花の聖女として異世界に召喚されたオレ

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かわいいって言うな!

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 どんどん近づいてくるクロウの気配にどうにかしてくれーーー! と思った瞬間強い風が吹いた。
 ブワッと甘い花の香りがして、目を開けたら部屋の中を白い花が舞っていた。みたことのない花だ。アネモネに似ているけど、あれは違う。大量の花がふわりふわりと浮いていてぽかんとしたのは一瞬で、あれが部屋に散らばったら掃除が大変だな。あれを出したのはきっとオレだろうし、侍女さんたちの仕事を増やしてしまう。
 あたふたとそれを空中でキャッチしようとベッドで立ち上がろうとしたら、その花がふわふわとクロウの上に落ちてきた。


「え?」


 ポン、とクロウの頭の上で跳ねた花たちはスッと消えてしまった。
 ぽこぽこと花が落ちてきたクロウはなにかを悟ったのか「あー…」と声をだしたっきりなにか考え込んでいる。
 花消えたから掃除の心配がなくなったオレはなんだったんだろうあの花と、クロウの頭頂部を眺めていた。今日もピンクに近い短い髪がピョコピョコ跳ねててかわいい。顔は驚くほどのイケメンだけど、髪はかわいい。
 そういえば、昨日黒いモヤを手で払った時に出た花びらも消えたよね。あれも白色だった気がする。花の香りは違ったから種類は違うんだろうケド。
 花を出せるなんて不思議な話だ。それで感情がバレてしまうのがすごく恥ずかしくて嫌だけど。
 二人して黙っていれば、扉をコンコン叩かれた。
 クロウが居るから侍女さんたちはオレの生活用品を用意してくると言って部屋を出て行ったから戻ってきたのかな。
 オレが返事をすれば、侍女さんたちともう一人黒いローブを着た人がはいってきた。
 あ、オレこの人知ってる。
 昨日、ずっと後ろに居た人だ。黒のローブに赤いラインが入ったこの人と、黄色のラインがはいった人が居た。もう一人の人は居ないのかな。
 はいってきたその人にペコリとお辞儀をすれば侍女さんが「宮廷の魔導師さまでございます」と紹介してくれた。
 魔導師!
 それはあれか! 魔法使えちゃったりするのかな!
 目の前に現れたまさにRPG展開にさっきまでの花のことだとかクロウの豹変とかが頭からスポーンと抜けたオレはベッドを抜けて魔導師さんとやらの目の前に立った。
 あ、でけぇ。やっぱでけぇなぁ。
 ヒョロっとしてたからそんなに大きくないかと思ってたけど、対比である侍女さんたちがもうオレより大きいものな。女の人でも160センチ以上はあるから目線はいつでも上だ。
 オレが前に立てば魔導師さんは慌てて膝を折った。


「私は宮廷で魔導師として勤めております、ガルディと申します。コガネ様を召喚するために祈りを捧げたものでございます」


 大きいなぁって思ってたのバレたのかな。これはオレと目線を合わせるためにしゃがんでくれた説が高い。
 いい人だな。方法はちょっとショックだけど。
 オレがベッドから出てすぐにクロウはオレの後ろについてきた気配を感じた。こいつは年下のクセにしゃがむなんてことはせず、オレを持ち上げてくるからな。あまつさえ、そのまま運ぶから。そこにコガネはおこ状態です。


「今朝、朝食を召し上がられている途中で体調が悪くなったと伺いました。なにかありましたか?」


 あっこの人いい人だ!
 ご飯が合わなくてテンションが下がっていたなんて口が裂けても言えない。食事一回でこんなに心配されちゃってこの先大丈夫かな。


「具合が悪くなったんじゃなくて…えっと…」


 穏便にことが済む方法はなにかないか?
 心配そうに見上げてくるガルディさんの視線が健気で痛い。
 こんなに心配しているのにその理由が「ご飯が合わなくて、待っている間が長くて耐えられない」なんて思いもしてないだろうな。ああ、それは恥ずかしい。
 恥ずかしいって思った瞬間、またあの色の花びらが落ちてきた。
 だから、それやめろって!
 感情がバレてしまうなんて厄介な力を持ってしまった。
 それが落ちる瞬間に大きな手がその花びらを掴んで、手の中にしまった。そして、もう片方の手がオレの肩を抱くように置かれた。
 なんだ?


「コガネ様」


 クロウに呼ばれて振り返ろうとした瞬間、持ち上げられた。


「!」


「立ちっぱなしでは疲れるでしょう? ソファまで行きましょう」


 クロウがニコニコしている。
 ソファなんて目と鼻の先だから、そこまでだったらオレの足でも一瞬だ。なのに持ち上げられた。なんでだ。
 ゆっくりとソファに降ろされクロウがまた後ろに控える。
 ガルディさんは向かいのソファに座って、ローブの中から手のひらサイズの水晶を取り出した。水晶みたいだけど、真ん中が七色に光ってるから違う石なのだろう。


「コガネ様から漂う魔力は昨日と変わらず清浄なものですし、もしかしたら召喚の際になにかお身体に障ったのかもしれません。検査いたしましょう」

「検査…」


 ガルディさんの言葉でオレはこれはまずいやつだ、と悟った。
 体調が悪いわけじゃないから原因はきっと不明になる。不明ってことはその検査がずっと続くということだ。
 オレが白状するまで―…。
 グッと唇を噛んで、オレは覚悟を決めた。


「ご、ご飯がその…オレの世界のものと違って、馴染まなくて…あと、待っている間が長くて途中でお腹が膨れてちゃってね、で、でね…」


 理由が子供っぽいのは理解している。
 だからとっても恥ずかしいから言いたくなかった。
 嫌々伝えれば後ろから「なるほど、それでこの色」って納得した声がした。ピンク色の花びらが散ってるからオレが恥ずかしいのもクロウは判ったのだろう。


「食事事態の問題でしたか。ちなみにコガネ様の世界ではどのような食事をされていたのですか?」

「オレん家は両親が仕事で別に暮らしてたから、ばーちゃんとじーちゃんとねーちゃんが一緒にご飯食べてた。で、ばーちゃんかオレが料理を作ってたんだけど、料理は出来上がったものを全部テーブルに乗せて食べてた」

「コガネ様が料理をされるのですか?」

「そう、ばーちゃんに習ったから。お菓子も作れる」


 オレが料理をするのが意外だったのか、ガルディさんとその後ろに居る侍女さんたちが驚いていた。クロウは昨日お菓子あげたからオレが料理できるってこと知ってるだろうし。


「ご飯も台所…調理場がすぐ近くにあって出来上がったものをすぐ食べれるようにしてたから熱々だったし。あ、勿論、ここの人が丹精込めて作ってくれてるのは判ってるよ! …でも、オレには合わないんだ」


 高級レストランのディナーより、オレは全部一緒に盛られてるプレートの方が好き。洗い物も少なくなるし。
 もしかしたら、一皿ごとの感覚が長く感じたのは一人で食べるご飯だから余計長く感じたのかも。


「一人でご飯なんて滅多に食べないから…」


 さみしいのかもしれない。
 オレが最後まで言わなくても大体察知したのかガルディさんと侍女さんたちはハッとした顔をした。
 これは昨日の夜感じた孤独だ。
 友だちとの旅行だから家族とその間会えないのはあたりまえだったけど、ちょっと我慢して浄化とかしたらさっさと家に帰れるのに甘やかされて育った分、オレは一人というものに慣れていないみたい。
 あっちじゃあ、家族だったり友だちだったり絶対に傍に居た。勉強も一人じゃ捗らないから切花を生けているばーちゃんの隣だったり、将棋を打ってるじーちゃんに頭を撫でられながらだったり。ねーちゃんんなんてオレを一人で放っておくとなにするか判らないからって仕事の合間にオレの顔をみにきてたりした。
 ここの人たちはこの国っていうか世界をオレに浄化してもらいたいからお世話をしてくれてる人で、仕事中の人ばかりだ。そんな人にわがままなんて言えないし、子供みたいなダダをこねている自覚もあって恥ずかしいからただ一人で困るしかない。
 この世界での自分の立場がよく判らないんだ。
 ばーちゃんが華道の家元ですごく立場が偉い人ってのは判るけど、オレにとっては家族だから一緒にご飯食べてても楽しいけど、たまに招待されてご飯食べに行く時とかとりあえず偉い人が他にいて、で、失礼があっちゃいけないからご飯もあんまりおいしくなくてただ緊張するからお腹も膨れないしとんでもなく疲れる。
 昨日の歓待っぷりと、ご飯一回でここまで心配されちゃうってことはそういうことなんだと思う。オレとご飯一緒に食べてって言っても気を回しすぎて疲れちゃうと思う。


「やっぱり、なんでもない」


 ソファの上で体育座りをして顔を伏せる。
 いい年して恥ずかしい。
 一日くらい家族と離れたからってこんなにさみしくなるなんて。
 よくしてもらっているってのがちゃんと判っているはずなのに。
 ちょっとだけジワリと目頭が熱くなってきて、言わなきゃよかったって後悔した瞬間、ふわりと身体が浮いた。
 もう判る。これはクロウがオレを持ち上げたんだって。
 こいつには一度ちゃんと物を申さねばならない。人を荷物みたいに軽々しく持ち上げるなと。
 高い高いするみたいにクロウに持ち上げられて抗議をしようとしたがギュウッと抱きつかれた。


「コガネ様はかわいいですね~~」

「は?!」


 すりすり、ぎゅっぎゅっとクロウに全身おにぎりの刑をされて更にクルンクルンと回された。


「や、やめろ、バカッ! 降ろせ!!」


 ギャーギャー叫んでクロウの頭をぽかぽか殴って怒っているのだと伝えても無駄だった。助けを呼んでも仲良しですねぇとのほほんと笑ったガルディさんと侍女さんが見守りの態勢にはいっている。
 クロウの抱擁はねーちゃんのと被るけど、こっちは鎧着てるから抱きしめられてもちょっと痛い。
 鎧がイテーよ! って叫べばそうかって顔をしたクロウがようやくオレをソファに降ろしてくれたんだけど、隣の部屋に行ったと思ったクロウが再度戻ってきた時には鎧がなくなっていた。


「さぁ、今度は痛くないですよ」


 ニコニコ笑ったクロウが両手を差し伸べてきたけど、オレは威嚇してその手を払った。



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