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22.精霊の本気
しおりを挟む*22.精霊の本気
「貴方がこの国を亡ぼす魔の物の手下ね!! アタシ、知ってるんだから!!」
シシェルにいつものごとく着飾られ、否、いつもの倍近い情熱というか執念を感じられた。
貴族が着るキラキラの礼服に袖や襟はヒラヒラしたフリルがあしらわれていて、装飾の宝石はシシェルの瞳の色と同じだ。金色は王家の色だから、躊躇いはあったけど満足そうに頷くシシェルに文句なんて言える筈もなく大人しく着付けられた。
それが失敗だと気づいたのは、馬車が王城に着いてからだ。
僕、今、金色の宝石を付けてるんだけど、それで城に行って大丈夫なの?!
そりゃ、シシェルにはプロポーズをされたけど僕の格好はマナー的にどうなの?
シシェルが居たならすぐにでも尋ねられたのに、彼は一足先に馬車で出て行ってしまった。僕は騎士たちに連れられ城にやってきた。騎士たちはニコニコしているが、その笑顔が逆に怖くて僕は終始下を見つめていた。
建物の中を歩くこと二十分程だろうか。奥へ奥へと連れられ、前世の記憶が繋がり始める。
この先は、所見の間があり、陛下がおわす場所である。
ぐ、と息が詰まる。ああ、ダメだ。この先はダメだ。
逃げようと思ったけど、両脇を固められているので上手く動けない。
「貴方に逃げられてしまうと、私たちも無事では済まされない。お判りですよね?」
ニコニコとしている騎士の一人がそう告げる。
きっとその言葉はシシェル直伝なのだろう。一気に大人しくなる僕に騎士たちは更に笑みを深め、所見の間へと僕を案内する。
両開きの大きな扉の前に居た近衛兵が扉を開けてくれた。
騎士たちが足を進めるから僕も中に仕方なく入ったのだけど、目の前には僕と同じように四方を騎士に囲まれた魔術師団長が居て、親近感がわいてしまった。僕だけじゃないって安心だね。
ホッと一息ついた僕を見て、その場に居た騎士たちが可哀そうな生暖かい目線を呉れていたことに僕は気づかなかった。
玉座に陛下と王妃が居て、脇には立太子。早々たるメンバーにキョドった視線があちこち浮遊して、見知った人物を見つけた。
ルウォンとシシェル、そしてその間に救世主の少女だ。
あまりの恐怖に身体が戦慄く。知っているんだ、あの光景を前世の僕は見た。婚約者であったシシェルが僕を突き放し、彼女の手を取った。
ああ、一緒だ。あの時と一緒。
ザワリと僕の魔力が揺れる。
僕を心配してついてきた精霊も僕の“記憶”に連動して震えている。
あの少女がなにかを言っているけど、僕には聞こえない。
シシェルも何事か言っているようだけど、僕には必要がない。
また、だ。
信じてしまった僕が悪いのだけど、まさかここで大どんでん返しが始まるなんて思ってもいなかった。
嫌だ。
悲しい。
苦しい。
精霊は僕を傷つけないように、あちらの世界に僕を逃したのだと言う。その結果がこれだ。
裏切られた。
違う、これが元々あるべき形なのかもしれない。
僕が居るから、シシェルは彼女の手を取れないのかもしれない。
僕が、精霊に愛されているから。
でも、シシェルは僕を選んでくれた。
違う、これはいつだ?
前世? 今世?
もしかしたら、ここは前世かもしれない。
僕を選んでくれたシシェルじゃないのかもしれない。
ハッ、と呼吸が乱れる。
僕の無尽蔵な魔力が所見の間で暴走しているのは誰の目にも明らかだ。
僕の暴走を止めようと精霊たちが慌てふためいているけれど、もう、いいんじゃないかな。
二度目だ。
あちらの世界に帰ることができないのなら、もう、いいんじゃないかな。
そう思った瞬間、ドン! と僕の前面に強い衝撃が走った。
視界が塞がれ、最近嗅ぎなれたシシェルのにおいに力を抜いたら、次に鉄錆のにおいが鼻についた。
「え?」
ズルリとシシェルの身体が力なく落ちていく。
シシェルの身体は大きくて、彼の身体と一緒に僕も床に転がってしまう。僕が居る場所は、真っ赤に染まっている。
「アイツがシシェル様を殺そうとしているのよ! 早く、アイツを始末してよ!!」
少女がカン高い声を上げて叫んでいる。
僕がシシェルを?
ぐったりと横たわっているシシェルは裂傷からとめどなく血を流し、ピクリとも動かない。
「そいつを捕まえるんだ! 魔封じの道具ならここにある、ほら、これを使うんだ!!」
自身の腕から魔封じのブレスレットを取るように魔術師団長が叫ぶ。
これは、僕が?
シシェルが、死んじゃう…。
ヒッと喉がなり、どんどんと涙が零れてくる。僕が、シシェルを傷つけてしまったんだ。
「ダメ…シシェルさま、僕…僕…なんてことを…! ねぇ、起きて、ごめんなさいっシシェルさまっ、」
ボロボロと泣く僕に精霊たちがどんどんと光だす。
大丈夫だと言わんばかりに頭を撫でられる。
「僕は、どうなってもいいんだっ! お願いっ、シシェルさまを助けてっ………!!」
裏切られたと、前世の僕が叫ぶ。
でも、僕は今世を生きている春波 湯江だ。あんなに僕に愛情を注いでくれたシシェルを疑うなんて莫迦なことをしてしまった。
しかし、目の前が真っ赤に染まったあの感情は前世の僕にはないものだった。僕はシシェルに相当な執着をしてしまっている。
「シシェル、さま?」
あちこちに居た精霊が僕のために集まって、シシェルを囲みクルクルと楽しそうに笑う。
そして、僕に大丈夫だと頭を撫でてくる。
シシェルの服は破れたままだが、傷はあらかた塞がっていた。
パチリと彼の目が開いた。
「ユエ、無事だったか…?」
なんてことないように、シシェルが起き上がり僕はたまらず彼に抱き着いてしまった。
「魔物よ…! 早くそいつをシシェル様から離してよ!! 今度こそ、シシェル様が殺されてしまうわ!!」
その言葉に今自分がしたことを思い出してしまい、慌ててシシェルから離れようとしたが、シシェルに抱き着かれ立たされ離れることは敵わなかった。
「陛下、ユエの…“精霊の愛し子”の力をご覧になられましたでしょうか? 勿論、今のは私の不徳の致すところで魔力の暴走は今後なくなりましょう。この王都からノアトルの地、そしてヒディル森の浄化及び精霊の覚醒とその活躍は上げだしたら枚挙にいとまがありません」
「お前は少々、無鉄砲すぎる。嫌われるような行動は慎め」
「兄様が愛想をつかされても、私がお慰めして差し上げます。兄様嫌われろー!」
救世主の少女を拘束してそう野次を飛ばすルウォンはニコニコと機嫌よさそうに笑っている。
「は、離しなさいよ! 痛いってば! こんなことして、ただじゃ済まさないわよ!!」
「お転婆だなぁ。さすが平民育ち。カナトリアの農村の子だったけ? この間の視察で君のことを探している子を見つけたよ」
カナトリアの言葉で少女と魔術師団長が大仰に身体を揺らした。
「ドアモール卿の領地の子だったらしいじゃないか。君と将来を誓い合ったっていう男の子が…エッジ…だったかなぁ、その子が君を見て間違いがないって言っているんだよ。それに、君の母親もこの世界で見つかった。おかしいよね、だって君は異世界から来た筈なのに、ねぇ?」
「アタシは精霊を目覚めさせることができるのに、バカなこと言わないで!! アタシを怒らせたら、王族だろうと許さないわよ!!」
少女が八つ当たりのように怒鳴り散らすが、誰もが相手にしていない。
どうしたんだろう?
気付けば、魔術師団長は騎士に地面につけられ抵抗できないように拘束されている。
「シシェル、さま…」
「不安は全部拭い去ってやる。安心しろ。私はお前を裏切ることはない。お前は私の名を呼び、私に愛されていればいいのだから」
シシェルの金色の瞳が優しく僕を見つめている。
「前世の私は随分とお前に罪深いことをしていたようだ。しかし、私は違う。よって、ルウォン、お前は選ばれない!」
「兄様振られろーーーーーっ!!」
王子二人が好き勝手に言い合っているが、誰も口を挟まない。さっきの殺伐とした雰囲気は一掃されている。
「お前たち二人は邪悪すぎて、精霊も避けている。城のお前たちが居る所だけ、精霊が寄り付かん」
「それに、精霊たちが目覚め始めて穢れが浄化されてる関係もあって、君、もう先見の能力使えないでしょ?」
「なに言ってんのよ! アタシは選ばれたのよ!」
ルウォンに拘束されていてい少女が騎士に手渡され、厳重に縛られている。喚き散らすから、猿轡まで噛まされている。
「おかしいと思った。ユエに仇なすお前たちに精霊が能力を授けるわけがない。だったらその力は邪悪なものだ。穢れであり、国家の反逆者でもある」
静かになった広間に凛としたシシェルの声が響き渡る。
少女はまだなにかを喚いているが、叫べば叫ぶほど拘束がキツくなるのに気付いたのか、悔しそうに呻いて僕を睨みつけてきた。
「救世主の名を語った罪、国家反逆罪に等しい。此度の騒動については追って沙汰を下す。下がらせろ」
国王陛下の厳かな声に騎士の礼を取り、騎士たちが少女と魔術師団長を連れていく。
魔術師団長は終始黙ったままだった。視線もうつむきがちで、青白い顔からは生気が抜けているようだった。
「あれは邪悪な力で成り立っていた魔力が浄化されたことで、虚ろになっているだけだ」
もう余計な企てをする力も残っていないと、シシェルが言う。
「さぁ、こちらへおいで。ここでは肩が凝って仕方がない。ユエ殿をエスコートしておくれ。お茶にしようか」
陛下が玉座から立ち上がり、幕の向こうへと王妃と一緒に消えていった。
「行こうか、ユエ」
シシェルに腰を抱かれるようにエスコートをされたが、広間を出る前にルウォンに止められた。
「兄様。着替えくらいはした方がいいよ。ボロボロだもの」
「…そうか。しかし、陛下が待っておられる」
「僕がエスコートするから、大丈夫ですよ!」
「それが一番選びたくない選択肢だ」
眉間に皺を寄せたシシェルだったが、着替えを持ってきたという騎士に連れられ広間を渋々出て行った。
「兄様は置いておいて、行こうか! 父上たちが今か今かと待ってる筈!」
そっとルウォンに手を引かれ、広間を出て少し歩いたところで外へ出た。
広い庭を抜けると多種多様の見るも鮮やかな花たちに囲まれた四阿が見えた。そこに陛下と王妃の姿も見え、僕は思わず身構えてしまった。
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