、お母さんと一緒にお姉ちゃんを探し回ったんだ。
お姉ちゃん、ベンチの裏で転んで泣いてたんだっけ。
「梨香!何してるの?」
お母さんはいつもお姉ちゃんに優しかった。
私はそれで良いと思っていた。
「お母さん、転んじゃったぁ。」
半泣きで痛みを訴えるお姉ちゃん。
今とは全然違う。

変に耳鳴りがして目が覚めた。
夢を見ていた。お母さんの夢。
あの夢はお姉ちゃんが小学校4年生で、私が2年生だったころのことだ。
どうして、こんな夢を見たんだろう。
「いいや。」
考えるのはやめて、身支度をする。
朝御飯はお父さんが作り置きしてくれている。

朝御飯を詰め込むように食べた。
朝はいつだって忙しい。それは私だけじゃないだろう。

「お姉ちゃん。」
そっとドアを開けると、お姉ちゃんはネットゲームを大音量でしていた。
「梨奈か、どうした?」
「学校行ってくるね。」
「もうそんな時間?行ってらっしゃい。」
「うん。」

私の家は会話が少ない。あったとしてもすぐ途切れてしまう。
お姉ちゃんが心を閉ざす前は薔薇色だったのに。

登校中、歩いていると夢のことを思い出してしまった。
お母さん…
どんなに願っても会えないのに。

お母さんが亡くなった日。
20XX年の3月16日だ。
4年前か…。お姉ちゃんが小学校5年生で私が3年生の年だ。

お母さんが亡くなるのは本当に一瞬だった。
お姉ちゃんと散歩している時に飲酒運転の車が突っ込んでくるところを見つけて、瞬時にお姉ちゃんを庇ったんだ。
お母さんがお姉ちゃんを庇っていなかったらお姉ちゃんが亡くなっていた、とお父さんから聞いている。

その時からだ。お姉ちゃんが心を閉ざしてしまったのは。小学校5年生という幼さに関わらずお姉ちゃんは
「私のせいだ。私が居なければみんな幸せなんでしょ。」
と言っていた。そんなお姉ちゃんの言葉を聞く度にお父さんも、私も胸が苦しくて、痛くて、切なかった。

やがて外に出るのも億劫な状態になってしまった。道という場所がトラウマでしかないのだ。
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