木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第542話 俺はただ……

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「あっ、あああっ……」


 (俺の、俺の魔法陣が……俺の、最高の計画が!)

 インベック伯爵家の図書館で古の魔法陣の存在を知ったノルベルトは、『これは元々インベック家のものだから俺が利用しても良いよな!』と思い、傀儡達を使って父親に内緒で屋敷の地下深くに古の魔法陣の模造品にもならない歪で不完全な魔法陣を作り上げた。

 それが予備の魔法陣だった。

 そして、サザランス公爵家に火を放った後、改竄魔法の核として古の魔法陣を使い、国土を守るように敷かれた結界魔法用の魔法陣に遠隔で魔力を流し、国全土に改竄魔法をかけた。

 その後、古の魔法陣は王城の地下深くにある王族しか入ることが許されない部屋にある神聖な魔法陣と繋がれたことで、結界魔法用の魔法陣の中継地点として使われた。

 その間、予備の魔法陣は来るべきに備えてインベック伯爵領の屋敷の地下深くに敷かれていた。

 長い間眠っていた魔法陣がフリージアの無効化魔法で消え去ったことと、魔力を通してノルベルトは、膝から崩れ落ちると酷く項垂れる。

 そんな彼を一瞥したレクシャは、喜びに浸っているリュシアンに声をかける。


「リュシアン」
「何でしょう、父さん」
「私は今からサザランス公爵家当主としての役目を果たす」
「っ!」
「だから、フリージア達……そして殿下を連れて、アリーナの出入口まで戻ってくれないだろうか?」


 その言葉に、喜びに浸っていたフリージアとロスペルが真っ先に反応する。



「お父様、私はまだやれます!」
「そうです。ノルベルトを押さえるくらい、今の僕なら……」
「フリージアにロスペル」
「っ!」


 咎められるように名前を呼ばれ、思わず息を呑んだフリージアとロスペルに、レクシャが優しく微笑みかける。


「お前達は、信頼出来る仲間達と共に十分やってくれた。だから、ここは父さんに……いや、父さんや母さん達に任せて欲しい」
「「っ!」」


 (ずるいわ、お父様。そんな風にお願いされたら、私もロスペル兄様も『うん』って言うしかないじゃない)

 穏やか口調で懇願され、フリージアとロスペルが揃って顔を歪めて口を噤む。

 それを見て、笑みを深めたレクシャはリュシアンに視線を戻す。


「リュシアン、頼んだぞ」
「……分かっています」


 (恐らく、父さんは当主しか使えない魔法を使うのだろう。それは、陛下がこの場に姿を現した時点で何となく察していた。だから、俺たちをこの場から離れさせようとした。その魔法を俺たちに見せないために)

 小さく下唇を噛んだリュシアンは、息を吐くとジルベールに視線を移す。


「殿下、行きましょう」
「構わないが、父上は……」


 不安そうに見つめるジルベールに、国王が優しく微笑みかける。


「ジルベール、私はここで王としての務めを果たさないといけない」
「では、私も……」
「今のお前は国王ではない。だから、ここにいなくてもいい」
「っ!」


 強い言葉で拒絶され、驚いて言葉が出ないジルベールに、国王は悲しそうな表情で謝罪をする。


「すまない。だが、ここから先は王である者でしか果たせない務めなのだ。だから、皆と一緒に戻って欲しい」
「……分かり、ました」


 (父上が、そこまでおっしゃるのならば)

 悔し気に顔を歪めるジルベールの頭を国王は優しく撫でる。


「案ずるな。ここには『王国の剣と盾』。そして、騎士団長に公爵夫人もいる。だから、私は大丈夫だ」
「……はい」
「…………ジルベール殿下」
「分かっている、行こう」


 リュシアンに背中を押され、ジルベールはフリージア達と共にその場を後にした。


 ◇◇◇◇◇


 レクシャと共にフリージア達を見送ったディロイスは、戦意喪失のノルベルトの喉元に剣先を向ける。


「さぁ、貴様の企みもここで終わりだ。とっとと諦めろ」


 すると、ノルベルトが小さく呟く。


「俺が」
「は?」


 ゆっくりと顔を上げたノルベルトが訴えるように声を荒げる。


「俺が一体、何をしたっていうんだ!!」
「貴様、一体何を言っているんだ?」


 (貴様は、この場にいる全員から大切なものを奪い、国を混乱に陥れたではないか!)

 思わず眉を顰めるディロイスの隣で、レクシャは『これは、改竄魔法を使い過ぎた副作用で自身の認識が改竄されたから出た言葉なのだろう』とすぐに察した。

 そしてそれは、国王も同じだった。


「俺はただ、取り戻しただけだ!」


 (約300年前に奪われたものを取り戻しただけ!)


「宰相の地位は本来、俺のものだった! それを奪い返した! それだけだ!」


 7年間、ペトロート王国を我が物顔で好き勝手していたノルベルト・インベック。

 そんな彼は、約300年前に極めた栄華に憧れて、約300年前に負った罪を払拭したいと強く願っていた。
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