寝込みを襲ったら数年後に仕返しされた話

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そう告げた彼の耳には紫色のピアスが光っていた。

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 ハントリアークス公爵家の令息であるロウランドは支配する側の人間だ。
 煌く黄金のサラリとした髪に、王家の人間であることが判る金色の瞳。透ける様な白磁の肌と非の打ちようのない容貌はハッとするほどに美しい。
 十歳という幼さはあるものの、身体はすでに大人への変貌をとげはじめている。同じ年頃の少年たちとは頭一つ分大きい。
 頭もとても良く、彼についていた家庭教師は既に教えることがなくなって公爵家領地のことを学ぶための準備をしているらしい。



 以上がロウランドの評価。
 オレが思うにロウランド、ロウは頭だっていいし、体術だって馬術だって習ったあとすぐに習得できるすごい奴なんだけど、とにかく性格が悪い。
 貴族なんて威張り散らしてなんぼみたいなとこあるけど、あれは桁違いの性悪だ。
 女の子はロウがそこにいるってだけで黄色い声だしちゃってさ。ニコリとも笑わないのに、それがいいのですわ! あなたにはそれが判らないのね。なんて嫌味を言われてしまう。
 ロウはほとんど喋らない。無口ってわけじゃないんだろうけど、あ、あと笑わない。
 この間のお茶会でほぼ一言も喋らずに帰ったらしい。
 らしいってのは、そこにオレがいなかったから人づてに聞いた話ってこと。
 オレの家は子爵家だから公爵家が行くようなお茶会には行かない。招待は何故かされているらしいけど、粗相があってはいけないってお断りしている。
 オレもまだ八歳だからお茶会に行くより友だちと遊んでいる方がたのしいし。
 友だちの家のお茶会だったら参加することもあるけど、そういうのがあるとなんでかロウがお茶会に参加してくるからオレは行きたくない。
 下級貴族のお茶会に突然やってくる公爵家令息なんて威圧感だらけで歓迎されたものじゃないけど、それがロウだってだけで周りは一気に華やぐ。見た目だけはいいのだ。
 それを知っている女の子たちはオレをお茶会に誘ったりしてくるんだけど、そういうのに参加するとロウが怖い。この間、女の子の圧に押され、お茶会に行ったら目に見えて不機嫌なロウに頭をガッシリ掴まれてじわりじわりと力を込められこのまま頭を潰されるんじゃないかと恐怖を覚えた。


「…くだらない茶会に参加するな、チビ」

「いたた…やめろ、この…いた…ばかっばかっ…!」


 庭園のすみで追い詰められ、ロウがとっても機嫌が悪いことを暴力で教えられた。
 みんなに背を向けるようにロウが立てばオレは彼の身体ですっぽり隠れてしまう。この暴力をとめてほしくても、誰にもオレはみえないのだ。
 ロウは十歳。オレは八歳。体格が違って当たり前なのに、アイツは発育がとてもいい。頭二つ分は違う。…もっと違うかもしれないけど。
 とりあえず、一通りの罵倒を受けて帰るからと腕を掴まれハントリアークス公爵家の馬車に放り込まれた。
 豪奢な造りの馬車は内装もきらきらしてあちこちにクッションが敷かれている。
 足元には触り心地のよい絨毯が敷き詰められている。オレはロウの足元だ。絨毯が敷かれているから痛くはないけど、とっても屈辱的。
 その後、令息としてその言葉遣いはどうなんだと言いたくなるような言葉の暴力を受けた。
 お茶会がそんなに嫌ならこなきゃいいのに。理不尽だ。
 オレの身長がなかなか伸びないのはロウが頭を押さえてくるからだと思う。


 そんなオレとロウの出会いはこちらもお茶会だった。
 王家が主催するお茶会で、一通りのマナーを覚えた令息、令嬢たちがそれをお披露目するための大事なものでここで作法をきっちり披露できれば将来のコネができる。
 オレのような子爵の次男坊だったり跡継ぎじゃない貴族は上位貴族の従者になったり王城で働くのがお決まりみたいなもので、今のうちにそのコネを作るのがこのお茶会だったりする。
 オレは王都にどうしても居たいってわけじゃないし、将来はウチの領官になるのもいいなって思ってたり。
 だからお茶会自体も目立つことをしないように気をつけていた。
 六歳にしては達観してて、マナーも一応それなりにできてたからお茶会の参加も親が送り出したんだけど、このお茶会に出なければロウに目をつけられることもなく穏やかに過ごせてたかと思うと悔しくてしかたがない。

 王城の庭園はどこまでも続くような花畑がきれいに区画され植えられていて、あちらこちらからとてもいいにおいが漂ってくる。
 色とりどりの花がどんな種類かなんて六歳の、ましてや男のオレが判るわけもなく、でもきれいだなぁってお菓子をつまんで眺めていた。
 あちこちにセッティングされたテーブルからとりあえず端っこにあるものを選んだ。
 むこーーーに見えるテーブルには公爵、侯爵、たぶんそこらへんの人たちが座ってる。後ろに控える人の数をみれば爵位が判る。だから近づかない。
 下手に近づくと自慢大会に巻き込まれて「すごいです」「そうなんですね」の二言で永遠会話が続く苦行が待っている。オレたち下級貴族には苦痛でしかない会話は日常会話らしい。
 つまんない。
 そっとティーカップを摘んで一口口に含めば甘い花の香りが口内に広がる。おいしい。なんのお茶だろう。太陽の光に当てられ桃色の淡い色をした紅茶が揺れて光る。
 きれい。
 なんだかおかしくて、ふふ、と笑っていると声をかけられた。


「…お前はどうしてここにいる?」

「え?」


 顔を上げれば、あっとビックリ。とんでもなくきれいな顔をした男の子がいた。
 髪も、瞳もきらきらときれい。金色で、母親がお気に入りの本の挿絵に描かれていた天使みたい。
 で、なんだっけ。どうしてここにいるかと聞かれたんだよね。


「招待状を、もらったから?」


 もしかしたら平民だと思われているのかもしれない。
 この国の貴族は色素が薄くて瞳が青だったり 緑だったりする。髪の毛だって大体はブラウンだし。
 王族は血が濃いほど金色の髪と瞳をもって生まれるって習った。
 オレの髪色は黒に近い。光に透かせば濃い紫色だって判るんだけど。瞳も同じ紫。こっちは色が薄いからふつうに紫色。
 色合い的には暗めだし、みんなの輪から外れているから平民が紛れこんだのかと思ったのかな。


「………」


 目の前の、ナナメ上にいる男の子は眉間に一杯の皺を寄せオレをみた。
 信じられないものをみたような目だ。


「あ、ボク、平民じゃないですよ?」


 一生懸命、ここにいることは不当なことではないとアピールをした。
 オレ付きのメイドさんは城で文官として働く父親の忘れ物を渡しに一時的にいないから、ここでオレの身分を証明できるのはオレしかいない。
 追い出されたら目立っちゃう。


「そういう意味ではない。あそこに行かなくてもいいのかと、そう聞いたのだ」

「あっち?」


 あそこ、と指差されたのは先ほどよりも塊度が増した令息、令嬢たちの輪。
 あそこに、行けと。


「やだ」


 ふるふると首を振る。
 こいつ、天使みたいな見た目してるけど、きっと悪魔だ。
 他よりちょっとだけ、ほんのちょっとだけ発育が悪いオレがあそこに入ったら潰されてしまう。突き飛ばされて踏みつけられてそれすらも気付かれずけちょんけちょんにされてしまう。
 きっとあそこでは将来公爵子息、令嬢の友だちを決める熾烈な戦いが行われているんだろう。


「ふぅん?」


 金色の悪魔は少し考えた風でオレを見ていたが、次の瞬間、ニィィっと嫌な笑みを浮かべた。
 あ、絶対こいつ悪魔だ。
 こんなに邪悪に笑う子供をオレはみたことがない。その後、公爵家という地位を振りかざした悪魔にオレは抗うことも出来ず、下僕になった。





 公爵家から公式にオレをロウの付き人にする要請がきたらしいが、オレは嫌だと首を振った。本当はそんなこと許されないのだが、あの悪魔を産み落とした公爵様と夫人は煌びやかだがまっとうな人間だった。強制はされず、とりあえず友だちからという運びになった。というか、お前、公爵家の令息だったのか。
 表向きは、友だち。
 実際は、年齢の割には早起きであるオレが起きた瞬間にハントリアークス家の使用人がベッドの脇に構えていて、ロウのお呼びであると半泣きのオレの支度を済ませ公爵家に招待と言う名の拉致をしてくる。
 豪奢な馬車で揺られ、ハントリアークス公爵家に連れて行かれ、そのままロウの部屋に押し込まれる。
 その間、半刻という早業である。
 外では小鳥がチチチと朝露をくちばしでつつき、柔らかな日差しが部屋を明るくする。
 この部屋の悪魔は天蓋つきのとんでもなく大きなベッドで就寝中である。
 もう一度言おう。オレを呼びつけた鬼畜悪魔はのんびりと夢の中である。
 こいつは寝汚く、みんなが起きて朝食を食べてまったり寛いでいるくらいに漸く起きる。
 起きると言っても、身体を起こしてしばらくぼーっとしている。覚醒はしていない。
 ぼーっとしているからと言って、なにかアクションを起こしてはいけない。起こそうなんて一番してはいけない。
 一度、人を呼びつけて寝てるなんてふざけるな! とロウの身体を揺さぶり起こしたら目を開いたロウにとんでもなく冷たい視線で刺され、頭をいつものように掴まれ圧迫されて、「なにしてるんだ、クソチビ」と詰られた。
 それから掴まれた頭ごと腕力でベッドに投げられ、「動いたらただじゃおかない」と宣告され、ベッドから降りることも部屋から逃げることも出来ずロウの抱き枕としてとても居心地の悪い目に遭った。二度とあの過ちは犯したくない。
 結局ロウが起きるまでオレはベッドの隣に置かれた椅子に座り、見るだけなら天使なロウの寝顔を見ることになった。
 それでも数回目でハントリアークスの使用人が気を利かせてベッドサイドにオレでも読める本を用意してくれたので暇は潰せるようになった。
 金色の悪魔は覚醒した後にオレが夢中で本を読んでいると頭を掴んでくる。あれ本当に心臓に悪いからやめてほしい。
 数十回に一度、首を掴まれる。力は込められないけど、あれは人生終わったかと錯覚させられるから一番嫌い。首を掴むときは、ロウの顔が近いし、眼力がなんかもうすさまじい。どうしてそういう状況になるのか判らないから対処のしようもない。
 友だちってなんだろうな。



 性格が悪いから友だちが居ないんだろうな。周りの貴族様はあの傍若無人っぷりについていけないんだろう。すぐ暴力振るうし。
 いつもは半泣きのオレだけど、ロウが十歳になった誕生日のパーティーに呼ばれた時は行きたくないとダダをこね、泣いて嫌がって挙句の果てにそれで熱を出してその日はベッドで過ごした。
 だってロウの周りって位が高い貴族ばかりだし王家の人だし、そうじゃなくてもすごい偉い人だし。八歳のオレでは息が詰まる。
 友だちの誕生日だったら喜んで行くけど、ロウはそうじゃない。説明に困るけど、支配する側とされる側。誕生日はおめでたいと思うけど、素直におめでとうなんてきっと言えない。言ったとしても絶対に頭を掴まれてぎりぎりとされるに決まってる。
 その誕生パーティーがいつもより特別だって聞いてたから余計かもしれない。ロウの家に行ってささやかなプレゼントくらいでオレたちの関係は丁度いいと思っている。
 なのに、ロウは誕生パーティーに出ろの一点張り。やだって。
 そういう場ではオレが邪魔らしく、ロウを狙う幼くたって令嬢たちに苛められる。そしてロウにも苛められる。行きたくない。
 行かなかったことで詰られるだろうけど、それはいつものことだから変わりない日々だ。行ったとしても、いつもオレを苛めるロウに上手くプレゼントを渡せるとも限らない。
 母親に習って、ハンカチに金色の糸で刺繍をしたけれど、女の子がすることだったから照れくさいのとこれを渡してヘタクソと笑われるのもなんだか癪で。熱でくらくらする頭で勉強用の机の引き出しからプレゼント用に包装したそれを取り出し、枕元に置いた。
 渡せるといいな。
 一ヶ月前から習って、何度も指に針を刺して、恥ずかしさにさらされながら頑張ったのだ。
 なにか言われると嫌だな。


 熱にやられ、うとうととしていると不意に枕が沈んだ。


「?」


 ギシっとベッドが揺れ、ゆっくりと目を開ければ目の前には金色の悪魔がいた。


「―――っ!!」


 ギシリと心臓が軋んだ。
 ビックリより、怖くて、悲鳴なんて上げる余裕すらなかった。
 熱があるはずなのに、急激に手は冷えて冷や汗が大量に流れた。


「丁度いい」


 この間、声変わりを終えた低い声音が耳に響いた。
 オレを上から押さえつける格好でロウがベッドに乗っかっていた。
 外は薄暗く、今が夜であること。ロウが正装をしていることから誕生パーティーが終わったあとオレの家にきたことが判った。
 判ったところで、この状況は理解できない。
 ピチャンと水が滴る音がして、冷たいものが顔に触れた。
 親か使用人の誰かが用意してくれた水の張った桶から手拭をとりだしたのだろう。
 ロウが怖い顔をしてる。表情をごっそり失ったみたいな顔でオレをみている。
 部屋は暗いし、ロウは更に怖いし熱もあってオレはポロポロと涙をこぼしてしまった。
 それを見てロウは少し考えるように小首を傾げたが、懐からなにかを取り出した。


「?」


 なんだろうとぼんやりみていたら、月明かりに照らされてそれが鋭利な光を発した。


「!」

「じっとしていろ」


 とうとう悪魔に命を狩られるんだ。
 オレが誕生パーティーに行かないだけで息の根を止めにきたのか。
 恐怖でガタガタ震えてひたすらに泣き続けるオレの身体を馬乗りになって押さえつけ鋭く光るそれをオレの目の前に突きつけた。
 思わず目を閉じた瞬間、ブツリと耳元で音がして、そして次に耳に痛みを感じた。目を開ければ手拭をオレの耳に当てているロウがいた。
 それを視線だけで追えば手拭は赤に染まっている。
 ヒッと思わず声が出たがロウは構わずもう片方の耳も持っていた針のようなものを突き刺してきた。

 い、いたいっ!!

 耳が焼け付くみたいな熱を放つ。
 怖くて、ロウから助けてほしくて初めて悲鳴を上げた。ボロボロに泣いて、オレの悲鳴をききつけてやってきた両親にすがり付いた。
 血に塗れたオレの耳をみて両親はビックリしていたが、ロウは黙ってオレをみていた。なにを考えているのか判らなくてそれが一番怖かった。
 それから意識を失い三日三晩高熱でうなされ、四日後、なんとか起きることができたその日、耳に違和感を感じた。


「…ぴあす?」


 鏡でみれば金色の石が嵌められた小さなピアスがオレの両耳につけられていた。
 あの時…。
 きっとロウにつけられたんだ。
 あの日の出来事にぞっとしてピアスを取ろうとしたら、それに気づいた母親に窘められた。
 傷が塞がりきっていないから今とってはいけないと。
 それが悔しくて、オレはそれ以来ロウの家に行っていない。
 ハントリアークスの人たちもロウが無理やりオレにピアスをつけて血まみれにしてそのショックで寝込んだことを知っているので無理強いはしてこなかった。










 それから少しして、ロウがハントリアークス公爵家の領地で数年勉強した後に隣国に留学する噂を聞いた。
 少なくても10年は王都に帰れないらしい。
 仲の良い男爵子息のサヴァルに聞いて、心が跳ね上がった。
 10年ならその時オレは領地に帰って跡継ぎである兄の下で仕事をしているはず。
 今までの恨みつらみを晴らすなら今しかないんじゃないか、と。耳元で金色じゃない悪魔がささやく。
 それなら復讐を練って実行するしかない。


「ねぇ、なにかいいイタズラない?」


 ついでにサヴァルに聞いてみた。
 ロウが唖然とするようなイタズラがいい。
 10年は会わないから逃げ切れるものだったらなおいい。
 そう伝えたら、うーんと唸ったあとに「一か八かのやつがある。驚かせることはできるかもしれないけど…」と渋られた。
 それを聞いてオレ自身も驚きとためらいを感じたが、それをロウにやって命があるかどうか判らない。だからこそ、一か八かなのだろう。仕掛けたら速攻に逃げろと言われて覚悟を決めた。

 ちなみに詳しくどんなものかと尋ねたら、手を引かれとんでもない現場を見せられた。






 それから幾度かハントリアークス家のお迎えがあったが頑なに行くことを拒んだ。ロウの出立の準備が整いもうわずかしか時間がないのだと懇願されても首を縦に振らなかった。
 そして、とうとう明日王都を出るのだと泣きつかれ、仕方ないとひとつため息をつきハントリアークス家の用意した馬車に乗った。
 いつも馬車を御する使用人は三人はいるのだけど、今日は一人。明日の準備で人手が足りないのだと頭を下げられ告げられた。それでも馬車の中にはオレが逃げないように二人の従者が居たし、公爵家に着いた時にいつも出迎えてくれる老齢の執事さんが居た。
 それでも荷物の最終チェックをその執事さんが請け負っているらしく、少しだけ席を外す胸を伝えられた。ロウが起きるのを待っている間、この執事さんも扉のまで待機するのが常だ。
 さすが公爵家。
 ウチなんて一応ハンドベルを枕元に置いているけど鳴らしても来ることなんて稀だし、自分で呼びに行った方が早いから滅多に使わない。きっと他の家は違うんだろうけどオレも両親もそんな感じだからかもしれない。


 見慣れたロウの部屋を軽く見渡したが変わりはない。
 本宅になるあちらにもきちんと自身の部屋があるからこちらからはもって行く必要がないのだろう。
 入って奥にとんでもなくデカイ天蓋つきベッドがこんもりしている。右側に広いこの部屋はソファだとか机だとか色々と置いてある。全部この部屋で出来るようにしているらしい。確かにこの広い屋敷でなにか用事がある度に部屋を出てたらどれだけ時間があっても足りないだろう。それにロウは睡眠に関してはうるさい。なにかをして休憩をとったり昼寝が出来る状況が望ましいのだろう。
 そそっとベッドに近寄り、上にかけられていた寝具を静かに剥ぎ取る。
 うぅ…寝てても美形。
 絶世の美しさを誇るこの顔に恐れをなすことは多々あるけれど、見惚れることはない。性格がよかったらもしかしたらそんなことがあったかもしれないが、中身があれでは度台ムリな話である。
 本当は近づくことすらしたくないが、仕方がない。
 サヴァルにはくれぐれも行動を起こす前に目を覚まさせるなと念を押された。これからしようとしていることを思えばそれは当たり前だ。
 ロウはオレが騒いで身体を揺さぶってしばらくたって漸く半分夢からさめる感じだ。つまり、ベッドに乗ってその身体に馬乗りになってもゆっくりだったら起きない。ココ最近の準備で疲れているのか、顔色もいつもより白い。大丈夫だろう。起きない。起きない。

 軽くシーツを擦る音がするが、オレが身体を乗せてもこのベッドは軋むことなくふかぁっとやわらかく沈むだけ。
 上掛けを剥いだロウの腰あたりに乗り上げ、一つ深呼吸をする。
 この態勢はずかしいな。あ、カーテン閉めておくべきだった。
 でもこれ以上無駄なことしていると最悪こいつが起きる場合がある。覚悟を決めて、オレは乗り上げた身体を少し浮かせ、トンと落した。
 それを何度か繰り返す。
 ロウの身体が極上のベッドの上で揺れる。


「ね、ロウ…起きてよ」


 あの日聞いた女の人みたいに甘く声をだす。
 ちょっとだけ鳥肌が立ったが我慢だ。
 ゆさゆさと、数度身体を上下させる。オレのお尻とロウの腰が当たってなんだかへんな気分になる。くすぐったいっていうか、あれをみちゃったから顔に熱が集まる。
 あの日、擬似セックスを仕掛けてみてはどうかというサヴァルに具体的にはどんなものか聞いたところ、見たほうが早いと腕を引かれよくヒミツの逢瀬に使われるという街外れの公園の奥の奥に緑覆い茂る場所に設置された四阿に連れて行かれた。絶対に音を立てるなとヒソヒソ声で言われ、「あれだ」と指をさされた先をみれば二人のうら若い男女がその場所で愛を営んでいた。
 男の上に乗った女が腰を振っている。八歳とはいえ、一応貴族としての嗜みとして教育は受けているからどんな行為かは理解している。でも、刺激が強すぎた。
 あたふたするオレにサヴァルはあれと同じことを寝ているロウランドに仕掛けて反撃される前に逃げてしまえと言われた。
 あれを、オレがロウにする。
 オレ、男なんだけど。
 サヴァルがだからいいんじゃないかと強く肯定した。男同士で結婚は出来るが、その気がない男が男にされたんじゃ醜聞だし、寝込みを襲われたなんてあのロウが認めるわけがない。上手く逃げさえすれば確実なダメージが与えられると。

 だからオレはそれを決行した。

 あの時の人みたいに変な声をだして、全身でロウの身体を揺さぶる。
 その振動が続いてさすがに不審に思ったのかロウが目を覚ます。半覚醒といったところか、うつろな目がオレを捕らえる。
 金色の短い髪がサラリと白磁の額を流れた。
 

「……?」

「ロウ…ロウ…」

 はぁ、といつもは呼ばない名前を呼ぶ。
 名前で呼べと言われロウランド様と口にだした瞬間「違う、ロウだ」と訂正された。そしてロウ様と再度呼べば更に苦々しい表情を浮かべ「様を外せ」と強要された。さすがに様をつけないで呼べば不敬だと周りに糾弾されてしまう。でもそう呼ばないとロウはとんでもなく不機嫌になってしまう。だからいっそのこと名前を呼ばなければいいんだと理解した。


「……」


 ロウの目がゆらりと揺れた。
 普段より大分早い覚醒だ。
 そりゃあ目が覚めた途端男に上に乗っかられてたらビックリして目もいっぺんに覚めるよな。
 それが目的だし構わない。


「…あ、きもち、いい……」


 ゆさゆさと身体を揺すり、擬似セックスに耽る。
 だんだんと気持ちよくなるのは気分が高揚しているからだろうか。
 熱がある時みたいに顔が熱くなって視界がちょっぴり歪む。
 とんとんとリズムよくオレとロウの身体がぶつかり、本当にセックスしているみたいに感じる。


「…ロウ…」


 自分でも変な声が出たなと思っていたら、完全に覚醒したロウに腕を掴まれベッドへと投げつけられた。
 その一瞬の行動に思わずビックリして目を見開いたらさっきまでの形勢が逆転していてオレの上にロウがいた。


「……!」


 まずい!
 これは即効報復されるやつだ!
 今まで熱を持ったように暑かった身体は一気にさめてどう逃げようか視線を彷徨わせたら見たことのない変な顔をしているロウと目が合った。

 あ、死んだ――…。

 そう覚悟した瞬間に、扉をコンコン叩く音がした。


「ロウランド様、荷造りの準備が整いました。一度、ご確認ください」


 執事さんだ!
 突然の僥倖に覚醒しているとはいえ寝起きのロウから逃げるなら今しかないとフットワークの軽さでベッドから飛び降りて扉に注意がいっていたロウ一瞬の隙を狙って逃げた。
 バタバタと駆け、その音で扉から退いてくれたのだろう執事さんがビックリした顔でこちらを見ていた。
 オレは逃げるんだ!

 マナーが悪いと後ろ指さされちゃうかもしれないけど、今日ばかりは許してほしい。
 赤い絨毯の敷かれた大階段を駆け抜け、あっけにとられるハントリアークス家の使用人を横目に開かれたままだった玄関ホールの扉を越えた。あちこち金色と白と赤ばかりの豪邸でそこまでたどり着くまでに軽く息がきれた。そういえば、ロウの部屋は紫だよな。軽く金色とほぼ紫ばかり。
 軽くお邪魔しましたと告げたけれど、オレの爆走っぷりに驚いていた人たちは聞こえてないんだろうな。
 それから全力疾走で門扉を越え、事前に一旦隠れる場所として調べていた所まで走り続けた。
 公爵家の邸宅前には区画された花壇と緑が多い茂っている場所がいくつかあり身を隠しながら家に帰るにはもってこいだ。
 ここに来た時と同じように馬車で帰っては逆に時間がかかるし、途中で追っ手に捕まって逃げおおせるなんて出来るわけがない。ウチの馬車じゃないから。
 
 時間をかけて家まで歩けば景色は日も傾く時間帯になっていた。あちこち寄りまくったからそれくらいだろう。友だちの家にも行ったし、あらかじめ時間を潰すためにお小遣いを忍ばせてもいた。
 家に帰れば両親に公爵家からの使いが何度も来たこと、更には一度ロウがやってきたことを告げられ家に来るようにと言伝をもらったことを伝えられた。ここでのオレの行動は「逃げる」一択だった。
 ここさえ逃れることが出来たら10年は安泰だ。
 しかも、自分の将来を考えれば一生のおさらばでもある。
 回れ右をして更に時間を潰してその日はこっそりサヴァルの家に泊まった。
 

 次の日、家に帰ればロウが無事に王都を出立したことを両親に教えられて拳骨をそれぞれ一発ずつお見舞いされた。
 なにごともなく収まったのはロウの人柄のお陰なんだと説教をされたけど、ロウがオレを放っておいてくれればいいことなのに、とその時は理不尽に思った。









+++





 8年後、オレも立派に育った。身長はそこまで大きくならなかったけど、それなりに…それなりが大事である。ロウに頭を押さえられることがなくなったのにどうして身長が伸びなかったのか謎だ。
 兄は立派な領主代理として領地に赴いており、父は王城での仕事と領地の仕事も兼ねあって働いている。
 オレも日々いそがしい父と家庭教師にラトルシュ領についての役割、商会、特産物などを習いいつラトルシュ領の官僚となってもいいよう学んでいる。
 十八で成人とされるこの国でまだオレは子供の部類だけれど、他の貴族より早めに貴族としての必須学習を終わらせていている。それもこれもあと二年でロウが帰ってくるからだ。
 風の噂とやらではロウは領地での勉強を終え、今は隣国にて色々なことを学んでいるらしい。
 ロウと出会い2年。支配される側と恐怖で支配していた側なだけで特になにかあったわけじゃない。オレは開放され、8年。のびのびと暮らしていた。たまに、ほんとうにたまにだけど、なにかしてあげればよかったなって情に絆され考えちゃうけど、絶対に余計なことするなと頭を掴まれるのがオチだって終わってしまう。そういえば、一度だけ誕生日にハンカチに刺繍をしたけど、あれどこいったっけ? 覚えてないや。

 オレが十六の誕生日を迎えた後に、領地にいる兄から手紙が届いたのがはじまりだった。
 数年前に結婚したお嫁さんとの間に子供ができたらしい。
 できるだけ様子を見て支えてあげたいからオレに領主の補佐をしてくれないかと打診がされた。
 両親はそりゃもう喜んで、オレがすぐに領地へ行けるように準備をはじめた。自分達は王都での仕事があるから中々行けないからオレにくれぐれも二人の手助けをしてくれと頼み込んできた。
 オレも二人の子供が楽しみだし、予定より早く王都を離れることが出来るのがうれしうくてあれやこれやと鞄に荷物を詰め込んだ。

 領地には避暑として夏場に帰っていたけどこれからは本格的に住む場所になる。
 小さいながら入用なものは町で手に入るからそこまで大荷物にする必要はないと母親にいくつか荷物を抜かれた。
 王都からラトルシュ領までは馬車で1週間。馬だったら上手く行けば4日で着く。この日のために乗馬を習い、途中でなにかあった時のために護身術と野営の仕方を徹底的に学んでいるのでなにがあってもきっと大丈夫。馬だって長旅用に訓練された子だし、オレの体重がそこまで重くないので、荷物を乗せてたって俊敏に走れる。オレは軽いわけじゃない。体重が重くないだけ。
 母親に減らされた荷物を二つベッドの脇に置いて布団にはいる。
 とうとう明日、王都をでる。
 王都にくらべればとんでもない田舎だけど、貴族としては粗野であるオレにしてみればぴったりな暮らしになるだろう。
 その日は中々眠れなくて随分と夜更かしをしてしまったが、寝過ごしても母親が起こしてくれるから問題はないだろう。
 幸福に満ちた気分で瞼を閉じた。









「うぁ、あああっ、くぅ…やめっ…やだっ……」


 オレは今、後ろから覆いかぶさったロウに襲われている。
 目が覚めた時にはありえない場所にロウのナニがはいっていて開いた口が塞がらなかった。
 状況が理解出来なくて身体の衝撃から逃げようと視線をグルリと回せばここが昔みたロウの部屋であることが判った。
 そして、目の前の美丈夫はロウが大きくなった姿だと悟った。

 なんでっ!

 どうして?!

 パニック状態で身体を後ろに引けば、許さないとばかりにロウに腰を引かれ繋がりあった部分が更に深くなる。
 ぐちゅんと音がしてそこからなにかが垂れる。男のそこは女とは違ってそうやすやすとほぐれないことは一応の知識としては知っているが、ロウはそこに自身を埋め込んで遠慮のない抽挿を繰り返す。痛みなど一切なくて、下半身が重くなる妙な快感を与える。
 高く持ち上げられた足のせいでオレの下半身が視界に入ってしまう。あそこから垂れてるのってもしかしてロウの放ったものか?
 腹もなんだか張っているような気がする。
 理解した途端、短い悲鳴を上げてオレはロウの肩を強く押した。これはセックスだ。
 どうして自室で寝ていたはずのオレがロウの部屋に居て、目の前に成長したロウがいて、セックスしているのだろうか。しかもオレが起きる前に中で何回か出されてる。
 オレの抵抗を鼻で笑ったロウが繋がったままオレの身体を半回転させてベッドの押し付ける。上からのしかかるように剛直を落としそれを繰り返す。息も詰まる律動にオレは暴れる抵抗も封じられおかしなくらい痙攣する身体に翻弄された。身体が痙攣して足が自然に曲がり、意思とは違ってロウの身体を足で締め付ける構えになる。
 ロウが小さく呻き、中に埋められた剛直が振るえ更に先に圧迫を感じた。中に出されたんだ。


「いやっ…やだ…! ロウ、やめてっ…やだ…!!」


 快感に震える身体と、全部がロウのものになったような気がして怖くて懇願したけど、ロウはなにも言わず更に腰を動かしはじめた。


「!!」


 出したのに萎えることもなく、ロウのものが中を擦る。
 オレのはいつの間にか出すものがなくなったのかぴくぴくと震えるだけだ。
 腰を高く持ち上げられ叩きつけるようにオレの尻とロウの腰がぶつかる。
 耳を塞ぎたくなるような水音と肌のぶつかる音が部屋に響く。
 ロウのが奥の一点を擦ると突き抜けるような快感が走るし、中で出されたものが抽挿でさらに奥に入ったり外に掻きだされる度に感じてしまう。
 オレの身体がどうなっているのかわからない。
 涙腺が決壊したみたいにポロポロ泣くオレの顔を後ろから覆いかぶさってみていたロウはまたオレをひっくり返して、目じりに唇を寄せてきた。ビクリとオレが怖がれば唇が離れ、オレの口を奪うみたいに噛み付いてきた。びびって舌を引っ込めたオレのを吸い付きロウの舌と絡めて唾液を飲まされた。
 上からも下からもロウので一杯になってもうムリだと意識を飛ばす瞬間、目を細めたロウが口を開いた。








「…逃げられると思ったか、マヌケめ」








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 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

友人の代わりに舞踏会に行っただけなのに

卯藤ローレン
BL
ねずみは白馬に、かぼちゃは馬車に変身するお話のパロディ。 王城で行われる舞踏会に招待された隣家の友人のエラは、それを即断った。困った魔法使いと、なにがなんでも行きたくない友人に言いくるめられたエミリオは、水色のドレスを着て舞踏会に参加する。壁の花になっていた彼に声をかけてきたのは、まさかの第二王子で——。 独自設定がわんさかあります。

色狂い×真面目×××

135
BL
色狂いと名高いイケメン×王太子と婚約を解消した真面目青年 ニコニコニコニコニコとしているお話です。むずかしいことは考えずどうぞ。

失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた

胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。 失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……? 「俺たち付き合ってたないだろ」 「……本気で言ってるのか?」 不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け ※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします

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