木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第67話 騎士の弟子入り

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「それで、転移先の登録に何を使うの?」
「それは……」


 思い出話に一頻り花を咲かせたメストは、辺りを見回して何かを見つけるとその場に座り込むと、足元に落ちていた落ち葉を1枚だけ拾う。


「落ち葉? それで良いの?」
「あぁ、さっきも言ったが転移先にあるものなら何でもいいんだ」


 そう言って立ち上がったメストは、懐中時計の中に描かれている魔法陣に拾った落ち葉を置く。
 すると、魔法陣が白く光り、魔法陣に置いていた落ち葉を小さな魔力の塊になった。
 そして、透明な魔石に魔力の塊が吸われると、無色透明の魔石が淡い緑色に変わった。


「これで登録完了だ」
「へぇ~、これだけでいつでもこの場所に転移出来るんだね。幼い頃のダリア嬢は、随分とメストのことを考えた物を贈っていたんだね」


 (今では美しい宝石と綺麗なドレスにしか興味が無いけど)

 メストと疎遠状態である今のダリアを思い出し、苦笑いを浮かべるシトリンを見て、少しだけ苦笑したメストが軽く頷く。


「そうだな。これを貰った時は『婚約者からの初めてのプレゼントだ!』ととても喜んだが、今は俺のためを想って贈ってくれたダリアに感謝している」


 (これを持っていたお陰で、辺境にいても王都に屋敷を構えているダリアのところに行きやすくなったし、王都から少し離れた場所にある実家にも顔を出すことが出来るから)


「そうなんだね。それにしても、婚約者の初めての誕生日プレゼントとして贈ったのが、貴重な非属性魔法が内包されている懐中時計型の魔道具なんて……さすが、公爵令嬢だね」
「まぁ、それだけ俺のことを考えて選んだってことだろう」
「そうだね~、それで確か、メストがダリア嬢に贈った初めての誕生日プレゼントって銀色のピンキーリングだったよね?」
「ま、まぁ……可愛い婚約者が頬を染めながら『メストが大人になっても使えるように考えて選びました!』なんて言われて贈られたら、それ相応のものを贈らないといけないと思ってな」


 (あの時のダリアの可愛らしい顔といったら……)

 幼い頃に贈った誕生日プレゼントをいじるシトリンに、恥ずかしそうな顔で不貞腐れるメスト。
 そんな2人の微笑ましい様子を少し離れた場所で聞いていた木こりは、顔を俯かせながら感情を押し殺すように強く握っていた手をそっと広げる。

 (そうよ、私の前にいる人たちは私の知っている人たちじゃない。分かっている、分かっているのよ……)

 湧き上がってくる醜い感情を吐き出そうと、木こりは大きく溜息をつくと無表情で顔を上げ、騎士の2人に向かって軽く咳払いをする。


「コホン。お2人とも、これ以上鍛錬とは関係の無い話をされるのならば、私は帰らせていただきます」


 ようやく、少し離れた場所に木こりがいることに気づいたメストは、魔道具を懐に入れると慌てて声をかける。


「で、では! 最後に1つだけ確認してもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか? というよりいい加減、敬語をやめてもらってもいいですか? 騎士が平民に敬語を使うなんて、はっきり言って気味が悪いですし外聞が悪くなりますよ」


 僅かに眉を顰める木こりに、メストは優しく微笑みかける。

 
「そういうことでしたら大丈夫です。ここには俺しか来ませんから、外聞を心配する必要はありません。それに、せっかくあなた様から回避技を教えていただけるのですから、出来れば敬語を使わせていただきたいのです」
「えっ? 僕は来ちゃダメなの? 僕も彼の回避技を教えて欲しかったんだけど」


 意外そうな顔をするシトリンに、メストはすかさず噛みつく。

 
「ダメに決まっているだろうが! 彼に回避技を教えてもらいたければ、まずは俺と同じように彼と手合わせをしろ」
「それは勘弁かな。僕、メスト程の剣術が上手いわけじゃ無いし」
「だろうな。お前の場合、剣と魔法を組み合わせた攻撃が得意だから」
「そういうこと」


 茶目っ気たっぷりにウインクをするシトリンに、再び小さく溜息をついた木こりは視線をメストにも戻した。


「そういうことでしたら……まぁ、あなた様と私だけの時だけ敬語を使って良いことにしましょう」
「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるメストを見て、小さく下唇を噛んだ木こりは無表情に戻すとメストに問い質す。


「それで、聞きたいことって何でしょうか?」
「鍛錬を行う時間帯です。俺は早朝と夜遅く、あと昼休憩……」
「メスト。昼休憩を鍛錬の時間に充てるのは副隊長として見過ごせないよ」


 目が笑っていないシトリンに、少しだけ肩を震わせたメストは渋々頷いた。

 
「……分かった。それでその……早朝と夜遅くでしたら、あなた様はどちらの時間がよろしいでしょうか?」
「そんなの、平民である私が騎士様の都合に合わせますから騎士様がお決めになられてください」
「ダメです。俺に騎士の仕事があるように、あなた様だって木こりの仕事があります。だから、ちゃんと都合の良い時間をおっしゃってください」
「…………」


 (全く、あなたって人は、こういうところは相変わらず紳士というか頑固というか……)

 真剣な表情で見つめてくるメストに、僅かに頬を緩めた木こりは少しだけ逡巡する。

 (瘴気の薄い場所とはいえ、魔物が現れないとは限らないから、魔物の出る可能性が高い夜はもちろん却下よね。だとしたら、早朝よね。毎朝、森を散歩しているステインに便乗すればいいだけだし)

 いつの間にか来ていたステインに目を向けた木こりは、無表情に戻すとメストに視線を戻した。
 

「それでは、早朝でお願いします。魔物が出る可能性も低いですし、その時間でしたら都合がつきますので」
「分かりました。では、早朝にお願いします」


 こうして、騎士は木こりに弟子入りすることになった。
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