花の聖女として異世界に召喚されたオレ

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辿り着かない待ち合わせ場所

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 オレ、花屋敷コガネ。大学一年生の十八歳。友だちからは喋らなければ彼女だってみつかるのに残念だよなって言われ続けている。身長を伸ばすために毎日牛乳を飲んでいるのに158センチからまったく変動しない。
 バカだバカだってからかわれているけど、勉強はそこまで出来ないわけじゃない。だって赤点取るとねーちゃんが怖いから。両親は海外を拠点にしてフラワーアーティストとして活躍している。だから姉が奔放な親の代わりに俺の面倒をみてくれているんだけど、怖い。ちなみにばーちゃんも怖い。じーちゃんは優しくていつも頭を撫でてからお菓子をくれる。
 大学も数ヶ月過ごせば新しい友だちも出来た。そいつらと夏休みに海に行く計画を立ててオレはそれが待ち遠しくてたまらなかった。前日からソワソワと旅行にもって行く荷物を出したりいれたりを繰り返し、オレの荷物が不安だから検査させろと友だちがやってきて、大幅に荷物を減らされた。それは重すぎて途中でへばるからやめとけと制された。なんでだ。
 遊びに使うものだったり、そういうのは友だちたちが既に用意しているからいらないって。パンパンになっていた鞄が衣類とスマホの充電器とお菓子だけになった。鞄が軽すぎて逆に不安になったけど、足りないものは他が補ってるからいいんだって。
 荷物が軽くなったら動きやすくなるしまぁいいかって、オレは帰って行く友だちを見送ってまたソワソワと明日履いていくスニーカーを吟味していたらねーちゃんに捕まった。
 マフィンが食べたいんだって。焼きたてのやつがいいんだって。
 でもねーちゃんはまだ仕事があるからその間に作っておいてねってオレに告げて離れの工房に入っていった。
 作らなくても怒られはしないし、作りたてじゃなくても何か言われることはないけど、ねーちゃんはオレの手作りがお気に入りらしくていつもそう要求してくる。オレが選んだお菓子だって言えば手作りじゃなくても喜んでくれる。
 明日から数日家を開けるから作っておこうかな。
 冷蔵庫からバターを取り出し、手早く材料を計量していく。
 慣れたもんだ。
 余分に作って、明日駅で電車を待っている間に友だちにあげてもいいな。
 ねーちゃんが仕事を終わらす間にマフィンは焼き上がり、少し冷ましていくつかを手渡す。クールなねーちゃんがうれしそうな顔で「ありがとう」って笑ってくれたからオレも作ってよかったなってほこほこした気持ちで眠りについた。

 朝、スマホのアラームの音で飛び起きて急いで支度をした。寝過ごしたわけじゃないんだけど、気持ちが海に向かってていても立ってもいられなかった。
 ばーちゃんが作ってくれた朝食を食べて、家を出る時間まで待ちきれなくて早いとは判っていながらも鞄を持って玄関を出た。じーちゃんに気をつけて行っておいでと頭を撫でられ色とりどりの飴を手渡された。それにお礼を言って手を振って門の扉を開けた。
 一歩踏み出した途端、どこからか旋毛風のような突風に全身を覆われた。思わず目を閉じて、開けたら例のきらきらした人たちのよく判らない苛めの現場に立ち会ってしまったというわけだ。

 オレはどこもかしこもキラキラしている廊下をお姫様抱っこで拘束され大きい人たちに囲まれ進んでいる。
 ちゃんと歩くから放してくれないかな。
 腕を突っ張って歩くとアピールしても鎧の人はニコニコして「駄目です」と却下してきた。


「貴方は先ほど逃亡しようとしました。貴方に逃げられてしまっては私は処刑されてしまう。お判りですよね?」

「…オレは友だちと旅行に行く予定で、急いでんだけど」


 ここに来てどれだけの時間が経ったのか判らないがそろそろ待ち合わせの時間になってそうだ。


「ご友人と…それは申し訳ありません。ですが、貴方を帰すわけにはいかないのです」


 帰す?
 いやいや、オレは行きたいんだって。まだオレの旅行ははじまってもない。家の門を出たところで止まっている。
 友だちが心配してそうだし、連絡をとっておこうとポケットからスマホを取り出すと電波が圏外が電話が出来ない。しかもネットに繋がらない。


「ねぇ、圏外なんだけど、ここどこ? 電波つながりそうなところある?」

「? それはどういった物なのですか? さすが異世界の聖女様だ。我々の理解も及ばないものをお持ちなのですね」


 ん?
 異世界?
 異世界の聖女だっつった?

 それはあれか。
 この間、友だちが貸してくれたゲームでも似たようなことを言っていた気がする。
 あれは魔王に支配された世界を救うために日本から召喚された女の子と、それを守る男の子のどちらかを選べるRPGだった。確かあれの女の子は聖女だって他のキャラが喋っていた。
 最初は冷遇されてる女の子だったんだけど、そう! 王様がとんでもなく嫌な奴だったんだよな。この国の瘴気を払うために休んでいる暇はない、さっさと出立せよとか言ってた。のっけからそんな態度でやる気なんてないだろ~と、王座の近くをしばらくウロウロしながら王様に再度話しかけると「なにをしておるグズめ、さっさと行かぬか」って言われちゃうの。それにカチーンときたオレはコントローラーぐりぐりして王様を殴れないか丸ボタン連打してたんだけど壁しな殴れなくてちくしょーって渋々旅にでた思い出がある。ゲームだけどね。
 今思い出したんだけど、この鎧の人が詳しいことは国王陛下からって言ってなかった?
 もしかして、このままその国王陛下の所まで連れて行かれるの?
 ゲームの中の国王は嫌なやつ。そしてここはなんだかそれに似ている世界。
 これはまずいのではないか?
 誰かも判らない男の腕の中にすっぽり納まってスマホを構っている場合じゃない。
 再び逃げるべく腕を突っぱねて全身でそこには行かない主張をするが鎧は「活きがいい聖女さまですね」なんて余裕で笑ってる。
 オレは聖女なんかじゃないし、何度も言うが友だちとの旅行に行きたいんだ。
 こいつの腕とオレの身体がジャストフィットで収まっているからか抵抗が抵抗として成立しない。
 後ろからついてくる偉そうな人と、ローブを着たいかにもRPG風の人たちは和やかにこちらをみているが、オレを逃してくれ。活路はないかとあたりを見回したらさっき居た扉とはまた違う金ぴかのデカイ両開きの扉が見えた。
 まずい、これはあれだ、王様がいる部屋だ。 
 

「おお! 参られたか!」


 のおぉぉぉ!!
 あの人王冠かぶってる!
 キラキラしてる! 王様って顔してる!


「既にそなたのなされた功績は言付かっております! さすが聖女様だのぉ」


 白に近い金髪はとってもふかふかとしている。髭も立派にふかふかしてる。王様がよく着てる赤いマントもファーがふかふかしている。この城はそこまで暑くはないけどオレは夏休み真っ盛りだったからジワリと汗が浮かぶ。すごく暑そう。


「やや。挨拶が遅れました。ワシはこのドルマンシュ王国28代目国王のディアルゴ・ドン・クーガンディルドと申す。して、聖女様、名をなんと申される?」

「えっと、日本の一般人で花屋敷コガネです。大学生で十八歳になりました」


 王様の前だからか、漸く鎧から降ろされたオレは突然の自己紹介に小首を傾げながら答える。後ろで一般人? って呟く声がした。一般人じゃ判らないか。なんて言うんだろう。
 鎧の人の腕の布部分を引っ張って「平民っていうの?」って聞けば「ああ、そういう意味でしたか」って納得された。あと、頭撫でられた。


「そうか、そうか。ハナヤシキコガネ様、此度は突然の召喚申し訳ない」

「花屋敷は姓で、名前がコガネです。召喚ってなんなんですか?」


 上隣で「コガネ」って小さく声が聞こえた。そういえば鎧の人の名前聞いてないな。あとで聞こう。
 よく見る玉座ってやつに座った王様が後ろから着いてきてた偉そうな人に目配せをした。
 偉そうな人は濃紺色のカッチリとした正装をしている。学ランをとんでもなく豪華にしたやつだ。ねーちゃんと一緒くらいなのかな。三十手前かそれくらい。茶色のゆるりとした髪を後ろに撫で付けててとても清潔そうだ。
 その人はグランディールさんって言うんだって。宰相をしているらしい。日本の総理大臣みたいなやつ? 多分、そういうのだと思うんだけど。そう考えたらすごく偉い人だ。もしかして年ももっと上かな。


「私から今回の召喚についてお伝えいたします」


 グランディールさんはオレの目の前にきて目線を合わせてきた。
 この世界の人は平均身長が上なんだろう。小柄でも170とか。オレを囲っている人たち190センチはありそうだもん。
 だからグランディールさんがオレの目線に合わせようとすると腰大丈夫? ってなるくらい屈まなきゃいけない。ちょっとでも楽な姿勢をとればいいのに思わず背伸びをしてしまった。そしたら隣にいた鎧がちょっと噴出した。それにムカァってしているとまたひょいって持ち上げられた。さっきから荷物みたいに…いや、荷物よりは扱いがいいけど軽々しく持ち上げやがって…。それでグランディールさんと目線があうのが悔しい。


「コガネ様にはこの国の不浄なる黒い霧をその聖なる力で払っていただきたいのです」

「黒い霧…」


 さっき見たピンクが出してたあのモヤのことかな?


「心当たりがあるのでしょうね。そうです、先ほどコガネ様がお払いになったものが我々が黒い霧と呼んでいるものです」


 穏やかに微笑んでいたグランディールさんの優しげな明るい茶色の瞳が物憂げに揺れる。くっきり二重でイケオジだなぁ。ここに来てからイケメンしか見てない気がする。


「この国は数十年か、または百数十年に一度聖なる泉と呼ばれる場所が瘴気に包まれ、その瘴気に充てられた人間が“魔のもの”として生まれ人々を黒い霧で覆いその者の意のままに従えてしまうという混乱が生じます。この国を守る聖なる泉が疲弊しきった結果、このような現象が稀に起こるのです」

「オレがその泉を聖女の力うんぬんでなんとかするの?」

「この国の民ですらないコガネ様にこんなお願いをするのは見当違いだと重々しょうちです。ですが、この国の平和。そして民への平穏を我々は願っております。どうが、ご助力願えませんでしょうか」


 すごい偉い人が頭を下げてくる。
 うぅ…やだな。平和とか、そういうのズルいって。


「ちなみに、オレはなにをしたらいいの? 危ないことはやだよ? あと、元の世界に戻れるの?」

「コガネ様には聖なる泉の瘴気の浄化、そして瘴気に充てられた人間の特定、そちらをお願いすることになります。そして、こちらのお願いが叶えば聖なる泉の加護が戻り異世界への道が再度開かれます」


 ああ、戻れるんだ。よかった。
 でも時間が掛かりそうなんだけど。オレ、旅行に行く予定で本当に時間がないんだよ。。


「勿論、この世界で過ごした時間はコガネ様の世界に反映されないようです」


 ニッコリとグランディールさんが微笑んだ。
 え? そうなの?
 そういうことなら…まぁ、いいかな。


「浄化とかよくわかんないけど、オレでいいなら…手伝うよ?」


 それでいいのかな?
 オレを抱き上げてる鎧の人に尋ねれば「はい!」ってすごくいい笑顔で頷かれた。
 花屋敷コガネ、十八歳、オトコノコ。異世界で聖女になるらしい。

 聖女ってのやめてくんないかな。


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